【令和4年度版】相続放棄の費用と無駄をおさえる5つのポイント!
「相続放棄って自分でできるものだろうか、兄弟まとめたら安くなるのかな」
「専門家に依頼したら高そう...損はしたくないな」
「家族全員で相続放棄したら、空き家はどうなってしまうのだろう」
相続を希望しないとき、『相続放棄』という手段があります。
特定の財産のみを放棄することはできないため、すべての財産を放棄することになりますが、多額の負債などから身を守るためには有効な手段といえるでしょう。
誰でも不要なコストは避けたいもの。手続きが自分でできるものならば、高そうな専門家に頼まずに自分で行いたいですし、複数人でまとめられるなら一緒に手続きしたいですよね。
相続放棄にかかる費用は、自分でするか、専門家に依頼するかで大きく異なりますが、大よその費用は下記になります。
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費用目安 |
内訳目安 |
自分でする場合
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3~5千円
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印紙代:800円
切手代:500円程度
被相続人の住民票除票又は戸籍附票:300円程度
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本:750円
|
司法書士へ依頼
|
3~5万円
|
・相談料:0円〜5千円/60分
・申述書作成代理費用:3〜6千円程度
(戸籍謄本取得・実費含む)
・代理手数料:2~3万円程度
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弁護士へ依頼
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5~10万円
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・相談料:0円〜1万円/60分
・申述書作成代理費用:5千円〜1万円程度(戸籍謄本取得・実費含む)
・代理手数料:5~10万円程度
・成功報酬:なし
|
本記事では、『相続放棄の費用』の内訳の他、専門家に依頼する場合などケースごとの『追加費用』を解説しています。
さらに、『無駄を省くためにおさえるべきポイント』についても紹介しているため、自分の状況にあわせた手続き方法をとることができます。
後から「相続放棄の手続きの方法を間違えた。もっと費用がかからない方法があったのに...」と後悔したくない方はぜひ最後までお読みください。
遺産相続の考え方を知ることで、相続についての理解は深まります。遺産相続の仕組みや流れについては「【プロ解説】遺産相続の全手続き|死亡届~相続税還付まで徹底解説」で詳しく解説しています。
自分で相続放棄する場合の費用は3~5千円
自分で相続放棄の手続きを行う場合、費用は3〜5千円程度で、手順さえおさえれば自分で手続きを行うことは可能です。
しかし、あらかじめ流れやデメリットをおさえておかなければ、放棄ができず後悔することも。
相続放棄の手続きをする前に、3つのポイントをおさえておきましょう。
・手続きの内訳
・手続きの流れ
・自分で行うデメリット
手続きの内訳
自分で相続放棄の手続きを行う場合、費用は、3~5千円程度が目安です。
印紙や切手代、戸籍謄本などの書類を取りよせた時に実際にかかってくる費用で、以下のようになります。
書類 |
費用 |
相続放棄申述書のための印紙代 |
800円
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郵便切手代
(家庭裁判所によって異なる)
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500円程度
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被相続人の住民票除票又は戸籍附票
(市区町村によって異なる)
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300円程度
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被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本 |
750円
|
上記は最小限の費用で、被相続人の状況によってとりよせる戸籍謄本の数は変わってきます。
例えば、被相続人が結婚・離婚・再婚をしていた場合は、必要な戸籍謄本が増えて1万円を超えてしまうこともありますのでご注意ください。
手続きの流れ
自分で相続放棄を行う場合、手続きを行えるかどうか、まずはその流れを知ることはとても大切です。
相続人が相続放棄できる期間を『熟慮(じゅくりょ)期間』といい、その期限である3ヶ月以内に手続きを行わなければなりません。
相続放棄の手続きが完了するまでには6つの手順があるため、段取りよく行わなければ間に合わない場合もありますのでご注意ください。
手続きは下記のような流れで行うと、時間の無駄を省けてスムーズです。
1.財産調査を行う
2.相続放棄にかかる費用を準備
3.相続放棄に必要な書類を用意
4.家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
5.相続放棄申立後に照会書が届く
6.許可されれば相続放棄申述受理通知書が届く
手続き書類の提出先は、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所となります。
家庭裁判所ならどこでもいいわけではありませんので注意しましょう。
家庭裁判所に書類を提出した後は、家庭裁判所から「照会書」という書類が届き、提出書類に不備があると、この照会書で不備の補正や質疑への回答が求められます。
回答を返信し、相続放棄が晴れて認められれば相続放棄申述受理通知書が届きます。
なお、相続放棄の必要書類は、基本的な書類の他に、条件や相続人と相続を放棄する人の続柄によって、追加書類が必要です。
入手までに時間がかかる場合もあるため、できるだけ早めに請求しておくと安心です。
相続順位ごとの必要書類・必要書類の入手方法・相続放棄申述書の書き方については「【相続放棄の手続きと費用】知っておくべき7つのポイントと注意点!」の記事をご覧ください。
自分で行うデメリット
自分で相続放棄の手続きを行う際は、失敗して受理されず、希望しない借金を相続してしまわないよう細心の注意をしなければなりません。
放棄が受理されなければ一生に関わりますので、あらかじめ相続放棄を自分で行うデメリットやリスクについて知っておく必要があります。
重要度の高い順番に3つのデメリットについてご紹介します。
1.相続放棄には3カ月の時効がある
2.失敗が許されない
3.誤った行動をして相続放棄が認められないケースがある
相続放棄には3カ月の時効がある
「手続きの流れ」で先述したとおり、相続放棄の期限は原則3ヶ月。
3ヶ月を過ぎたあとは、よほどの事情がないかぎり、相続放棄をおこなうことが困難です。
その場合は専門家に力を借りる必要がありますが、手続きは容易ではないため通常の手続きよりもさらに費用がかかってしまうことに。
自分で相続放棄の手続きを行うことができればその費用は安くすみますが、手続きが間に合わず放棄できなかったなら何の意味もありません。
確実に手続きできるよう、流れを知ったうえでスケジュールをたてておきましょう。
失敗が許されない
相続放棄は一度失敗すると、原則的に再度手続きを行うことができなくなります。
自分で行った場合は書類に不備がある場合が多いものですが
・裁判所から指定された書類を追加で提出しない場合
・裁判所からの質疑などを放置した場合
などは、相続放棄をすることが認められません。
不備に対応せずに期限切れ…ということにならないように、手続きは正確に行うことが大切です。
誤った行動をして相続放棄が認められないケースがある
相続放棄をしたくとも、すでに相続したものとみなされ、放棄を認められないケースもあります。
相続人が知らず知らずのうちにとった行動で、『単純承認』が成り立ってしまっている場合です。
例えば、遺産を使ってしまったり、名義を変更したりすると、放棄する意思があっても相続したことになり相続放棄を行うことができません。
これは、被相続人に代わって借金の返済の場合も同じで、返済すれば負の財産を相続したとみなされてしまいます。
形見なら問題ないとされる場合もありますが、これはあくまで可能性ですので、相続放棄を検討している場合は、遺産には一切手をつけないことがオススメです。
専門家に相続放棄を依頼する場合の費用は3~10万円
専門家に依頼する費用は3〜10万円程度が目安で、どの専門家を選ぶかで異なります。
相続放棄をできる専門家は司法書士と弁護士のどちらかです。
司法書士に比べ、弁護士のほうがすべての料金が割高になっています。
利用する事務所によってその費用は異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。
内容 |
司法書士 |
弁護士 |
相談料 |
0円〜5千円/60分
|
0円〜1万円/60分
|
申述書作成代理費用
(戸籍謄本取得・実費含む)
|
3〜6千円程度
|
5千円〜1万円程度
|
代理手数料 |
2~3万円程度
|
5~10万円程度
|
成功報酬:なし |
- |
なし |
専門家の効率的な選び方
確実に相続を放棄したいなら、専門家に依頼することがオススメです。
自分で手続きするのは、慣れない作業で思っている以上にストレスがかかるもの。
司法書士と弁護士どちらに依頼すべきかについては、費用だけでなく『ご自身のおかれている状況』によって判断する必要があります。
司法書士と弁護士では請け負える業務の範囲が異なりますので、その範囲を知ることで自分に必要な専門家を選ぶことができるでしょう。
ポイントは、相続に関するトラブルが予想されるかどうかです。
放棄までに時間がない場合は司法書士
相続放棄における司法書士の業務は『書類の作成』です。
以下が司法書士に頼むほうがよいケースです
- ・相続放棄の期限が迫っているような場合
- ・相続財産管理人の選任申し立てを一緒に依頼したい場合
- ・不動産登記がある場合
- ・相続人間の関係性がきわめて円満かつ相続財産の構成もシンプルで、トラブルの可能性がまずないと言える状況の場合
司法書士は弁護士のように手続きの代理権はありませんが、書類作成や手間な遠方の戸籍謄本の取得を任せることが可能です。
司法書士に頼めばスムーズに手続きできるため、期限が迫っていても放棄できる可能性はぐっとあがります。
特に3ヶ月の期限内に手続きが行えない可能性がある場合は、司法書士への依頼をオススメします。
ただし、相続人同士関係が良好で債権者などのトラブルがないことがポイントです。
なお、司法書士に依頼した場合でも、放棄を申し立てるのはあくまで本人で、書類にはすべて依頼者(申述人)本人の署名・押印が必要となります。
放棄によるトラブルが予想されるなら弁護士
相続放棄における弁護士の業務は『相続放棄手続きの代理』です。
司法書士ができる業務に加え、弁護士は相続人の代理人となることができます。
以下が弁護士に頼むほうがよいケースです。
- ・相続に関する手続きを完全に任せたい
- ・時間がない中で急いで手続きを行いたい
- ・相続人が債権者への対応が必要
特に、相続財産に多額の借金がある場合や相続人同士でトラブルが起きている場合は、弁護士へ依頼することをオススメします。
例えば、放棄する財産に闇金などから借金があり、執拗な催促をせまられたとしても、「弁護士に問い合わせてほしい」と対応してもらうことが可能です。
「トラブルがおきても対処してもらえる」という安心感はメリットが大きいでしょう。
また、裁判所での手続き全般やトラブルにおける訴訟問題について、一貫して代理人を務めることが可能です。
司法書士に比べてやや費用が割高ですが、トラブルや不測の事態が起こっても対応できるため、結局トータルでは司法書士に依頼したときと変わらなくなる場合もあります。
条件を満たせば法テラスで無料相談ができる
弁護士や司法書士の費用を抑える方法として、『法テラス』を利用するのも1つの方法です。
法テラスの『民事法律扶助制度』をつかえば、面談や電話などで弁護士・司法書士に無料で法律相談を受けることができます。
法テラスの相続放棄の費用に決まりはありませんが、目安としては4万3千円程度となり内訳は下記のようになります。
内容 |
法テラス
弁護士
|
相談料 |
無料
|
申述書作成代理費用
(戸籍謄本取得・実費含む)
|
1万円程度
|
着手金 |
3万3千円程度
|
成功報酬:なし |
- |
着手金や実費についても法テラスであれば、月額5千〜1万円程度の分割払いが可能です。
利用できる人は限られる
法テラスを利用するには『収入基準』と『資産基準』という2つの条件があります。
条件 |
額 |
収入基準 |
手取月収額18万2千円以下 |
資産基準 |
預貯金などの資産額が180万円以下 |
法テラスは国が設立した機関で、経済的に余裕のない人が、トラブル発生時に無料または安価に弁護士や司法書士などによる法的な支援を受けられるようにとの目的です。
法テラスを利用できるのは、上記両方を満たしている方となり、収入や資産が多い方は利用できません。
詳しい条件については詳しくは、「法テラスHP」をご覧ください。
注意すること
相続放棄の費用を捻出できない場合は法テラスを利用するしかありませんが、通常の弁護士に依頼する費用とそこまで大きな違いがあるわけではありません。
しかし、法テラスで相続放棄を行う場合には次のようなデメリットがあります。
- ・審査が通るまでに時間がかかる
- ・専門家を自由に選べない
- ・経験の浅い専門家が多い
法テラスを利用する場合は、デメリットに注意しながら、コストパフォーマンスとの兼ね合いを考えましょう。
特に相続放棄の期限が迫っているときには、時間がかかる法テラスは利用せず、通常の司法書士や弁護士に依頼することをオススメします。
行政書士や税理士は手続きができない
相続放棄の手続きを行えるのは弁護士か司法書士のみです。
相続放棄の手続きを行政書士や税理士などの専門家が行うことは法律で禁じられています。
相続問題で行政書士ができることは、遺言書の作成や預金の名義変更手続きなどで、放棄のための相談をうけたり、相続放棄申述書等を作成したりすることはできません。
また相続問題で税理士ができることは、相続税の計算・申告です。
行政書士や税理士は、相続放棄に関する業務はできないのです。
財産調査をする場合の費用は10~30万円
相続放棄の手続きを行う前に、本当に相続放棄を行うべきかどうかベストな判断ができるように、財産調査を行うことをオススメします。
相続放棄をすると撤回はできません。
放棄後にプラスの財産が発覚して後悔しないためにも、手続き前には財産調査を行い、相続財産すべてを把握しておきましょう。
放棄のための申述書には財産を記載する欄がありますし、仮に相続する場合でも遺産分割協議書作成のために財産一覧が必要となるため、財産調査を行うことに損はありません。
なお、調べる財産は以下のようなものとなります。
プラスの財産 |
マイナスの財産 |
・現金、預貯金
・有価証券(株券、小切手、国債など)
・不動産(土地、建物、借家権、借地権など)
・自動車
・家財道具一式
・収集品(宝石、貴金属、骨董品など)
・著作権
・工業所有権(特許権、商標権など)
|
・借金
・保障債務(連帯保証人など)
・借入金(住宅ローン、車のローンなど)
・未払いの税金
・未払いの医療費
・クレジットカードの未払い分
・損害賠償の支払い
|
財産調査を自分で行うこともできますが、以下のような財産を一度に確認する方法はなく、調べ上げるにはひたすら地道な調査と時間が必要です。
財産調査を行った後は、相続を放棄する判断ができるように『財産目録』を作ることがおススメです。財産目録については「相続をよりスムーズに!「財産目録」の目的と知るべき3つのメリット」の記事をご覧ください。
財産調査の内訳
財産調査を司法書士や弁護士に依頼する費用は10〜30万円が目安です。
事務処理のための実費は、財産の種類によって異なります。
実費は数十円〜数百円程度ですが、相続財産調査の資料は非常に多く必要で、合計すると数万円くらいになる場合もあります。
内容 |
費用 |
弁護士や司法書士への報酬 |
10~30万円程度 |
事務処理のための実費 |
・戸籍などを取得する際の請求費
・登記情報を取得する際の取得代
・不動産一覧表(名寄帳)や預貯金の取引履歴を取得するための切手代
などで、それぞれが数十円~数百円程度
|
財産調査については行政書士に数万円程度で依頼することもできますが、不動産の登記や名義変更、相続放棄の手続きは行うことができません。
相続財産に不動産が含まれる場合や相続放棄を専門家に依頼する場合は、はじめから司法書士や弁護士に選ぶことをオススメします。
財産調査をしたほうがよいケース
以下が相続放棄を行う前に財産調査をしたほうがよいケースです。
・相続放棄すべきか分かならい
・財産がどれだけあるのか不明
・借金がいくらあるのか不明
「負債しかない」と思っていても、相続放棄後に預金口座などの予定外の財産がみつかり、相続をしておけばよかったと後悔するかもしれません。
自宅が被相続人名義だったことを知らず、相続放棄したことで出ていかなくてはならなくなったというケースもあります。
財産調査を行わない場合は、調査を行わずに相続放棄をするリスクを理解しておくことが重要です。
複数人で相続放棄を行う場合
相続放棄は、兄弟や配偶者など複数人でまとめて手続きすることが可能です。
相続放棄は兄弟など全員が同時に行う必要はなく、熟慮期間内なら相続人それぞれのタイミングで手続きを行うことができます。
後から申し立てを行う場合は、他の相続人によってすでに提出されている書類を再度提出する必要はありません。
ここでは、複数人で相続放棄を行う場合のメリットや注意について紹介します。
費用は割安になる
相続放棄の手続きを複数人でまとめて行う場合、費用を削減することができます。
具体的には以下のようなメリットがあります。
・戸籍謄本など共通する書類は1通でよい
・放棄手続きを専門家にまとめて依頼すると料金がお得になる
注意すること
相続人がまとめて相続放棄をする場合、特に以下のことに注意しなければなりません。
異なる相続順位の人とは手続きをまとめることはできない
まとめて手続きできるのは相続順位が同じ人のみです。
後順位の相続人が相続放棄の申立てができるのは、先順位である相続人の放棄の受理後となります。相続順位が異なれば、一緒に手続きを行うことはできないのです。
例えば、相続第1順位である配偶者・子と相続第2順位である被相続人の父母は、まとめて手続きすることはできません。
次順位の相続人に相続権が移る
相続人の相続放棄が受理されると、次順位の相続人に相続権が移ります。
しかし、次順位の相続人に裁判所から自動的に通知が送られるということはありません。
「知らなかった」と次順位の相続人とトラブルにならないためにも、放棄する旨を事前に知らせておく方が親切でしょう。
不動産などは次の管理者が決まるまで管理義務が残る
遺産に空き家などの不動産や山などがある場合は、相続放棄をしても注意が必要です。
民法上、放棄した場合であっても「次の相続人が管理を始めるまで」管理義務が定められています。
相続人全員が相続を放棄した場合、家庭裁判所によって選任された相続財産管理人が管理を始めるまで、相続人全員が遺産の管理義務を負うことになります。
管理義務については後述の「空き家を相続放棄する場合」で詳しく解説しています。
空き家を相続放棄する場合
相続放棄後も管理義務は残る
相続放棄を行っても、空き家や不動産などの管理は誰かしらが行わなければなりません。
ここでは、管理義務のある人やその費用についてご紹介していきます。
管理義務のある人
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費用がかかるケース
|
次順位の相続人が相続財産の管理を開始していない相続放棄者
(次の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで)
|
・近隣に迷惑をかけないよう補強をしたり、手入れをしたりして管理するとき
・管理義務をおこたり損害賠償請求されたとき
・『特定空家等』に指定され、改善や代執行が行われたとき
|
管理義務のある人
民法では、相続を放棄しても「次の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで」管理義務が及ぶと規定されています。
管理義務とは、放置すると第三者に損害が生じる危険性があると分かっているようなものについて対処する義務のことをいいます。
例えば、老朽化した塀が倒壊しそうであれば、倒壊してケガ人が出ないように塀を補強したり、新しいものにしたりするなどして対応しなければなりません。
管理義務は、次順位の相続人に財産を引き渡せばなくなりますが、相続放棄したことを次の相続人に知らせなかった場合は、相続放棄をした人の義務となります。
管理義務から逃れるためには、次の相続人に「私は相続放棄をしました。だからあなたが相続人です」ということを知らせなければならないのです。
費用がかかるケース
相続放棄を行った場合、固定資産税の納税義務はありませんが、管理義務によって費用がかかる場合があります。
相続放棄後の管理義務で費用がかかるのは以下の3つのようなケースです。
・近隣に迷惑をかけないよう補強をしたり、手入れをしたりして管理する
・管理義務をおこたり損害賠償請求される
・空き家が「特定空家等」に指定され、改善や代執行が行われる
例えば、老朽化して倒壊するおそれがある空き家であれば、補強工事をしなければなりませんし、生い茂った雑草により害虫が発生して近隣に迷惑をかけるのであれば、除草・駆除しなければなりません。
もし管理を怠り、空き家が倒壊するなどして第三者に被害があった場合は、第三者から損害賠償を請求される可能性もあります。
なお、特定空家に指定されたときの費用は後述する「空き家を解体する費用相場は3~5万円/坪」でご紹介します。
空き家を解体する費用相場は4~5万円/坪
空き家を解体する費用相場は4~5万円/坪で、30坪の空き家の場合、その費用は120~150万円となります。
解体費用は坪数と家の構造で決まりますが、カーポート撤去、ブロック塀撤去がある場合や立地条件・庭の状況によってさらに費用が追加されることになります。
構造 |
費用 |
木造 |
4~5万円/坪 |
軽量鉄骨造 |
6~7万円/坪 |
鉄筋コンクリート造 |
7~8万円/坪 |
相続放棄後に空き家の解体が必要になる場合は、市町村によって空き家が『特定空家等』に指定されたときで、以下のような状態のものを指します。
・著しく保安上危険となるおそれのある状態
・著しく衛生上有害となるおそれのある状態
・適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
・その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
空家等対策特別措置法では、管理義務のある空き家を適正に管理をしない所有者に対して、市町村は行政指導を行い、改善されなかった場合は命令を出すことができます。
・改善のための「助言・指導」が行われる
・改善が見られなければ「勧告」が行われる
・さらに応じないときは「命令」が下される
もし、指定される期間内に改善がみられない場合は、解体などが行政代執行で行われることもあります。
その場合、解体にかかる費用はすべて管理者に請求がいくことになるため注意してください。
勝手に解体すると相続放棄ができなくなる
不要な空き家だからといって解体すると相続放棄ができなくなります。
解体といえども遺産に手をつけたことになるため、相続したことになってしまいます。
相続放棄を考えている場合は、空き家だけにかぎらずすべての遺産について取り扱うことは控えましょう。
管理義務から逃れ費用を抑える方法
管理義務によって余計な費用がかからないように、そもそも管理義務を負わないようにすることも可能です。
管理義務から逃れる方法としては2つのケースがあり、一般的には以下のような順となります。
管理義務では最悪の場合、解体費用や怠ったことで賠償責任の費用がかかります。
下記の費用とおかれている状況と照らし合わせて、メリットのある方を選択しましょう。
「不要な空き家を管理したくない」
「特定空き家等に指定されて、行政から解体費用を請求されたくない」
という方は、早め早めに手を打っておきましょう。
相続財産管理人の選任を申し立てる
『相続財産管理人』とは、相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄や限定承認した場合等に、相続人に代わって相続財産を管理する人のことをさします。
もし相続放棄後、空き家に管理義務があったとしても、家庭裁判所へ申し立てることで相続財産管理人が選任され、管理が開始されれば、管理義務から逃れることが可能です。
ただし、相続財産管理人が選任されるまでは、どんなに短く見積もっても1年程度はかかるため、その間は管理義務があります。
相続財産管理人の費用は20~100万円
相続財産管理人を選任するにあたり、考慮すべき2つの費用があります。
必須費用
相続財産管理人が選任された場合に必ずかかる費用です。
以下のような内訳となります。
内容 |
費用 |
収入印紙代 |
800円 |
予納郵券 |
800~1,000円 |
戸籍謄本等の取得費用 |
450~750円 |
官報公告料 |
4,230円 |
予納金
『予納金』とは相続財産管理人への報酬や管理の費用をまかなうためのものです。
必須費用とは異なり、予納金は被相続人の財産によってその金額が変わってきます。
放棄した預貯金が多いほど、管理する費用が確保されていると考えることができるため、
預貯金が多ければ多いほど予納金は少なくなります。
予納金の金額は裁判所によって決められ、裁判所によってばらつきがあります。
例えば、東京家庭裁判所では原則100万円が必要となりますが、地方裁判所では20万円から60万円程度となります。
なお、予納金は後から追加で請求されることはありません。
例えば、価値が低い不動産が売却できなかったとしても、費用は追加で請求されることはないのです。
相続財産管理人でも処分できず、引き継ぎ者がいない不動産については、最終的に国に帰属することとなります。
逆にもし高額で売却されたとしても、予納金が還付されることはないということも覚えておきましょう。
相続放棄をせず、相続してから売却や寄付をする
ある程度価値のある不動産については、相続放棄せずにいったん相続してから売却に出す方法、あるいはリフォーム後に賃貸にだすといった方法もあります。
また、自治体によっては、自治体ごとに設けられた条件を満たせば、無償で引き取ってくれる場合があります。
寄付を考えている場合、まずは役所の財政課などに相続した土地や家を引き取ってもらえる術がないか相談してみましょう。
なお、令和5年4月27日から施行される相続土地国庫帰属制度では、相続した土地を国に納めることができるようになります。
ただし、土地を国に納めるためには、土壌汚染や埋設物、建造物がなく、担保になっていないことなどが条件で、空き家については解体しなければなりません。
また、以後10年間に必要とされる一般的な管理費用20~80万円程度を負担金として納める必要がありますが、詳細な負担金の額は今後定められる予定です。
法改正で令和5年4月からは占有している人に限定
令和5年4月1日より改正された民法が適用され、相続放棄の管理義務が変更されます。
変更となるポイントは以下のとおりです。
|
現行 |
改正後 |
義務の対象 |
次順位の相続人が相続財産の管理を開始していない相続放棄者 |
相続財産に属する財産を現に占有している相続放棄者 |
義務 |
管理義務 |
保存義務 |
改正後、例えば、亡くなった方の配偶者と子供が相続放棄を行い相続人となったご兄弟がいた場合、相続した建物に実際に居住していなければ占有していないことになるので、その建物や土地にたいし義務を負わないことになるのです。
専門家に頼むか迷った時は無料相談がオススメ
相続放棄をするためにはたくさんの検討事項があり、どうすればよいか迷いやすいもの。
だからこそ、専門家に相談し、ご自身の状況にあったベストな方法を知ることがオススメです。
もし、お持ちの資産が一定の基準以下の場合は「法テラス」の無料相談が可能です。専門家に相談して、スムーズな方法を示してもらうのもよいでしょう。
なお、法テラスでは、基準以上の場合、相談料(1件5,500円)をご負担となります。
相続についてのご相談は『やさしい相続』でも無料で承っていますので、お気軽にご連絡下さい。24時間365日無料で専門オペレーターが対応致します。
まとめ
相続放棄の費用について解説しましたが、まとめると次のとおりです。
1.相続放棄にかかる費用は、自分で手続きするか、専門家に依頼するかで大きく異なる
|
費用目安 |
内訳目安 |
自分でする場合
|
3~5千円
|
印紙代:800円
切手代:500円程度
被相続人の住民票除票又は戸籍附票:300円程度
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本:750円
|
司法書士へ依頼
|
3~5万円
|
・相談料:0円〜5千円/60分
・申述書作成代理費用:3〜6千円程度
(戸籍謄本取得・実費含む)
・代理手数料:2~3万円程度
|
弁護士へ依頼
|
5~10万円
|
・相談料:0円〜1万円/60分
・申述書作成代理費用:5千円〜1万円程度(戸籍謄本取得・実費含む)
・代理手数料:5~10万円程度
・成功報酬:なし
|
司法書士か弁護士のどちらを選ぶかは、相続に関するトラブルが予想されるかどうかで決めるとよい。
2.相続放棄前に財産調査を行うべき3つのケースとその費用
・相続放棄は撤回ができない
・放棄後にプラスの財産が発覚して後悔しないためにも、手続き前には財産調査を行い、相続財産すべてを把握しておくことがオススメ
財産調査をしたほうがよいケース |
費用 |
・相続放棄すべきか分かならい
・財産がどれだけあるのか不明
・借金がいくらあるのか不明
|
10~30万円程度 |
3.複数人で相続放棄を行う場合は割安になる
相続放棄は、兄弟や配偶者など複数人でまとめて手続きすることが可能。
4.相続放棄後も管理義務で費用がかかる場合がある
相続放棄後も、次の相続人が相続財産の管理を始めることができるまで、空き家や不動産などを管理しなけれなならない。
費用がかかるケース
|
・近隣に迷惑をかけないよう補強をしたり、手入れをしたりして管理するとき
・管理義務をおこたり損害賠償請求されたとき
・『特定空家等』に指定され、改善や代執行が行われたとき
(解体費用:相場4~5万円/坪)
|
5.管理義務から逃れれば、費用を抑えることができる場合がある
相続放棄後、不動産などの管理義務から逃れる方法は2つ。
管理義務で予想される費用と比べてメリットのある方を選択することがオススメ。
6.法改正で令和5年4月からは占有している人に限定
令和5年4月1日より改正された民法が適用され、相続放棄の管理義務が変更される。
|
現行 |
改正後 |
義務の対象 |
次順位の相続人が相続財産の管理を開始していない相続放棄者 |
相続財産に属する財産を現に占有している相続放棄者 |
義務 |
管理義務 |
保存義務 |
相続放棄を行う際の費用は、経験豊富な専門のアドバイザーに相談すると安心です。
ぜひ相談無料の『やさしい相続』へお気軽にご相談ください。
相続放棄の手続き自体の相場は決まっていますが、相続放棄を選択する状況は人それぞれ異なります。
私どもでは皆様の状況を知った上で、相続放棄にかかる費用について、アドバイスをしております。
この記事により、相続放棄にかかる費用の全体像を把握していただければ嬉しく思います。
【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール