公正証書遺言<遺留分請求!遺留分分配表とトラブル回避の対策法5つ
「公正証書遺言があって遺留分請求されたら、どっちが優先されるの?」
「遺留分侵害している公正証書遺言は無効にならないの?」
公正証書遺言が作成していたとしても、遺留分請求される可能性はあります。
※遺留分とは正しくは『遺留分侵害額請求』といい、該当する法定相続人が、定められた最低限遺産を受け取れる権利のことをいいます。
「 【遺留分は任意請求】不公平な遺言書に打ち勝つ5つの知識を徹底解説」では、遺留分の請求までの流れやケース別の事例などを紹介していますので、必ず確認しておきましょう。
※公正証書遺言とは、2名以上の証人が立ち会い、公正役場で公証人が作成する遺言書のことです。
公正証書の書き方や作成時にかかる費用については、「 「公正証書遺言」は1番おすすめの遺言形式!費用・効力と書き方を解説」で、詳しく紹介しています。
しかし、あくまで遺留分請求は任意であるため、事前対策することで請求を防ぐことも可能です。
民法第1042条より
1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第1項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
・直系尊属のみが相続人である場合 3分の1
・前号に掲げる場合以外の場合 2分の1
2.相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第900条及び第901条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
本記事では、この定められた法律を踏まえて、法を犯さず、問題が起きない以下5つの対策法を紹介しながら、確認するべき2つのポイントや相談先も解説します。
【遺留分侵害額請求に備えた対策5つ】
1.相手に遺留分相当の金額を相続させる
2.付言事項を公正証書遺言に記載する
3.事前に遺留分を放棄してもらう
4.遺留分侵害額請求を想定して、資金を用意しておく
5.遺留分請求しそうな相手を相続人から廃除する
遺留分侵害をしている公正証書遺言であっても、法律上は問題なく無効にはなりません。
その代わり対策をしていなければ、侵害された側から遺留分請求される可能性が高まります。
本記事を最後まで読めば、相手に公正証書遺言の内容を納得してもらいながら、万が一、遺留分の請求をされたときにも落ち着いて対処できるようになりますので、ぜひお読みください。
公正証書遺言があっても遺留分請求はされる可能性がある
公正証書遺言が正しく作成していたとしても、遺留分請求される可能性が消えるわけではありません。
遺留分は侵害されることを想定して、遺産が少なかった相続人への救済措置として作られたため、相続人に遺産は渡さないという内容を記載していても、無効にはならないのです。
公正証書遺言に限らず、遺言は法定相続分よりは優先されるのが基本です。
しかし、遺留分は遺言よりも優先されますので、覚えておくようにしましょう。
【遺留分の優先順】
法定相続分<公正証書遺言を含む全ての遺言書<遺留分
遺留分に該当する相続人と割合
遺留分請求はどのような遺言があったとしても、被相続人の配偶者、直系卑属である子ども・孫、直系尊属の父母や祖父母が相続人に対して主張できます。
【遺留分の民法で定められた法定相続人】
相続人例 |
相続財産に対する遺留分の割合 |
各相続人に対する割当 |
配偶者 |
その他の相続人 |
配偶者のみ |
1/2 |
1/2 |
|
配偶者・子ども |
1/2 |
1/4 |
子ども:1/4 |
配偶者・故人の父母 |
1/2 |
1/3 |
父母:1/6 |
配偶者・故人の兄弟姉妹 |
1/2 |
1/2 |
兄弟姉妹:なし |
子どものみ |
1/2 |
|
子ども:1/2 |
父母のみ |
1/3 |
|
父母:1/3 |
兄弟姉妹のみ |
なし |
|
兄弟姉妹:なし |
上記の表にあるとおり、被相続人の兄弟姉妹や甥・姪には法定相続分とは違い、遺留分請求の権利は認められません。
勘違いしてしまう方も多く、「自分には権利がある!」と主張してくる可能性もありますので、認められない理由も把握しておくと安心です。
「 兄弟に遺留分がない4つの理由&確実に遺産をもらう2つの方法を解説」では、認められない4つの理由を詳しく紹介していますので、参考にしてくださいね。
【トラブルを未然に回避!】遺留分侵害額請求に備えた対策5つ
そもそも最初から遺留分請求をされないために、以下の対策を行っておけばトラブルを未然に回避できます。
【遺留分侵害請求に備えた対策法5つ】
1.相手に遺留分相当の金額を相続させる
2.付言事項を公正証書遺言に記載する
3.事前に遺留分を放棄してもらう
4.遺留分侵害額請求を想定して、資金を用意しておく
5.遺留分請求しそうな相手を相続人から廃除する
公正証書遺言は法定相続分での有効性はありますが、遺留分の前では絶対ではありません。
上記の対策を行うことで、トラブルを未然に防ぐとともに、本当に渡したい相続人も安心して相続ができるようにもなります。
ここでは行いやすくオススメな順番に紹介しますので、ぜひ参考にしてくださいね。
1.相手に遺留分相当の金額を相続させる
遺留分侵害額請求を想定して、請求される金額分を予め相続人に相続させることが何よりも問題が起こりません。
仮に遺留分請求があったとしても、遺留分相当の額を相続されているため、主張を無効またはその分を減額できるようになります。
たとえば、長男に遺産全額1,000万円を相続させたくても、遺留分問題を避けるため、次男に遺産全額の1/2である500万円を相続させるといいでしょう。
また、金銭の相続ではなく、特定の相続人に不動産のみを相続させた場合でも、遺留分請求があったら、必ず金銭での支払いが求められます。
不動産を現金化しなければいけないため、時間もかかり、相続人が不動産売買で不利益な状況になる可能性もあるのです。
遺言の内容によって相続人同士の関係性を悪化させないようにするためにも、円満な内容にするようにしましょう。
2.付言事項を公正証書遺言に記載する
法的な効力はありませんが、公正証書遺言に付言事項(ふげんじこう)を記載して、相手に遺留分請求を考慮するようメッセージを残しましょう。
付言事項とは、遺言書に書けるメッセージのことです。
これを利用して、「遺産の分配法・分配を決めた理由」を記載しておきましょう。
相続人に対して、どんな思いで分配法を決めたのかを書いておけば、遺留分を請求される可能性も低くなります。
【遺留分請求を考慮した伝え方例】
・Aに対しては結婚時に土地を与えたので、遺産はBに渡すことを許して欲しい。
・Aに全額渡すことを理解してほしい。兄弟仲良く暮らしてほしいと切に願っている。
・Aはすでに別で生活しているが、Bは今後もこの家で生活をするため、遺産はBの方に多く渡したい。2人とも大切であるが、理解してほしい。
上記のように付言事項には、正解や形式もありません。
思いのまま伝えれば、請求を回避できる可能性が高まりますので、ぜひ実践してみてくださいね。
3.事前に遺留分を放棄してもらう
遺産を渡さないことに納得してもらえている、または明確な理由がある場合、遺留分の放棄をしてもらいましょう。
遺留分放棄は、被相続人ができるわけではなく、長男が自分自身で遺留分放棄の手続きを行わなければいけません。
手続きはまず、家庭裁判所の許可が必要です。許可が下りる要件は、以下のようなことがあげられます。
・遺留分放棄する人の自ら意思であること。
・遺留分放棄の必要性や合理性が認められている。
・遺留分放棄する人に相応の見返りを与えている。
上記のように、無理矢理放棄するように促すことが発覚すれば、裁判所は遺留分放棄を認めません。
遺留分放棄してもらえれば、絶対に遺留分請求はできませんが、簡単に行えることではないので注意しておきましょう。
4.遺留分侵害額請求を想定して、資金を用意しておく
どうしても特定の相続人に遺産を渡したくない場合、相続とは別で遺留分請求分の資金を用意しておいてください。
資金は、一生確保しておく必要はありません。
時効まで保管しておけば、請求されたとしても無効を主張できますので、覚えておきましょう。
時効については、「遺留分は最長10年以内に請求の可能性がある」で詳しく紹介していますので、必ず確認してくださいね。
また、資金の残し方としては、生命保険がオススメです。
被相続人が亡くなったときに、指定の受取人が金銭を受け取ることができます。
万が一、別の相続人から請求されたとしても金銭での受け取りなので、すぐに支払えますよ。
5.遺留分請求しそうな相手を相続人から廃除する
遺留分を請求しそうな相続人を、予め相続対象から廃除すれば、問題も起こらずスムーズに相続できます。
しかし、廃除できるのは以下のような理由があった場合のみであるため、注意が必要です。
・被相続人に虐待や侮辱をした
・犯罪を犯したことがある
・被相続人の財産を無断処分や浪費を行った
客観的にみても家族としての信頼関係の崩壊がひどく、遺留分を剥奪されても仕方がない場合に限ります。
さらに、廃除は家庭裁判所に申し立て、家庭裁判所が認めなければ行えません。
「被相続人と仲が悪かった」「一方的な侮辱行為ではなく、ケンカをした」という場合には、認められない可能性が高いので注意してくださいね。
遺留分請求される場合の知っておきたい2つのポイント
実際に遺留分請求される場合、いつまでにどんな形で請求が来るのかといった、以下2つのポイントを順番に紹介します。
【遺留分請求される場合の知っておきたい2つのポイント】
1.遺留分は最長10年以内に請求の可能性がある
2.内容証明郵便で送られてくることが一般的
遺留分請求がいつ来るのか分からず、怯えて生活していては、かなりのストレスになってしまいます。
期間や方法を知っておけば、精神的にも楽になりますので、ぜひ覚えておいてくださいね。
遺留分は最長10年以内に請求の可能性がある
上記で簡単に紹介しましたが、遺留分には時効があり、以下のように定められています。
【遺留分請求の時効2つ】
1.遺留分を侵害されていると知った |
事実を知ってから1年で権利が消滅時効する
※1年以内に意思表示していれば時効は止まる
|
2.遺留分を侵害されていると知らなかった |
相手が相続してから10年で自動的に権利がなくなる |
遺留分請求してきた相手に「私が相続した」と通達していれば、1年で時効を迎え、その後請求があったとしても、請求自体を無効にできます。
仮に遺留分請求をされている状況で、相手が5年間何もして来なければ、時効を迎えて請求が無効となりますので、覚えておくといいですよ。
内容証明郵便で送られてくることが一般的
遺留分侵害額請求は、内容証明郵便で送られてくることが一般的ですが、遺留分請求には決まった様式はありません。
そのため、郵便ではなく口頭で、請求を伝えても問題はないのです。
ただし、言った・言わないという話になってしまうので、証拠は残しておくと安心です。
内容証明郵便の内容には、遺留分侵害額請求をする意思表示だけではなく、日時や金額などが記載してあります。
【記載事項】
・請求する人の名前
・請求する相手
・請求の遺産に対する遺留分額
・送付する日時
内容証明郵便が届き相手との話し合いを行い、支払いの意思があるなら合意書を取り交わすことが基本です。
「 遺留分請求されたら放置厳禁!減額&無効にする4つのポイントを紹介」では、遺留分請求されて納得がいかないときの対処法を詳しく書いていますので、参考にしてくださいね。
遺留分対策で困ったときの相談先3選
遺留分対策でどうしたらいいのか困っている場合、以下3つの相談先から選びましょう。
3つの相談先 |
費用目安 |
特徴 |
1.遺言書や相続問題で困ったら『弁護士』に相談 |
5,000円~(30分)
※初回相談のみ無料の事務所もある
|
法的に有効で、内容的に適切な遺言書をスムーズに作成することができる。 |
2.公正証書遺言の作成だけなら『行政書士』に相談 |
0円
※初回相談のみ
|
遺言書の文案・内容についての細かいアドバイスがもらえる。作成費用は弁護士より安い。 |
3.相談先で困ったら『無料相談』で探す |
0円
※初回相談のみ
|
どの専門家にお願いすればいいのかなどのアドバイスがもらえる。 |
公正証書遺言を作成しても遺留分請求の前では、絶対に有効とは限りません。
ここではオススメの順番に紹介しますので、大切な相続人を守るためにも、ぜひ参考にしてくださいね。
遺言書や相続問題で困ったら『弁護士』に相談
遺留分対策に限らず、公正証書遺言の作成や相続問題で困っているなら、弁護士に相談しておくと、何があっても安心です。
たとえば、遺産はプラスなものだけとは限りません。借金といったマイナスな遺産も被相続人名義であれば、相続対象となるのです。
金額や遺産の種類によっては相続までに時間がかかったり、相続問題に発展すれば、もらえるはずの遺産を、延々ともらえなかったりする可能性もあるでしょう。
相続に強い弁護士に相談しておけば、上記のような問題を未然に回避することができますので、ぜひ一度相談しておくことをオススメします。
なお、「 知らないと損をする!相続弁護士を選ぶ9つの要点と費用を抑える準備」では、相続に強い弁護士の選び方を紹介していますので、必ずチェックしておきましょう。
公正証書遺言の作成だけなら『行政書士』に相談
公正証書遺言の作成だけなら、行政書士に相談すると、弁護士よりも費用を安く済ませられます。
ただし、相続問題に発展してしまえば対応ができないため、場面に合わせた使い分けが必要となります。
公正証書遺言の作成代行を請け負っていない事務所もあるので、お近くの行政書士事務所に問い合わせしてみましょう。
問い合わせ先が分からない場合は、Yahoo!やGoogleなどの検索窓から「行政書士 遺言書 〇〇(お住まいの地域名)」で検索してみてください。
すると、近所で公正証書遺言の作成代行を請け負っている行政書士事務所が出てきますよ。
相談先で困ったら『無料相談』で探す
そもそも、弁護士も行政書士も依頼しにくいと感じる方は、「無料相談」を利用してみてください。
たとえば、「遺留分対策をしたい」「相続人について誰が該当しているか知りたい」などの疑問も『 やさしい相続』の24時間365日無料相談で承っています。
電話でもメールでも行えますのでお気軽にご連絡下さい。しつこい勧誘等も行いません。大切なことだからこそ、丁寧に・確実に進めていきましょう。
まとめ【公正証書遺言を作成しても遺留分には注意する】
公正証書遺言は法的に信頼性も高く、法定相続分の実現はできますが、遺留分を侵害した内容であった場合は、遺留分請求されてしまいます。
請求されない、または請求されたとしても相続人が困らないようにするためにも、以下の5つの方法を試してみましょう。
1.相手に遺留分請求額相当の金額を、予め相続させておく。
2.付言事項を公正証書遺言に記載して、遺留分請求を考慮するように訴える。
3.遺留分請求をしない意思があるなら、事前に遺留分を放棄してもらう。
4.遺留分侵害額請求を想定して、時効を迎えるまでは資金を保管しておく。
5.客観的にみても信頼関係の崩壊がひどく、遺留分を剥奪されても仕方がない場合、相続人から廃除しておく。
とはいえ、遺留分請求に延々と怯えているわけにもいかないため、いつ、どういった形で請求が来るのかも把握しておきましょう。
1.遺留分は相続を知ってから1年以内、相続したことを知らない場合は10年以内に請求の可能性がある。
2.請求は送られてきたことを把握するために、内容証明郵便で送られることが一般的。
遺留分請求は、どんな遺言書を作成していたとしても請求は免れません。とはいえ、1人の力では不安も多いでしょう。
弁護士や行政書士などを上手に使いながら、後悔のない安心した相続が行えるようにしていってくださいね。
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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール