相続をよりスムーズに!「財産目録」の目的と知るべき3つのメリット
「財産目録を作る意味ってなに?」
「作成に興味はあるけど、作り方が分からない…」
「スムーズな作成ノウハウやコツを知っておきたい」
相続を意識する方々にとっては、「財産目録」はとても重要なキーワードです。
財産目録は、被相続人(亡くなった人)の財産のすべてをまとめた書面で、相続を円滑かつ正確に実現させます。
作成する主なメリットは下記3つです。
1.遺産分割協議の円滑化
2.相続税申告の明確化
3.相続人同士のトラブル回避
財産目録の書き方や書式のルールは特になく、自分で書くことも可能です。具体的な書き方は「ポイントは5つだけ!「財産目録作成」の書き方をわかりやすく解説!」をご参考ください。
画像引用先:財産目録記載例|裁判所
財産目録があれば、相続財産の内容を把握しやすくなり、相続人同士のトラブルを防いだり、遺産分割協議や相続税の申告などがスムーズに行えるメリットがあります。
しかし、財産目録へ記載する具体的な項目や、ルール、作成すべきタイミングを知らずにいると、せっかく作成した財産目録が無効になったり、かえって相続争いの原因になることも…。
そこで、本記事では、財産目録を作成する目的やタイミングの他、メリットや注意点についてまでわかりやすくご紹介し、円滑な相続にお役立ていただきたいと思います。
「財産目録について必要な知識はすべて得ておきたい!」という方は、ぜひ最後までお読みください。
財産目録とは?
財産目録とは、被相続人のすべての財産(預貯金、不動産などのプラスの財産と借金などのマイナスの財産)をリスト化した書面です。
作成する目的
財産目録の作成は、法律上の義務はないですが、遺言書作成の際に利用されたり、相続開始後(被相続人の死亡後)の遺産分割協議の際に利用されます。相続財産が明確化され便利だからです。
例えば、自分の財産を整理しておけば、誰に何をどれくらい相続しようかと具体的な遺言を残すのに役立ったり、相続が始まった際に相続人たちがわざわざ煩雑な財産目録作りに奔走しなくても済みます。
記載すべき財産の項目
財産目録には、銀行預金、不動産、有価証券(株式等)、動産(自動車、貴金属等)、生命保険等のプラスの財産だけではなく、被相続人の借金・ローンの残額、未払いの税金・光熱費、保証債務等、支払い義務が生じるマイナスの財産も記載が必要です。
また被相続人の死後、葬儀をおこなった場合、葬祭費用もマイナス財産として記載できます。
それぞれ、証拠書類を見ながら正確な財産の種類、内容、評価額などを書き込みましょう。
【財産目録に記載する6つの主な項目と記載内容】
1.銀行預金 |
銀行名、支店名、口座種別、口座番号、名義、最終確認日、預金残高、管理者 |
2.不動産 |
所在、家屋番号、種類、床面積・地積、地目・現況、持ち分、構造、評価額 等 |
3.有価証券(株式・投資信託等) |
金融機関名(証券会社名)、取引支店名、有価証券種類、銘柄(会社名)、保有数、評価額 |
4.自動車・バイク、船舶、貴金属、骨董品 |
資産種類、資産を特定できる特徴、保管場所、評価額
例:「時計」と記載するだけではなく、「自室に保管している〇〇社の品名△△△(製造番号××××)の時計」といったような記載
|
5.みなし相続財産(生命保険等) |
保険会社名、保険種類、証券番号、保険金額(受取額)、契約者、受取人 |
6.負債(借入金、保証債務等) |
借入先名、負債の内容(住宅ローン・自動車ローン等)、借入日、残額、返済月額、備考(保証人名、連帯保証人の立場等) |
財産目録を書く3つのメリット
財産目録の作成には、大きく分けてメリットは以下の3つ。
1.遺産分割協議をスムーズにする
2.相続税の申告を簡便化できる
3.相続に関するトラブルや面倒を避ける
遺産分割協議をスムーズにする
相続においてあらかじめ財産目録があれば、財産の全体像が明確に把握できるので、その種類や総額が明確でスムーズに分割協議を実現します。
万一、遺産分割協議がまとまらなかった場合は、遺産分割調停を行なう際に、家庭裁判所への提出物としても必要です。
全財産を明確に把握できる
プラスの財産もマイナスの財産ももれなく記載することで、被相続人の財産の全貌がわかり、相続開始時に相続人が納得して手続きを行えます。
相続になるとどんなに有効な関係の相続人同士でもトラブルに発展するケースは珍しくなく、公明正大な財産目録の存在が争議を避けるために効果的です。
相続承認か放棄かの判断ができる
被相続人の死亡後、相続人は「相続の開始を知ったときから3ヶ月以内」に相続を承認するか放棄するかの判断を迫られます。
この期間内に家庭裁判所に相続放棄や限定承認をしなければ、相続人は原則、単純承認したこととなり、結果、自動的に被相続人のプラスの財産だけでなくマイナスの財産も相続することになるのです。
しかし、財産目録があれば、仮にマイナスの財産が多い場合、負債を負うことなく相続を放棄する判断ができるでしょう。
公平な遺産分割協議ができる
相続人が複数ならば遺産分割協議が行われますが、この協議までに財産目録があれば、すべての相続人が納得した上で公平な遺産分割が可能です。
例えば、「長男には土地と家を遺す」などの遺言があった場合、財産目録があれば、どの土地とどの建物のことかが明確になり相続人同士の承認も得やすくなるでしょう。
相続税の申告を簡便化できる
財産目録の作成によって、相続税申告の判断や課税対策を講じられます。
例えば、納税期限までに、相続税の申告や節税対策に関して税理士と相談することも可能です。
申告の有無や相続税対策を検討できる
財産目録があれば、相続税の有無を判断でき、生前に作っておけばあらかじめ相続税対策を考慮できるメリットがあります。
多くの財産がある場合には、相続税対策は必須になります。何も対策をしないと、せっかく相続人に相続させようとしたのに、結果的に相続人が相続税を払うことができず、相続放棄を余儀なくされることがあるからです。
申告がラクになる
被相続人の死亡後は相続人による相続税の申告が必要な場合も少なくないです。生前に財産目録があれば、課税対象が明確になり相続税申告が簡便化されます。
課税の対象かどうかを間違え、後で税務署から指摘を受ける心配も減ります。
相続に関するトラブルや面倒を避ける
財産目録を作成する事で、相続における様々なトラブルや争いを起こさない効果が期待できます。
仮に、生前に被相続人自身が財産目録を作成していれば、財産目録の記載が全財産であると納得できます。被相続人自身が財産を意図的に隠す可能性は低いと考えられるからです。
無用なトラブルを回避できる
生前に財産目録を作成しておけば、
「本当はもっと遺産があるんじゃないか?」
「相続人の誰かが隠していないか?」
等の疑心暗鬼をなくし、相続開始後に相続人の間で無用なトラブルが発生することを回避するでしょう。
相続手続きの見通しをつけられる
相続の承認か放棄は、相続を知ってから3ヶ月以内に判断しなければならず、財産目録の存在は、判断の迅速化・効率化にも役立つはずです。
あらかじめ財産目録を作成しておくと、不動産があれば司法書士に頼んだり、相続税がありそうなら税理士に任せたりと、相続手続きの計画が立てやすくなります。
財産の存在が認識できる
預貯金や不動産などプラスの財産は比較的わかりやすいものですが、借入金や保証債務などのマイナスの財産に関しては存在を認識しにくく、場合によっては時効によって消滅していることもあります。
しかし、財産目録を作成しておけばあらゆる財産を認識することができ、マイナスの財産があるから単純に放棄するのではなく、内容を吟味して正当な相続の指針になります。
遺言の内容を検討できる
被相続人が財産目録を作成しておくと財産を掌握できるので、どの財産を誰に相続させるか検討を重ねながら遺言書を作成できます。
例えば、アパートなどの収益不動産があった場合など、収益や納税のことを考慮した上で誰に後継させるかをじっくり検討できます。
生前に財産目録を作れば相続人の負担が減る
被相続人が亡くなってから、葬儀や様々な手続きをこなしながら相続人が財産目録を作成することはとても大きな負担となります。
例えば、生前に遺言書とともに財産目録を作成していれば、被相続人にしかわからなかった財産を思い出すことがあります。これは相続人にはなかなか難しい作業です。
生前に財産目録を作成しておくことで、相続人の負担が軽減されます。
財産目録を作成しておくべき人
財産目録は被相続人、相続人のいずれもが作成できます。ただし、遺言の内容を正確に実現させるために必要な手続きを行う「遺言執行者(人)」がいる場合は、執行者が財産目録を作成しなければならないと法律で決められています。
専門家に依頼することも可能
また、財産の調査方法や、財産目録の作成方法が分からない場合や十分な時間が取れない場合は、弁護士や行政書士をはじめ専門家に相談するとよいでしょう。
【財産目録作成(調査込み)の報酬の目安】
※信託銀行以外は、調査内容・件数ごとに追加料金が派生する場合が多い
|
報酬目安 |
メリット |
デメリット |
行政書士 |
3万円〜30万円 |
・比較的安価
・相続財産目録の作成以外にも遺言書や遺産分割協議書の作成等もOK
・戸籍謄本類の代理収集○
|
・紛争解決×
・不動産の名義変更申請×
・相続税の申告×
・ただし、外注して一括で請け負う場合アリ
|
弁護士 |
14万円〜30万円
調査料金1万円+目録作成料4万円前後
|
・相続人の間でもめ事になりそうな場合、紛争解決に強い |
・財産調査や財産目録の作成だけで依頼を受けるケースは少ない
・不動産の名義変更申請×
・相続税の申告×
|
税理士 |
3万円〜30万円 |
・相続税が派生する場合の申告ができる |
・紛争解決×
不動産の名義変更申請×
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司法書士 |
2万円〜30万円 |
・不動産がある場合、名義変更申請ができる |
・紛争解決×
・相続税の申告×
|
信託銀行 |
士業への外注料+手数料 |
・どんな手続きも一括で引き受ける |
・基本的には士業へ外注し、外注料+手数料がかかり
費用が割高になる
|
財産目録を作成するタイミング
いつまでに作成しなければならないという期限はありません。
ただし、相続人は「相続の開始を知ったときから3ヶ月以内」に相続を承認するか放棄するかの判断を迫られます。また、相続税の申告は10カ月以内の制限があります。それぞれの期限内に判断や手続きを済ませるためにも、早めに作成することが望まれます。
財産目録の書き方
財産目録には決まった書き方や書式の規定はありませんし、手書きでもパソコンなどでも作ることが可能です。ただ、手続きを迅速に進めるため、財産の項目別にまとめた証拠書類を見ながら正確な財産の種類、内容、評価額などを詳細に書き込む必要があります。
パソコンで作る場合は、エクセルなどのアプリケーションで使えるテンプレートで作成するとより効率的です。
具体的な書き方の流れや項目、ポイントは「ポイントは5つだけ!「財産目録作成」の書き方をわかりやすく解説!」の記事もご参考ください。
財産目録を作成する際の3つの注意点
自分で財産目録を作成するときの注意点は以下の3つです。
1.記載漏れに注意
2.すべてのページに署名・捺印
3.遺言書に合わせる場合は、基本的に別の用紙に
記載漏れに注意
財産目録に漏れがあると相続財産が確定できないばかりでなく、遺言者が全文を手書きで書く自筆証書遺言では遺書が無効になる場合もありますので注意してください。
誰が見ても、財産の内容がハッキリ特定できるように詳細に記載することが肝心です。
全てのページに署名・捺印
パソコン等で作った財産目録には、全てのページに署名・捺印する必要があります。特に、両面印刷にした場合も、必ず両面に署名・捺印をすることを忘れないようにしましょう。
遺言書に合わせる場合は、基本的に別の用紙に
遺言書に合わせる場合は、基本的に別の用紙に書き、遺言書本体に合わせてホッチキス等でしっかりとじます。
まとめ:財産目録の重要性を知って、相続手続きを円滑に!
財産目録は、被相続人のすべての財産をリストアップした書面です。
プラスの財産もマイナスの財産もきっちりと詳細に記載されなければなりません。
●プラスの財産 |
銀行預金、不動産、有価証券(株式等)、動産(自動車、貴金属等)、生命保険等 |
●マイナスの財産 |
借金・ローンの残額、未払いの税金・光熱費、保証債務、葬儀代金等 |
財産目録を作成するメリットは次の3つです。
1.遺産分割協議をスムーズにする |
全財産を明確に把握することで、相続承認か放棄かの判断ができ、公平な遺産分割協議が可能になります。 |
2.相続税の申告を簡便化できる |
相続税を申告する必要があるかどうかを予想できるので、あらかじめ相続税対策の検討も可能です。同時に申告手続きも効率化されラクになります。 |
3.相続に関するトラブルや面倒を避ける |
財産の種類や数量、総額などが明確になることで、相続人同士の無用なトラブルや争いを回避でき、相続手続きの計画に見通しをつけられます。
また、生前に財産目録を作成することで、遺言書の内容を検討でき、相続開始時に相続人が財産目録を作成しなければならない負担を軽減させます。
|
財産目録は、被相続人、相続人のいずれもが作成できます。
財産目録には決まった書き方や書式の規定はありませんし、作成期限もありません。
ただし、相続人が承認・放棄を決める期限は3ヶ月で、相続税は10ヶ月以内に申告しなければなりませんので、そのタイミングに間に合うことが肝心です。
それゆえ、財産の調査や作成に不慣れで十分な時間が取れない場合は、弁護士や行政書士をはじめ専門家に依頼することも可能です。
自分で作成する場合には、記載もれに注意して、パソコン作成に場合は、全ページに署名・押印が必要です。また生前に作成する場合、遺言書とは別の用紙に作成し、遺言書としっかり合本する必要があります。
財産目録は、必ず作成しなければならない書類ではありませんが、被相続人の相続財産を明確にし、円滑で正当な相続を執行するため非常に役立つ重要な書類です。
この記事を読んで、相続における財産目録の重要性を理解され、よりスムーズな相続を行なっていただければ幸いです。
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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール