死亡退職金・弔慰金の手続きと税務
死亡退職金や弔慰金は、会社員として働いてこられた方の「最後の報酬」であり、遺族の生活を支える大切なお金です。
しかし、実際に支給される場面では「死亡退職金の手続きはどう進めればいいのか」「弔慰金の税務上の扱いは?」「所得税の非課税枠はあるのか」など、専門的なポイントが多く、戸惑ってしまうご遺族も少なくありません。
この記事では、死亡退職金・弔慰金について、会社への申請方法や必要書類、税務上の考え方(非課税となる範囲・相続税との関係など)をわかりやすく解説します。
死亡退職金・弔慰金とは?基本の考え方
死亡退職金とは?
在職中の死亡にともなう「退職金」
死亡退職金とは、従業員が在職中に亡くなった場合に、会社から遺族へ支払われる退職金のことです。通常の退職金と同様に、長年の勤務に対する功労への報酬という性格を持っていますが、従業員本人ではなく相続人が受け取る点が大きな特徴です。
就業規則や退職金規程に「死亡退職金」の項目があり、勤続年数や役職、最終給与などをもとに支給額が決められているケースがほとんどです。
死亡退職金の主な支給理由
死亡退職金が支給される主な理由は次のとおりです。
- 従業員本人の長年の勤務をねぎらうため
- 突然の死亡により生活基盤が変わる遺族の生活を支えるため
- 会社としての社会的責任・福利厚生の一環
そのため、死亡退職金は「故人の功績」と「遺族の生活支援」という二つの意味を併せ持つ給付といえます。
弔慰金とは?
遺族への「お悔やみ」としての金銭
弔慰金とは、従業員の死亡にあたり、会社が遺族に対してお悔やみの気持ちを表すために支給するお金のことです。
会社によっては「見舞金」「香料」といった名称になっていることもありますが、税務上はまとめて「弔慰金」として扱われます。死亡退職金と比べると、弔慰金は一定の相場・上限を基準とした金額で支給されるケースが多いです。
死亡退職金との違い
死亡退職金と弔慰金には次のような違いがあります。
- 死亡退職金:退職金の一種(報酬性が強い)。相続税の対象。
- 弔慰金:お悔やみのための給付(慰謝性が強い)。一定額までは所得税非課税。
名称だけでなく、「会社の規程」「支給額」「税務上の取り扱い」が異なるため、後述する税務の考え方を踏まえて整理しておくことが大切です。
死亡退職金の手続きの流れ
会社への連絡と基本的な流れ
1. 会社へ死亡の連絡をする
ご家族が亡くなられた際は、まず勤務先の会社へ連絡します。突然のことでつらい状況だと思いますが、死亡退職金や弔慰金の手続きは、会社側の準備も必要になるため、早めに連絡しておくとスムーズです。
電話がつらい場合は、メールで「家族が亡くなったこと」「葬儀の日程」などを簡潔に伝えるだけでも構いません。
2. 会社から手続き案内を受け取る
死亡の連絡を受けた会社は、遺族宛てに死亡退職金 手続きや弔慰金に関する案内資料を送付するのが一般的です。案内には、申請書の書式や必要書類、提出先、期限などが記載されています。
不明点があれば、人事部・総務部・経理部など担当部署に遠慮なく問い合わせましょう。
死亡退職金の申請方法
申請書の記入と提出
死亡退職金の支給を受けるためには、会社が用意する「死亡退職金支給申請書」などの書類に必要事項を記入し、必要書類と一緒に会社へ提出します。
このとき、誰が受取人になるのか、相続人の間であらかじめ話し合っておくと、手続きがスムーズに進みます。
よく求められる必要書類
会社によって異なりますが、死亡退職金の手続きでよく必要になる書類は次のとおりです。
- 死亡退職金支給申請書(会社指定の書式)
- 亡くなった方の死亡が確認できる書類(死亡診断書の写し・死亡届受理証明書など)
- 戸籍謄本(法定相続人を確認するため)
- 住民票または除票
- 相続人全員の戸籍謄本・続柄がわかる書類
- 受取人名義の預金口座の通帳コピー
- 印鑑証明書(相続人代表者など)
会社の規模や規程により、必要書類が追加・省略される場合もあります。「この書類の代わりになりますか?」と確認しながら進めて構いません。
会社側の処理と入金までのイメージ
必要書類がすべて揃い、会社のチェックが終わると、社内の決裁を経て支給額が確定します。その後、指定口座へ死亡退職金が振り込まれます。
会社規程によっては、賞与・未払い給与・残業代などと合わせて精算されることもありますので、送付される「支給内訳書」「精算書」を必ず確認しておきましょう。
弔慰金の手続きと税務上の取り扱い
弔慰金の申請と必要書類
弔慰金は「申請不要」の場合も多い
弔慰金は、会社側の判断で自動的に支給されることも多く、死亡退職金のような詳細な申請手続きが不要なケースもあります。その場合は、会社から遺族に対して「弔慰金支給のお知らせ」とともに口座情報の確認書のみが送付されることもあります。
弔慰金の申請で求められやすい必要書類
弔慰金の支給にあたっては、次のような必要書類が求められる場合があります。
- 弔慰金請求書(会社指定の書式)
- 亡くなったことがわかる書類(死亡診断書の写しなど)
- 遺族の関係がわかる戸籍謄本など
- 振込口座の情報
多くの場合、死亡退職金の手続きと同時に案内されますので、まとめて準備してしまうと負担が軽くなります。
弔慰金の税務 – 所得税は非課税?
一定額までは「所得税 非課税」
弔慰金は、一定の範囲内であれば所得税の対象とならず、非課税として扱われます。
税務上は、死亡退職金と比べて「慰謝的な給付」と位置付けられており、次のような基準内であれば、弔慰金は原則として所得税非課税とされています。
- 業務上の死亡の場合:最終給与の3年分相当額まで
- 業務外の死亡の場合:最終給与の6か月分相当額まで
これらの範囲を超える部分は「退職手当等」とみなされ、課税の対象となる可能性があります。実務上は、会社が税務基準を考慮して金額を設定していることが多いため、あまり神経質になる必要はありませんが、「非常に高額な弔慰金」の場合は注意が必要です。
名称よりも「実態」で判断される
税務署は名称だけでなく、「実際にはどのような性質のお金なのか」で判断します。そのため、名目上は弔慰金とされていても、次のような場合には課税対象となる可能性があります。
- 著しく高額で、退職金の上乗せと考えられる
- 就業規則や慣行を超えて、特定の人だけに多額が支給される
- 功労金・特別報酬としての意味合いが強い
不安な場合は、会社の担当者に「弔慰金の税務上の取り扱い」を確認したり、税理士や税務署の相談窓口を活用すると安心です。
死亡退職金の税務 – 相続税と非課税枠
死亡退職金は「相続税の対象」
死亡退職金は、税務上は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象となります。
ただし、いきなり全額に相続税がかかるわけではなく、死亡退職金には独自の非課税枠が用意されています。
死亡退職金の非課税枠
500万円 × 法定相続人の数
死亡退職金には、次のような相続税の非課税枠が認められています。
非課税限度額 = 500万円 × 法定相続人の数
たとえば、法定相続人が配偶者と子ども2人の計3人であれば、
500万円 × 3人 = 1,500万円
までの死亡退職金は相続税がかかりません。
死亡退職金の総額がこの非課税限度額以内であれば、原則として相続税の申告は不要です。他の遺産(預貯金・不動産など)と合算して相続税がかかるケースだけ、申告が必要になります。
非課税枠を超えた分は課税対象
死亡退職金の総額が非課税限度額を超える場合、その超過部分が相続税の課税対象になります。このとき、誰がどれだけ受け取ったかによって、各相続人の相続税額も変わってきます。
相続税の計算は複雑なため、「非課税枠を大きく超える金額の死亡退職金がある」「他の遺産と合わせると基礎控除を超えそう」という場合には、税理士への相談を検討すると安心です。
会社への申請時に注意したいポイント
受取人をどうするか – 相続人間での合意
代表受取と法定相続分
死亡退職金は会社から「誰の名義で」受け取るかを決める必要があります。よくあるパターンは次の2つです。
- 相続人のうち代表者1名がまとめて受け取る
- 相続人それぞれが法定相続分で分けて受け取る
どちらを選んでも構いませんが、代表者が受け取る場合は、その後の分配方法を相続人全員で合意しておくことが大切です。
トラブルを防ぐための工夫
死亡退職金は金額が大きくなりやすいため、
- 誰がいくら受け取るのか
- どのような考え方で分けるのか
について、相続人間でしっかり話し合い、可能であれば遺産分割協議書など書面に残しておくと安心です。
必要書類の準備を「無理なく」進めるコツ
相続人が複数の市区町村に住んでいる場合や、本籍地が遠方にある場合、戸籍謄本や除籍謄本の取り寄せに時間がかかることがあります。
そのような場合は、会社に対して「必要書類の収集に時間がかかっている」ことを伝え、提出期限の延長を相談して構いません。多くの会社は柔軟に対応してくれます。
よくある質問(Q&A)
Q1. 弔慰金にも相続税はかかりますか?
弔慰金は、所得税については一定額まで非課税ですが、税務上の取り扱いによっては相続税の対象となる場合があります。
一般的には、死亡退職金とともに「みなし相続財産」として扱われ、死亡退職金と弔慰金の合計額に対して、先ほどの非課税限度額(500万円 × 法定相続人の数)が適用されると考えるとイメージしやすいです。
Q2. 「所得税が非課税」と聞いたのに、税金がかかると言われました
弔慰金や死亡退職金は、所得税・住民税の面では非課税もしくは優遇措置がありますが、相続税は別の税目です。
そのため、
- 所得税:非課税(または税源泉徴収済み)
- 相続税:非課税枠を超えると課税
というように、税金の種類ごとに考える必要があります。
Q3. 書類の書き方がわからないときは?
会社の人事・総務担当に問い合わせれば、多くの場合は丁寧に教えてくれます。「忙しいだろうから迷惑かな」と遠慮する必要はありません。死亡退職金 手続きや弔慰金 税務は、一般の方にはわかりにくいものなので、聞きながら進めるのがむしろ普通です。
死亡退職金・弔慰金 手続きのチェックリスト
時系列で確認しておきたいこと
最後に、死亡退職金や弔慰金の手続きで押さえておきたいポイントを時系列でまとめます。
・会社へ死亡の連絡をする(メールでも可)
・会社から届いた案内書類を確認する
・死亡退職金 申請書・弔慰金請求書など会社書式に記入する
・戸籍謄本・住民票・死亡診断書など必要書類を集める
・相続人全員で「受取人」と「分け方」を話し合う
・会社へ申請書・必要書類を提出する
・支給額・支給明細を必ず保管しておく
・相続税の非課税枠(500万円 × 法定相続人の数)を確認する
・他の相続財産と合算して相続税の要否を判断する
まとめ – 一つずつ進めれば大丈夫
死亡退職金・弔慰金の手続きは、「会社への申請」と「税務(相続税・所得税)の確認」という二つの側面があります。突然のことで心身ともに負担の大きい時期ですが、必要なことを一つずつ進めていけば、必ず整理はつきます。
わからないことは会社や税務署、専門家へ相談して構いません。「完璧にこなそう」と思い過ぎず、遺族の生活を守る大切な制度として、死亡退職金・弔慰金を上手に活用していただければと思います。
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