成年後見人の役割を解説!手続きと費用・メリットとデメリットも紹介
「成年後見人は誰でもなれるの?」
「手続きはどこでなにをすればよい?費用は?」
「後見人になることのデメリットはある?」
本人に代わって後見人が財産管理や契約行為を行う「成年後見人制度」。
成年後見人制度を使えば、不利益になる契約については防いだり解約したりしながらも、必要な契約や手続きについては、代理で進めることができます。
ただしその反面、一度認められれば途中でやめることはできず、新たな義務や費用も発生するというデメリットもあるため、慎重に判断する必要があります。
そこで本記事では、制度の説明や必要な手続き、費用の紹介に加えて5つのメリットと注意したい4つのデメリット部分についてまで、すべて解説していきます!
現在、認知症を患う高齢者を狙って、リフォーム工事など高額な契約を結ばせるケースが相次いでいます。また、特殊詐欺の被害も後を絶ちません。
この記事を読んで成年後見人制度への理解を深めることで、「もしも」の時の不安も軽くなる事と思います。
気になった方は、ぜひ参考にしてください。
成年後見制度とは?
「成年後見制度」とは、認知症などにより判断能力が十分でない方が、詐欺や悪徳商法によって不利益を被らないよう、財産を守るための制度です。
具体的には本人である「被後見人」に代わって、「成年後見人」が適切な財産管理や契約行為の支援を行います。
成年後見人の役割
成年後見人の役割としては、「契約締結などの法律行為を本人に代わって行うこと」と「本人の預金や不動産といった資産を管理すること」があります。
なお、資産管理はあくまでも現状維持することが前提なので、基本的に積極的な運用はできないこととなっています。
また、本人のために行った事務について、定められた書式に則って毎年1回家庭裁判所に報告する必要があります(後見等事務報告)。
成年後見人になれる人となれない人
基本的には成年後見人には誰でもなれますが、被後見人に対して不利益を生じる可能性のある人はなることができません。
欠格事由に該当しなければ誰でもなれる
成年後見人になるために必要な資格などはありません。以下に示す欠格事由(成年後見人になる事ができない要件)のどれにも該当しないのであれば、誰でも成年後見人になる事ができます。
【欠格事由の例】
・未成年
・過去に後見人を含む法定代理人を解任されたことがある人
・破産者
・被後見人に訴訟を起こした人とその配偶者
・行方不明者
・その他不正な行為を行うなど後見人に適さない経歴がある人
この中にある「後見人を含む法定代理人を解任される」例としては、被後見人の財産について私的流用や横領をした、後見人としての職務を怠った、家庭裁判所の指示に従わなかった、等があります。
また、「被後見人に訴訟を起こした人とその配偶者」については、被後見人と利害が対立する者とみなされ、成年後見人には適さないとされています。
多いのは親族や専門家
ただ、誰でもなれるとは言え、本人にとって全くの赤の他人が成年後見人になる事はほとんどありません。多いのは、本人の親族が選任されるケースです。本人としても財産管理を任せるなら、見ず知らずの人よりは、知っている親族の方が安心です。
また、頼れる親族がいない場合には、弁護士や社会福祉士、司法書士といった専門家が「専門職後見人」として選任されるケースもあります。
なお、専門家に後見人を依頼する場合には、月額2〜6万円の報酬支払いが発生します。
複数人でも法人でもなれる
成年後見人には人数の縛りはありません。複数人を選任する事もできますし、また、社会福祉法人や弁護士法人といった専門家が在籍している法人でもなることができます。
後見人が1人だけの場合、全ての責務を果たすのが体力的に厳しくなる心配がありますが、複数人や法人ならばその心配はありません。反面、重要な意思決定に時間がかかる可能性がある点には注意が必要です。
成年後見制度を利用するメリット・デメリット
成年後見制度を、利用による5つのメリット、4つのデメリットについてご紹介します。
5つのメリット |
4つのデメリット |
・不利益になる契約を防ぐことができる
・契約を結んでしまっても、後から解消できる
・財産を詐欺や家族の使い込みから守ることができる
・被後見人の判断能力が不十分でも必要な手続きや契約を進めることができる
・相続発生時に財産の把握ができる
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・義務が発生し、手間がかかる
・途中でやめることができない
・柔軟な対応が難しくなる
・専門家が後見人になった場合は継続的に費用がかかる
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成年後見制度を利用する5つのメリット
被後見人の不利益になる契約を防ぐことができる
成年後見人が選任されると、本人(被後見人)が行う行為については、日用品を買うなど日常生活に関する行為を除いて全て成年後見人の同意が必要になり、同意できない契約行為などについてはそれを取り消すことができます。
その為、仮に業者が被後見人に高額な契約を結ばせようとしても、後見人がその旨を伝えれば、業者は契約の締結をあきらめるでしょう。こうして、本人の不利益になる契約締結も未然に防げるのです。
被後見人が契約を結んでしまっても、後から解消できる
また万が一、後見人が不在の時に業者が押しかけ、強引に本人に契約を結ばせた場合でも、成年後見人には契約を解消する権限が与えられます。
ちなみに取り消せる期間は、後見人がその契約を把握してから5年間、もし後見人が知らなかった場合は契約時から20年間の時効となるまでという長期間です。
ですから、一度結ばれた契約でも、後から成年後見人が判断して契約を解消することもできるのです。
被後見人の判断能力が不十分でも必要な手続きや契約を進めることができる
成年後見人には、被後見人の契約を補助したり解消したりする権限ばかりではなく、被後見人に代わって預貯金の引き出しや解約、契約締結といった財産に関する全ての法律行為を行う権限も持っています。
銀行の手続きや不動産売却、介護施設への入所や介護保険締結といった本人以外では行えない手続きも、成年後見人なら行えるのです。
被後見人の財産を詐欺や家族の使い込みから守ることができる
近年では、判断能力の衰えた認知症の高齢者などを狙った詐欺や高額セールスの被害が後を絶ちません。また身内の家族にも、本人を言いくるめ、預金を引き出して使い込むというケースがあるようです。
成年後見人は、被後見人の通帳やキャッシュカードについて引き渡しを受けたあと、金融機関へ後見開始の届出をする必要があります。そしてその届け出後は、預貯金を引き出せるのは成年後見人だけになります。
つまり制度を使えば、詐欺や第三者の使い込みからも守ることができるのです。
相続発生時に財産の把握ができる
成年後見人に選任されると、本人(被後見人)の財産を一覧表にまとめた「財産目録」を、選任から1ヶ月以内に裁判所へ提出しなければいけません。
見方を変えれば、財産に関する詳細な状況を把握することができ、相続が発生した際にもその資料を活かすことができる訳です。
成年後見制度を利用する4つのデメリット
後見人としての義務を全うしなければいけないため手間がかかる
成年後見人には、次の3つの義務を果たす必要があります。
1,身上配慮義務
→被後見人の意思を尊重しながら、心身と生活に配慮し、財産管理を行う義務
2,善管注意義務
→家庭裁判所または、後見監督人の注意に従う義務
3,報告義務
→後見人として行った業務を、定期的に家庭裁判所に報告する義務
これらの義務を果たすためには、後見人として行った業務の詳細を記録しておく事も必要になってくるため、手間がかかるのです。
後見制度を利用すると途中でやめることができない
成年後見制度は一度申し立てた時点で、それを取り下げることができません。
また、後見人が業務を負担に感じるようになっても、辞める際には後任を選任した上で家庭裁判所の許可を得ることが必要です。後見人自身の都合で、勝手にやめることはできないのです。
後見人として行動しなければいけないため、柔軟な対応が難しくなる
被後見人の財産保護が大きな目的となっている分、たとえ親族であっても財産の使用には制約がかかってしまいます。
例えば後見人となった親族が、被後見人のために使う日用品などを被後見人のお金を使って購入した場合でも、そのレシート等は全て残して収支を記録する必要があります。そうしないと「業務上横領」とみなされる場合もあります。
専門家が後見人になった場合は報酬が発生するため、費用がかかる
弁護士などの専門家が後見人になった場合、後見人に対する報酬を支払う必要があります。後見人等への報酬は仕事内容や被後見人の財産等をふまえて、毎年決めることになっており、一般的には月額2~6万円程度です。
ただし、管理する財産額が大きいほど報酬額も大きくなりやすく、しかも継続的なコストであるため、軽く考えることはできません。
仮に月2万円としても、10年続いた場合には、
2万円×12か月×10年
となり、総額240万円かかる事になります。
成年後見制度を利用するための手続き
成年後見人制度は、「法定後見制度」と「任意後見制度」と大きく二つの分類があります。
法定後見制度の申立手続き
「法定後見制度」とは、すでに本人の判断能力が不十分な場合に、親族の申し立てによって手続きが開始されるものです。
「法定後見」は更に程度の軽い順に、次の3つに分かれます。
・補助
契約も含め大体のことは自分で判断できるが、難しい事柄について援助を必要とする人を対象とするもの
・保佐
日常の買い物程度は出来るが、不動産など大きな買い物や契約締結に関する判断が困難な場合に補助するもの
・後見
日常の買い物すらできないほど判断能力が全くない人を支援するもの
手続きとしては以下の通りです。
1,申立書類一式を作成し、本人の戸籍謄本や住民票、診断書などの必要書類と併せて家庭裁判所に提出し、申立を行う。
2,家庭裁判所で審理が行われる。
3,後見開始とともに、最も適した人を成年後見人として決定する審判が下される。
4,審判が確定したら、東京法務局に後見人の氏名や権限を登録する手続きをとる(後見登記)
5,成年後見人としての仕事を開始する。
任意後見制度の手続き
「任意後見制度」とは、本人が健康なうちに自ら後見人をあらかじめ指名し、契約を結んでおくものです。実際に判断能力が低下したときには、後見人として契約を結んだ人が家庭裁判所へ申し立てることで手続きが開始されます。
具体的な手続きは以下の通りです。
1,将来、後見人になってもらう人(任意後見受任者)を決める。
2,自身の判断能力が低下したときに、「何を、どのように支援してもらいたいか」を決め、契約内容をまとめていく。
3,まとめた契約内容に沿って、公正証書を作成し、契約を締結します。(※任意後見契約は、公正証書で作成することが法律で決められています。)
4,任意後見契約の締結後、公証人が法務局に登記依頼をする。
【本人の判断能力が低下・喪失後の手続き】
5,任意後見人となった人が契約通り適切に後見業務を行っているかを監督する、「任意後見監督人」の選任を家庭裁判所へ申し立てる。
6,家庭裁判所によって任意後見監督人が選任される。これによって、任意後見契約の効力が発生し、「任意後見受任者」が「任意後見人」になる。
7,任意後見人としての仕事を開始する。
成年後見制度を利用するときにかかる費用
成年後見制度を利用する際には、「申立の手続き時」および「後見人への報酬」として費用が発生します。
法定後見制度の利用にかかる費用
法定後見制度の利用に関しては、まず申立手続きを全て自力で行ったとして、費用は約2万円程度です。
ただし、実際には難しい書類の準備を全て自力で行うのは容易ではなく、司法書士などの専門家の力を借りることになります。また、家庭裁判所での審理において、本人の状態について医師が鑑定をする際の鑑定料もかかります。これらも考えると、総額で30〜40万を見ておいた方が良いでしょう。
また後見人への報酬については、親族がなった場合には無償になるケースもありますが、相場としては月額2〜6万円となっています。
以下が金額の詳細です。
【申立の手続き時にかかる費用】
実費
申立費用(貼用収入印紙) |
800円 |
登記費用(予納収入印紙) |
2,600円 |
郵便切手(予納郵便切手) |
約3,200〜3,500円程度 |
※各家庭裁判所によって異なります。
その他、戸籍謄本や住民票、診断書の取得費用など
司法書士へ申立手続き依頼する際の報酬相場 |
10〜20万円 |
【成年後見人の報酬相場】
親族などが成年後見人の場合の基本報酬 |
月額0〜6万円 |
弁護士などの専門家が成年後見人の場合の基本報酬 |
月額2〜6万円 |
(基本報酬は、本人の財産額や地域の物価などを考慮して、最終的に家庭裁判所が決定します。また日常業務以外の「特別な業務を行う場合」にはこの他に「付加報酬」が発生します。)
任意後見制度の利用にかかる費用
任意後見制度の場合だと、任意後見契約書の作成〜法務局への登記までで費用は約3万円程度です。
ただしこれも、契約書類の準備などに司法書士などの専門家の力を借りる場合が多く、総額で15〜20万は見ておきましょう。
また後見人への報酬についても、親族が無償で務めるケースがあるものの、相場としては月額2〜6万円。
加えて、任意後見監督人への報酬として月額1〜3万円が発生します。
【手続きにかかる費用】
任意後見契約書作成の手続き費用 |
11,000円 |
登記嘱託手数料 |
1,400円 |
登記に納付する印紙代 |
2,600円 |
司法書士に案文作成や公証役場とのやりとりのサポート依頼した場合の報酬相場 |
10〜15万円 |
【任意後見人の報酬相場】
親族などが後見人の場合基本報酬 |
月額0〜5万円 |
司法書士などの専門家が後見人の場合の基本報酬 |
月額3〜6万円 |
【任意後見監督人の報酬相場】
(任意後見監督人は家庭裁判所の判断で弁護士などの専門家が選任されます。報酬金額も家庭裁判所が併せて決定します。)
成年後見制度を検討した方がよいケース
成年後見制度を利用するかどうか迷ったときは、下記の現実にあり得るケースに該当するかを確認しましょう。
・認知症など精神疾患を患ったとき
・本人に代わり銀行手続きをしたい
・本人に代わり不動産を売却したい
・本人に代わり介護保険契約をしたい
・身上監護が必要なケース
認知症など精神疾患を患ったとき
成年後見制度が申し立てられるケースを本人(被後見人)が患った障害や疾患別に見た場合、他に知的障害や脳への障害、精神疾患などとある中で群を抜いて多いのは、認知症になった場合です。
認知症は高齢になってから患う場合が多く、それは介護が必要になってくる年齢とも重なります。その際に、次から挙げるような手続きを本人に代わって行える成年後見人が必要になってくるのです。
本人に代わり銀行手続きをしたい場合
本人名義の預貯金からお金を引き出したり、定期預金の解約したりする手続きは、原則として本人以外には認められていません。
介護施設に入居する際や医療費の支払いなどでお金が必要なときには、本人口座からのお金を充てたいですよね。
成年後見人であれば、代理人として銀行や証券会社での手続きを行うことができます。
本人に代わり不動産を売却したい場合
本人が介護施設に入居するなどして暮らしていた家が空き家となってしまっている場合、不動産の売却を検討する場合もあるでしょう。その場合も売却手続きがとれるのは、本人以外では成年後見人などの法定代理人にしか認められていません。
なお、自宅の売却については家庭裁判所の許可が必要です。
本人に代わり介護保険契約をしたい場合
介護保険を適用させて、介護施設への入所手続きや介護サービスを受ける際には、それらのサービスを行う事業者と契約を結ぶ必要があります。
本人に既に判断能力が無い時でも、成年後見人などの法定代理人であれば契約を結び、サービスを受けることができるのです。
身上監護が必要なケース
「身上監護」とは、住居の確保や、病院への入院手続き、要介護認定の申請手続きなど本人が生活する上で必要な法的手続きをとることです。本人以外にこのような法的手続きが行えるのも、成年後見人などの法定代理人のみです。
なお、必ずしも被後見人と同居の上で世話をしたり、病院等に日常的に出向いて看病する必要はなく、実際の世話については他の親族や病院・施設等に委ねてかまいません。
財産管理を行う目的なら「家族信託」という方法もある
成年後見制度以外に、本人に代わって財産管理を行う方法として「家族信託」があります。
家族信託とは、自分の財産を信頼できる家族に託し、財産の管理や処分などを任せる方法です。家族間で自由に内容を決めることができ、また財産管理と併せて相続税対策や資産運用も行うことができます。
更には成年後見制度と違い裁判所に申し立てる必要もありませんので、手間や費用も大幅に少なくて済みます。
仮に信託財産が現金や預貯金で3,000万円だとすれば、コンサルティング費用や公正証書の作成費用などで40〜50万円。不動産で3,000万円相当の場合は、更に登記に関する費用が加わり60〜70万円が相場です。もちろん財産額に比例して費用も大きくなります。
気になった方は以下のサイトをご覧ください。
グリーン司法書士オンライン
https://green-osaka.com/online/family-trust-cost
個人信託・家族信託研究所
https://www.trust-labo.jp/
まとめ
今回は成年後見制度についてご紹介してきました。改めて、内容をまとめます。
・「成年後見制度」とは認知症などにより判断能力が十分でない方が不利益を被らないよう、本人に代わって「成年後見人」が適切な財産管理や契約行為の支援を行う制度。
・成年後見人には、欠格事由に該当しないのであれば誰でも成年後見人になる事ができる。
多いのは、親族や弁護士などの専門家がなる場合で、法人でも複数人でもなれる。
・成年後見人を利用するメリットとデメリット
メリット |
デメリット |
・不利益になる契約を防ぐことができる
・契約を結んでしまっても、後から解消できる
・財産を詐欺や家族の使い込みから守ることができる
・被後見人の判断能力が不十分でも必要な手続きや契約を進めることができる
・相続発生時に財産の把握ができる
|
・義務が発生し、手間がかかる
・途中でやめることができない
・柔軟な対応が難しくなる
・専門家が後見人になった場合は継続的に費用がかかる
|
・成年後見制度には、「法定後見制度」と「任意後見制度」の二つがあるが、いずれも一度家庭裁判所に申し立てると取り下げることはできない。
・費用の相場としては、申立時に10〜20万円。その後、後見人や後見監督人に対して月々数万円の報酬の支払いが発生する。
・成年後見制度以外に、本人に代わって財産管理を行なう方法としては「家族信託」という手もある。
今回の記事を読んで、より詳しい事をお知りになりたい方は、司法書士や弁護士などの専門家、または市町村や社会福祉協議会に相談してみてください。
【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール