簡単解説!家族信託とは?知っておくべき8つのメリット・デメリット
被相続人の財産管理というのは、本人にとってはもちろん相続人にとっても非常に大切なことです。
できれば双方が納得する形で早めに管理を始めておき、いざという時にはスムーズに相続等の手続きを行いたいと考えます。
そこでこの記事では、そのようなスムーズな財産管理や相続を行える「家族信託」という制度についてご紹介していきます。
家族信託の基礎知識
それではまず、家族信託の基礎知識からご説明していきましょう。
家族信託とは・家族信託の仕組み
「家族信託」とは、信頼する家族に自らの財産管理を任せる手法のことです。
老後に寝たきりになったり認知症などを発症してしまうと、自らの財産を管理するのが難しい場合もあります。
そこで、所有する不動産や預貯金などを家族に任せ安全に管理するということを目的としてこの制度が作られました。
遺言書や後見制度の代わりに利用したり、あるいは組み合わせたりもします。
いずれにしても、より強く被相続人の意思を尊重した財産管理ができると言えるでしょう。
この家族信託は、主に以下の三者間でやりとりを行います。
・委託者→財産を所有している人物のこと。財産が委託されると「信託財産」と呼ぶ
・受託者→信託財産を実際に運用する人物のこと。それに伴い名義人も受託者になる
・受益者→信託財産によって発生した利益等を実際に受け取る人物のこと
一般的な「信託」は、信託銀行が行う年金信託や投資信託などがメインです。
このケースでは受託者が信託銀行となるのですが、その場合は「信託業法」という法律に基づき、免許を取得している信託銀行や会社でしか信託を行うことができません。
しかし「家族信託」の場合は、家族はもちろん信頼できる親戚などに受託者となってもらい、財産管理を任せることができます。
信託銀行や会社に信託を依頼すると費用が発生しますが、家族信託では基本的に不要です。
成年後見制度との違い
こうした財産管理に関しては「成年後見制度」を利用するのが一般的でした。しかしその場合では以下のような制約が生まれてしまいます。
まず、成年後見制度では「正しく財産管理しているか?」を家庭裁判所に報告する義務がありました。
本来であれば財産管理をしている人物の手で自由に財産運用等ができれば良いのですが、このように管理されている以上、気軽にいじることができません。
また、もしも家庭裁判所によって「この後見人の動向をきちんと監督する必要がある」と判断された場合、「後見監督人」をつけなければなりません。
この後見監督人をつけることでさらに強く財産管理を監督されるだけでなく、後見監督人への報酬も支払う必要があります。
金額は「1〜2万円程度/月」ですが、後見監督人がいる限りずっと払い続けることを考えると合計ではかなりの出費になります。
このように、成年後見制度では上記のような手間や費用が必要です。
しかし「家族信託」では、基本的に委託者と受託者の希望があればそれに沿った財産管理を行うことができます。
家庭裁判所への報告義務等も無いので、成年後見制度と比較しても被相続人の意思をより強く反映できる制度と言えるでしょう。
家族信託が注目される理由
それではなぜ、新たな財産管理の手法としてこの「家族信託」が注目されているのでしょうか?
認知症への備え
少子高齢化が進行しているこの日本では高齢者が年々増加傾向にあります。
それに伴い認知症患者の数も増えており、2025年には「65歳以上の5人に1人が認知症になる」と言われているほど。
そうなってしまうと財産管理にも支障が生じます。
まず、認知症などで被相続人の判断能力が低下してしまうと適切な財産管理を行うことが難しくなるでしょう。
そのため、亡くなった後に適切な配分で分配したり財産の売却などを行うということができなくなります。
いくら被相続人の判断力が低下していても、他人の財産を勝手にいじることはできません。
そうした事態を防ぐために、あらかじめ信頼できる人物を受託者に指定する方法として家族信託が注目を浴びているのです。
任意後見制度の利用に対する限界
「任意後見制度」とは、被相続人の判断力が低下する前に財産管理に関する後見人を指定できる制度のことです。
認知症以外にも、不慮の事故などで突然判断力が低下してしまう可能性はあります。そうした事態に備えるための制度なのです。
この制度が効力を発揮するのは「実際に被相続人の判断力が低下した後」になります。
しかし、実際に判断力が低下したかどうかということは見極めが非常に難しいところです。
後見人が被相続人と同居をしていない場合は、その見極めがさらに困難になるでしょう。
さらに、先述の通り後見人が管理している財産が適切に管理されているかどうかを家庭裁判所によって監督されています。
そのため、積極的に生前贈与や財産活用などを行うことも難しいでしょう。
こうした縛りなどもあり、任意後見制度に対しては限界が来ているとの意見もあったのです。
財産の承継に対する安心感
信頼できる家族や親戚に管理を依頼できるというのはもちろん、財産管理や運用が適切に行われているのかを委託者本人がしっかり確認できるため安心感が全く違います。
それに対して任意後見制度の場合は、本人の判断力が低下してからでないと適用されないため、きちんとした管理が行われているかどうかを事実上確かめる術がありません。
家族信託のメリット
上記のように家族信託が注目されているのには様々な理由があります。
それでは、他には具体的に家族信託にはどのようなメリットがあるのでしょうか?
柔軟な財産管理が実現できる
先述の通り、従来の後見人制度では家庭裁判所からの管理及び報告義務があったため、自由に財産を運用したり相続税対策を行うなどのことがなかなかできませんでした。
さらに、被相続人の判断力が実際に低下しないと財産の管理ができないという点も大きな障壁となっていた方が多いのではないでしょうか?
しかし家族信託であれば、そのような時期を待たず被相続人の希望に合わせて財産を管理することができます。
また、後見人制度とは異なり受託者の判断で積極的に財産運用を行うことも可能です。
親の財産管理が容易に行える
家族信託であれば、受託者となる人物が身近にいるため容易に財産管理を行えます。
具体的には、例えば「親の財産を子供に自由に使って欲しい」という場合は、親が存命の間に財産の名義を子供に変更しておき、「親=委託者兼受益者」「子供=受託者」となるように家族信託をすることで希望を叶えることができるということです。
後見人制度よりも自由に財産を運用できる家族信託だからこそのメリットと言えるでしょう。
遺言書ではできないことが可能
基本的に被相続人の意思は、財産管理の方法などを含めて遺言書によって遺されることが多いです。
しかし遺言書の場合は記載方法や内容に細かいルールがあるため、それが障壁となり、なかなか遺言書の作成に踏み出せないという方もいるのではないでしょうか?
しかし、家族信託の場合は「委託者である被相続人」と「受託者である家族」の間で納得できる契約が結べていれば問題ないため、遺言書のような厳格な方式に従う必要がないのです。
さらに家族信託の契約書では、被相続人が亡くなった後に「どのように財産を管理してほしいか?」という方法も指定することができます。
例えば、認知症である配偶者を遺して被相続人本人が亡くなった場合、この配偶者自身で財産管理を行うのはかなり難しいでしょう。
そのような時に備えて「後見人を指定する」などしておくことで、遺された家族の財産管理方法まで指定することができるのです。
財産承継の順位づけが可能
遺言書では相続人の指定を行うことができます。
しかし、遺言書の中で指定した相続人が認知症になってしまったり亡くなってしまった場合は、それ以降の相続人を指定する権限はありません。
しかし家族信託であれば、財産継承の順位を定めることができます。
例えば、「第一順位の継承者である◎◎が亡くなった場合は、第二順位の継承者である□□に相続させる」というような形です。
これにより継承者の順番をあらかじめ指定できるため、遺産分割協議でトラブルとなることもなくなるでしょう。
倒産隔離機能がある
万が一、委託者である被相続人本人や受託者が信託財産とは無関係に借金などを背負ってしまっても、「倒産隔離機能」により信託財産を差し押さえられることがありません。
配偶者の認知症対策に活用できる
配偶者が認知症になってしまい判断力が低下している場合、仮に遺言書で「配偶者に財産を相続させる」と宣言しても、それを適切に使える可能性はかなり低いです。
そこで家族信託を利用し、委託者である被相続人本人が亡くなった後の受益者を配偶者に変更しておくことで、受託者が運用して得た利益を配偶者のために活用することが可能になります。
不動産の共有回避や共有不動産の塩漬け予防
基本的に共有不動産を処分する際は、相続人全員の同意がないとできません。
そのため、共有財産としておくことでいずれ「管理処分権」の問題が発生する可能性があります。
しかし、家族信託によって管理処分権のみを相続人の1人にまとめ、その他の権利や財産としての価値はこれまで通り分配することで、不動産の塩漬けを予防することが可能です。
二次相続が指定できる
先述の財産承継の話にも繋がりますが、「二次相続」によって被相続人の意思をさらに尊重した財産分与を実現できます。
遺言書で被相続人が指定できるのは、あくまでも被相続人が亡くなった時点での「一次相続」のみです。
もしも、被相続人の意思として「◎◎には財産を相続してほしいが、◎◎の相続人である□□には相続して欲しくない」という希望があった場合でも、それは実行されません。
なぜなら、◎◎が受け取った財産をどのように分配するかは◎◎に決める権利があるためです。
被相続人といえども、自分の直接の相続人ではない□□に対して分配割合を指定することはできません。
しかし家族信託の場合は、◎◎が亡くなった後の受益者として□□ではなく別の人物を指定することが可能です。
これは「受益者連続信託」と言う仕組みであり、これにより遺言書よりも被相続人の意思を強力に実現できます。
家族信託のデメリットとリスク・注意点
家族信託には、上記のようなメリットだけではなくデメリットも存在します。
そのため両方の観点をしっかり認識しておき、自分達にとってベストな選択ができるようにしましょう。
成年後見や遺言でないとできない事もある(信託の限界)
少し不自由なこともある成年後見制度や遺言ですが、逆にこれらの手段で行った方が良いこともあります。
その代表的なものが「身上監護」に関することです。
身上監護とは、被相続人の介護や療養などの生活に関わる行為を補助する職務のことを指します。
成年後見制度では「身上配慮義務」が規定されているため、財産管理だけでなく被相続人の身上監護も行う必要があるのです。
しかし家族信託の場合は、この身上監護に関する取り決めがありません。
受託者であるだけでは、上記のような介護等に関わる行為(施設の入所手続き等)ができないのです。
そのため被相続人の身上監護まで視野に入れた取り決めを作りたい場合は、成年後見制度を利用して身上監護権を行使したり、遺言書を作成した方が良いでしょう。
また、生前の信託契約で扱えるのはあくまでも「その時点で存在が確認できた財産だけ」です。
そのため、信託契約で網羅できず漏れてしまった財産の分配等に関しては、別で遺言書を作成しておく必要があります。
受託者を誰にするかで争いになる可能性
家族信託を成り立たせる要因の一つとして「家族間の信頼」が挙げられます。
自分の財産の名義人を変更しその管理を任せるのですから、信頼がなければ難しいでしょう。
そのため、信頼していた人物に適当な管理をされてしまうと、委託者はもちろん他の相続人からも反発を招く恐れがあります。
また、そもそも財産の名義人を変更することに抵抗を感じる方もいるでしょう。
そのような事態になると、委託者と相続人同士でもトラブルとなる可能性は十分にあります。
節税効果は期待できない
生前贈与や相続であれば、基礎控除等を活用して節税をすることも可能です。しかし家族信託に関しては特にそうした節税効果はありません。
さらに受益者となった場合は、直接財産を相続していなくても「財産を取得している」と判断されるため、もしかしたら税金等の負担が大きくなるかもしれません。
遺留分侵害額請求の対象となる可能性
遺留分とは、(兄弟姉妹を除く)法定相続人に与えられている権利のことです。
この制度によって、法定相続人には最低限の財産が分配される権利が守られているのです。
そのため、家族信託で決められた財産の継承者などがこの遺留分に反する場合は、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を要求することができます。
しかし、家族信託自体が比較的新しい制度であるゆえに「信託の場合は遺留分請求の対象外である」と言う意見もあるため、ケースによって判断が異なるという点には注意しなければなりません。
損益通算ができなくなるリスク
「損益通算」とは、定められた期間内に発生した利益と損失を相殺することを指しており、主に投資で用いられる考え方です。
本来、不動産運用等で利益が発生した場合は税金がかかります。
しかし、もしも損失が発生した場合はその分を利益から引くことで税金を抑えることができるのです。
しかし、家族信託で運用した不動産に関してはこの損益通算が適用されない場合があります。
税務申告の手間が増える
財産の一部でも家族信託に入れた場合は、その財産から年間3万円以上の収入が発生した時に「信託計算書」及び「信託計算書合計表」を税務署に提出する必要があります。
さらに信託財産の中に不動産所得もある場合は、確定申告の際に不動産所得の明細書とは別で「信託財産の明細書」も提出しなければなりません。
こうした手間が惜しい方は税理士に依頼すると良いでしょう。
実務に精通した専門家が少ない
家族信託は、まだ新たに注目され始めたばかりの制度。
そのため、例え弁護士や司法書士などの専門家であっても、完全に内容を理解しきれていないというのが現状です。
そのため、家族信託に関する相談をする際は、豊富な実績がある専門家をきちんと吟味した上で依頼することをオススメします。
「目的」ではなく「手段」
先述の通り、家族信託という行為自体には直接の節税効果はありません。
しかし、場合によっては家族信託を組んだ後に不動産の売却や買換え等を行うことによって、相続税対策ができる可能性もあります。
そのために家族信託を行う方もいますが、それはあくまでも「手段」に過ぎません。
本来であれば、「柔軟な財産管理をしたい」「財産相続に関するトラブルを避けたい」などそれぞれの「目的」に合わせた「手段」の一つとして家族信託を行うのが理想です。
そのため、きちんと「家族信託によってどういうことを達成したいのか?」という目的を明確にした上で、その手段として家族信託をどのようにいじるのかを検討しましょう。
専門家報酬を必要経費と割り切る必要性
先述の通り、家族信託はまだ新しい制度です。
そのため相談できる専門家も限られており、信頼できる業者がいたとしても専門家報酬が通常の相続等に関するものよりも高額になる可能性があります。
とはいえ、財産管理という法律も関わるような難しい話題を家族間だけで解決しようとするのはかなり難しいでしょう。
万が一ルールに違反するようなことがあれば、追加で費用を支払う可能性すらあります。
それを考慮すると、家族信託は今後何十年にも渡り続いていく話なので、多少専門家報酬が高くても「円滑な財産管理を行うための先行投資である」という割り切りの気持ちも必要になってくるでしょう。
長期にわたって当事者を拘束する
家族信託では、遺言書と異なり二次相続以降に関しても被相続人が決定することができます。
そのため被相続人の意思がより反映されやすくなったのですが、逆にいえば「世代を超えて財産管理に関する制限を設けることができる」ということ。
これが原因で将来的にトラブルとなる可能性も否定できません。
それを考慮すると、長期に渡る家族信託を設計するためには通常の遺言書作成などよりも、綿密に設計を組み立てる必要があると言えます。
家族信託の手続きと費用
それでは具体的な家族信託に必要な手続きの流れと費用を確認していきましょう。
手続の流れ
家族信託は、基本的に以下のような流れで行います。
まずは「委託者・受託者・受益者」の中で、家族信託の目的や内容について協議します。
先述の通り、家族信託はあくまでも手段に過ぎないので、ここでしっかりと「家族信託によって達成したいこと」を決めておきましょう。
内容を決めたら、公正証書により「信託契約書」を作成します。
公正証書によって作成した契約書は公証役場がその信頼性を証明してくれるため、こうしたお金に関わる契約では利用されることが多いです。
次に、信託財産となった不動産を受託者名義に変更しましょう。
これは「信託登記」と呼ばれています。登記を行なったら受託者名義で専用口座を開設し、そこに対象となる信託財産を入れましょう。
以上の流れを踏むことで、家族信託による財産管理が開始されます。
家族信託にかかる費用
銀行や会社に依頼する信託とは異なり、基本的に家族信託は家族間で完結するものです。そのため特別な費用等はありません。
しかし、家族信託自体ではなく以下のように間接的な場面では費用が必要となるので注意しましょう。
◎公証役場に支払う費用
公正証書の作成には公証人なども必要なため、いくらかの費用がかかります。財産額によっても異なりますが、一般的には「1〜5万円程度」になることが多いです。
◎コンサル費用
家族信託は複雑な仕組みのため、場合によっては専門家によるコンサルティングを依頼することもあるでしょう。
その場合は手数料が必要となり、金額はコンサルタントによって異なります。
相場としては「財産額が1億円以下の場合はその中の1%が手数料。それ以上の金額部分は0.5%が手数料」というのが多いそうです。
◎(財産の中に不動産がある場合)登録免許税
「登録免許税」とは、不動産の登記手続きの際に必要な税金のこと。
この金額は「固定資産税評価額の4/1,000」というのが一般的です。ただし土地信託を行なった場合は割合が「3/1,000」になります。
◎その他の費用
他には、信託監督人や受益者代理人などの第三者を絡める場合に支払う費用などもあります。
家族信託の活用事例
それでは具体的に、家族信託を活用した事例を確認していきましょう。
認知症に備える(後見代用信託)
現在は父親の手によって不動産運用が行われている。
その運用によって利益を取得しておりいずれは相続税に備えて不動産の処分も考えているが、もし認知症等になってしまうとそうした運用ができなくなってしまう。
そのため、そうした事態になる前に家族信託契約を結んでおき、父親の判断力が低下した場合の生活費の拠出や不動産処分等を行えるようにした。
障がいのある子に財産を残す
現在夫婦の間には子供がいるが、障がいを抱えているため両親が亡くなった後の財産管理に不安がある。
そのため家族信託を行い、「両親→委託者・子供→受益者・信頼する親戚→受託者」という内容を組むことによって、将来的に子供が安心して暮らせるような手続きを取った。
事業承継に活用する
現在は創業社長として会社を経営しているが、そろそろ2代目に引き継ぎたいと考えている。
通常であれば株式の生前贈与等を行うことで引き継ぐのが一般的だが、できれば2代目以降の社長に関しても創業社長である自分の意思を反映しておきたい。
しかし、通常の生前贈与や相続では2代目以降の社長の指定はできない。
そこで家族信託を利用することで、2代目以降の社長の指定についても自分の意見を反映できるようにしておいた。
家族信託についてのまとめ
以上が家族信託における基礎知識やメリット・デメリットについてです。それでは最後に改めて、今回の内容をまとめて確認しておきましょう。
◎「家族信託」とは、信頼する家族に自らの財産管理を任せる手法のこと。
◎家族信託は、主に以下の三者間でやりとりを行う。
・委託者→財産を所有している人物のこと。財産が委託されると「信託財産」と呼ぶ
・受託者→信託財産を実際に運用する人物のこと。それに伴い名義人も受託者になる
・受益者→信託財産によって発生した利益等を実際に受け取る人物のこと
◎「家族信託」の場合は、家族はもちろん信頼できる親戚などに受託者となってもらい、財産管理を任せることができる。
また、信託銀行や会社に信託を依頼すると費用が発生するが、家族信託では基本的に不要。
◎こうした財産管理に関しては「成年後見制度」を利用するのが一般的。
しかし、成年後見制度では「正しく財産管理しているか?」を家庭裁判所に報告する義務があるため、自由な財産運用が実現されなかった。
◎新たな財産管理の手法としてこの「家族信託」が注目されている主な理由は以下の通りである。
・認知症への備えができる
認知症などで被相続人の判断能力が低下してしまうと適切な財産管理を行うことが難しくなる。
そのため、あらかじめ信頼できる人物を受託者に指定する方法として家族信託が注目を浴びている。
・任意後見制度の利用に対する限界がある
この制度が効力を発揮するのは「実際に被相続人の判断力が低下した後」である。
しかし、実際に判断力が低下したかどうかということは見極めが非常に難しい。
・財産の承継に対する安心感がある
信頼できる家族や親戚に管理を依頼できるというのはもちろん、財産管理や運用が適切に行われているのかを委託者本人がしっかり確認できるため安心感が全く違う。
◎家族信託の主なメリットは以下の通りである。
・柔軟な財産管理が実現できる
家族信託であれば、家庭裁判所などの監督を受ける必要もなく被相続人の希望に合わせて財産を管理することが可能である。
・親の財産管理が容易に行える
家族信託であれば、受託者となる人物が身近にいるため容易に財産管理を行える。
・遺言書ではできないことが可能
家族信託の場合は「委託者である被相続人」と「受託者である家族」の間で納得できる契約が結べていれば問題ないため、遺言書のような厳格な方式に従う必要がない。
・財産承継の順位づけが可能
遺言書では相続人の指定を行うことはできるが、それ以降の相続人を指定する権限はない。しかし家族信託であれば、財産継承の順位を定めることができる。
・倒産隔離機能がある
万が一、委託者である被相続人本人や受託者が信託財産とは無関係に借金などを背負ってしまっても、「倒産隔離機能」により信託財産を差し押さえられることがない。
・配偶者の認知症対策に活用できる
家族信託を利用し、委託者である被相続人本人が亡くなった後の受益者を配偶者に変更しておくことで、受託者が運用して得た利益を配偶者のために活用することが可能になる。
・不動産の共有回避や共有不動産の塩漬け予防
家族信託によって管理処分権のみを相続人の1人にまとめ、その他の権利や財産としての価値はこれまで通り分配することで、不動産の塩漬けを予防することが可能。
・二次相続が指定できる
「二次相続」によって被相続人の意思をさらに尊重した財産分与を実現できる。
◎家族信託におけるデメリットは以下の通りである。
・成年後見や遺言でないとできない事もある(信託の限界)
家族信託の場合は身上監護に関する取り決めがないため、受託者であるだけでは介護等に関わる行為(施設の入所手続き等)ができない。
・受託者を誰にするかで争いになる可能性
信頼していた人物に適当な管理をされてしまうと、委託者はもちろん他の相続人からも反発を招く恐れがある。
・節税効果は期待できない
生前贈与や相続であれば、基礎控除等を活用して節税をすることも可能。しかし家族信託に関しては特にそうした節税効果はない。
・遺留分侵害額請求の対象となる可能性
家族信託で決められた財産の継承者などがこの遺留分に反する場合は、遺留分侵害額請求によって最低限の取り分を要求することができる。
ただし、ケースによって判断は異なる。
・損益通算ができなくなるリスク
家族信託で運用した不動産に関しては損益通算が適用されない場合がある。
・税務申告の手間が増える
家族信託に入れた財産から年間3万円以上の収入が発生した場合、「信託計算書」及び「信託計算書合計表」を税務署に提出する必要がある。
・実務に精通した専門家が少ない
家族信託は新たに注目され始めたばかりの制度のため、専門家であっても完全に内容を理解しきれていない場合がある。
・「目的」ではなく「手段」
きちんと「家族信託によってどういうことを達成したいのか?」という目的を明確にした上で、その手段として家族信託をどのようにいじるのかを検討すべき。
・専門家報酬を必要経費と割り切る必要性
家族信託はまだ新しい制度のため相談できる専門家も限られており、専門家報酬が通常の相続等に関するものよりも高額になる可能性がある。
・長期にわたって当事者を拘束する
長期に渡る家族信託を設計するためには、通常の遺言書作成などよりも綿密に設計を組み立てる必要がある。
◎家族信託に必要な手続きの流れは以下の通り。
まずは「委託者・受託者・受益者」の中で、家族信託の目的や内容について協議する。
内容を決めたら、公正証書により「信託契約書」を作成する。作成したら信託財産となった不動産を受託者名義に変更し専用口座も開設する。そこに対象となる信託財産を入れることで完了となる。
◎基本的に家族信託は家族間で完結するものなので、特別な費用等はない。
しかし、家族信託自体ではなく以下のように間接的な場面では費用が必要となる。
・公証役場に支払う費用
財産額によっても異なるが、一般的には「1〜5万円程度」になることが多い。
・コンサル費用
相場としては「財産額が1億円以下の場合はその中の1%が手数料。それ以上の金額部分は0.5%が手数料」というのが多い。
・(財産の中に不動産がある場合)登録免許税
「登録免許税」とは、不動産の登記手続きの際に必要な税金のこと。この金額は「固定資産税評価額の4/1,000」というのが一般的。
・その他の費用
他信託監督人や受益者代理人などの第三者を絡める場合に支払う費用など。
家族信託はまだ比較的新しい制度のため、専門家であっても判断が難しい場面もあります。
しかしここで述べた通り、従来の制度には無いメリットも存在しています。もちろんだからと言って安易に家族信託を選べば良いというものでもありません。
しかし、この制度によって財産管理の選択肢は確実に広まっていると言えます。事前にこうした情報は確認しておき、いざという時に慌てず適用できるようにしておきましょう。
【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール