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相続,墓,墓じまい

お墓の権利を放棄する方法は? 相続と墓じまい・改葬の手順について解説します

近年お墓を持つことが難しくなってきて、お墓を相続したけれど、今後の管理は困難という方が増えています。だからといって、何の手順も踏まずにお墓を放棄することは、決してあってはなりません。今回は、お墓の権利を放棄する正しい方法・手順について解説します。

そもそもお墓の相続とは?


相続とは、残された被相続人の財産や権利を相続人が受け継ぐことを言います。

しかし、お墓も相続財産にあたるのでしょうか?

ここでは、お墓を相続するとはどういうことなのかを見ていきましょう。

祭祀財産と継承とは

遺産相続に関する規律は民法によって定められていますが、お墓もこれに従うことになります。

ただし、お墓などは祭祀財産と呼ばれ、民法でいうところの「被相続人の財産に属した一切の権利義務」、つまり一般的にいわれる『相続財産』とは切り離されて扱われ相続する人は「祖先の祭祀を主宰すべきもの」と規定されています。

これは複数の被相続人がいれば、相続財産は法律にしたがってその複数で相続=継承することになりますが祭祀財産の場合は相続人が複数いてもそれを継承するのは1人であるということを意味しています。

祭祀財産は祖先の祭祀を行うという性質上、相続人で分割することが適当ではないことから、継承者も1人にするように法律で定められているのです。

ここでは、祭祀財産の種類と法律上の継承について解説します。

祭祀財産

祭祀財産と呼ばれるものには「系譜」「祭具」「墳墓」の3つがありますが、それぞれについて見ていきましょう。

・系譜

系譜とは先祖からその子孫まで、先祖代々の血縁のつながりが記されている記録のことで、掛け軸や巻物として残っている場合があります。

また、家系図だけでなく過去帳もこれに含まれ、寺院墓地であれば過去帳を寺院が管理している場合もあります。

・祭具

祭具とは祭祀を行う際に使用される器具の総称のことで、仏壇や位牌、仏像や神棚、またこれに付属した用具のすべてをさします。

お盆参りで一時的に使われる盆提灯などの道具もこれに含まれます。

・墳墓

墳墓とは故人の遺体や遺骨をはじめ、それらが祀られている設備すべてを指します。

祭祀財産の継承

上記で紹介した3つの祭祀財産についての所有権ですが、民法897条で誰に引き継ぐのかが定められています。

お墓などの祭祀財産を相続する人のことを、民法では「祖先の祭祀を主宰すべき者」という表現を使うので、祭祀財産の継承者を「祭祀主宰者」とも呼びます。

ここでは、祭祀財産の継承について見ていきましょう。

・故人から相続人としての指名されていたもの

故人の遺言書に書き残されていたり、また、生前から口頭で指名があった場合は指名を受けた相続人が祭祀財産の継承者となります。

口頭での指名はなかなか証明されにくいものですが、生前にお正月やお盆など兄弟や親族が集まるところで、ことあるごとに継承者について述べていたりすれば、それだけでも指名を受けたとされます。

・慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべきもの

誰がその祭祀継承者であるかは、それぞれの地方や地域の慣習に従うことを原則としています。

ここでいう慣習とは、被相続人の住所地のある地域のことを指しますが、出身地や職業による特別な慣習があれば、それに従うことになります。

長男でなくても家業を継いだものが後を継ぐ、また、地域によっては一番若い末子が後を継ぐというところもあります。

今でも長男が祭祀継承者になるという慣習が残っている地域は多いですが、家制度での長男や男性の遺族の継承というのは民法でいうところの慣習には含まれません。

・家庭裁判所の判断によるもの

故人からの指名もなく、地域の慣習も明らかでない場合においては、慣例として遺族間での話し合いがまとまれば、継承者は誰でもいいことになっています。

話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の審判によって祭祀継承者を決めることになります。

地方では、祭祀を行うのに手間や費用が掛かることなどから祭祀の継承者になりたくなくて裁判になることがあるようですが、都心の一等地に墓地を持っている場合などでは、祭祀継承の権利を奪い合うために裁判になることもあるようです。

ちなみに、裁判所の審理をゆだねた場合は「一切の事情を考慮する」ということで、被相続人との血縁的な関係だけでは決まらないことになります。

・継承権の共同継承や分割継承

基本的に、祭祀財産の継承権を継承するのは1人ですが、特別な事情により共同継承や分割継承が認められたケースがあります。

先妻の子と後妻との間で分割継承を認めた事例、また二つの家の祖先が同じで共同墓地になっていたことから共同継承を認めた事例などですが、認められるのはあくまでも特別な事情の場合のみに限られ、それも裁判所の判断にゆだねられます。

お墓の継承権利の放棄方法

祭祀財産は「承継」とも呼ばれることからわかるように、継がなければならないものという仕組みになっており、祭祀継承者に指定された場合は拒否も辞退もできません。

しかし、継承したからといって、法事などの祭祀を執り行わなければならないという義務はなく、祭祀継承者は祭祀財産を自由に売却や処分できるという権利を持ちます。

そのため、継承するものを処分することで、放棄できない継承権をなくしてしまうという方法があります。

つまり、祭祀財産を処分してしまえば、その祭祀財産とともに継承した権利自体が存在しなくなるというわけです。

逆に言えば、お墓の処分も祭祀継承者がいなければできないことなので、今後、祭祀を継承していくことが難しいのなら思い切って処分してしまうのも一つの方法かも知れません。

それぞれの個人の事情により継承したくない場合、また継承できない場合もあるでしょう。

その場合には、お墓をたたむ=墓じまいをすることになります。

長男でも継承放棄できる?

日本においては、すでに16世紀の頃に古くから跡目争いや財産の分散を避けるために、慣習として長子(多くの場合は男子を指します)が家を継ぐといった家制度がありました。

その家制度ですが、江戸時代に一般的になり、明治時代には家督相続制度として民法で明文化されましたが、戦後には廃止されています。

しかし、戦後70年経った今でも多くの方に長男または長子相続の意識が残っており、地方に行くほど強くなる傾向があります。

そもそも、現代においては「長男でも継承放棄できる」どころか、長男が継承しなければならない義務自体が存在しません。

一般的な相続財産は兄弟姉妹の間で均等に分割される時代なのですから、祭祀財産のみ長男が継承しなければならないとすること自体が今の時代に即した考えかたではないのです。

長男である方が祭祀継承権を受け継ぐ意志を持たなければ、他の兄弟なり親族が継ぐことになるだけのことです。

お墓の継承権と相続権の関係


お墓は祭祀財産であること、また継承する人は一人であることが分かりました。

では、祭祀継承者は被相続人や親族に限られるのでしょうか?

また、親族がいない人のお墓は、継承されることはないのでしょうか?

ここでは、お墓の継承と相続権についてみていきましょう。

法定相続人でなくともお墓の継承はできる

民法で言われる相続財産は、亡くなった方の系譜にしたがって法定相続人に相続されますが、この祭祀財産に限っては、法定相続人でなくても相続することができます

法律による規定が何もないので、被相続人の遺言や指名があれば他人となった前妻やその血の繋がりのない子ども、また、極端な言いかたをすれば赤の他人でも継承することはできます。

また、被相続人の遺言や指名があれば、たとえ相続放棄をしても祭祀財産は継承しなくてはなりませんし、逆に負の遺産から逃れるために相続放棄をした場合でも祭祀財産は承継できるのでお墓は手放さずに済みます。

祭祀財産を相続するのは1人ですが、祭祀財産はお金に換金しにくいこともあり、承継者の相続分又は遺留分の算定のときにも相続財産には加えませんので、相続税の課税対象にもなりません。

そういう意味でも、誰が相続しても構わないということになります。

葬儀代は相続の対象ではない

葬儀は、追悼儀式を主宰した主催者=喪主が行うもので、基本的にその費用負担は喪主がすべてを負うものです。

基本的な考え方として、初七日までは追悼儀式であり喪主が費用を負担しますが、初七日からは祭祀にあたるので祭祀継承者が費用を負担します。

ただし、近年では都合上、葬儀の日に初七日の法要を営まれることが多いので、その場合は初七日も葬儀費用に含めて考えるのが一般的になっています。

喪主と祭祀継承者は、多くの場合は同一であることが多いのですが、必ずしも同一である必要はなく、別でも構いません。

例えば、ご夫婦のうちのご主人がご両親より先に亡くなった場合など、喪主は妻で祭祀継承者は義理父という場合などがあります。

なので、その葬儀代を祭祀継承者が相続して負わなければならないという責務はありません

また、葬儀費用は相続が開始した後に発生する費用であるため、相続債務にもあたりませんので相続人が応分して負担しなければならないということもありません。

あくまでも、儀式を執り行う主催者の負担ということになりますが、法的な決まりごとは何もないということを覚えておかれるといいでしょう。

ですから、故人が生前に葬儀会社と契約して葬儀費用を用意している場合もありますし、相続遺産の中から支払うことも可能です。

また、その場合には相続税の控除の申告、葬儀費用を加味した遺産分割をすることもできます。

このように、葬儀と祭祀は別ものなので、分けて考えると分かりやすいです。

お墓をたたむ手順


ここまで、お墓の相続について紹介してきましたが、祭祀継承者になった方の判断で「お墓をたたむこと=墓じまい」ができることがお分かりいただけたと思います。

墓じまいでは

    • ・お墓の処分(撤去)
    • ・お墓の改葬(移転)

大きく以上の2つのことについて行いますが、そのためには多くの手続きを必要とします。

お墓には遺骨が納められていますので、その遺骨をどうするかによって手続きが変わってきますがが、一般的に

    • ・親族・寺院との相談
    • ・改葬先の決定
    • ・埋葬証明書、受入証明書の用意
    • ・改装許可申請
    • ・石材店の決定
    • ・ご遺骨の保全
    • ・墓石の撤去

以上の手順にしたがって墓じまいを行います。

仏教であれば、遺骨の取り出しと納骨には閉眼供養(魂抜き)と開眼供養(魂入れ)の法要が必要になります。

祭祀継承者は、祭祀財産を自由に売却や処分をする権利を持つとはいえ、独自の判断で行う前に親族間での話合い了承を得ておかないと、後々の親族間トラブルに繋がります。

また、寺院墓地の場合には菩提寺である寺院の住職に相談して理解をいただかないと、こちらも離檀料などで金銭トラブルになることがあります。

墓じまいは、慎重に話を進める必要があります。

檀家をやめるには?

お墓が寺院にある場合、寺院は「菩提寺」であり、お墓の使用者は「檀家」という関係にあります。

祭祀を継承した場合、被相続人である故人が檀家であればそれも継承することになります。

寺院の行事や寄進なども継承することになるので、そのお寺の宗教や宗派と違う人が継承者となることは難しいことが多く、檀家をやめる=離檀も考えなければいけません。

また、お墓の処分(撤去)や改葬(移転)を考えるときも、離檀することになります。

寺院の土地の一部を借りる形でお墓があるわけですから、お墓を移転したり撤去したりするには、寺院に土地を返す手続きとして、墓地使用契約の解除が必要になります。

改葬許可申請書は墓地納骨堂管理者の署名と捺印が、また、埋蔵証明書には埋蔵された方の氏名と死亡年月日、さらにそれを証明するために墓地管理者の署名と捺印が必要です。

どちらも菩提寺の住職に記入をお願いすることになりますので、遺骨を勝手に持ち出すことはできません

離檀がトラブルにならないように、菩提寺の住職によく相談し、やむを得ず檀家をやめる選択をしなければならない事情や状況などを伝え、十分にご理解を頂いてからその手続きを踏んでいきましょう。

今までお墓を守っていただいた寺院への感謝と敬意は忘れないでください。

菩提寺の住職から十分なご理解が頂ければ、離檀も円満に行うことができるでしょう。

お墓の権利放棄と墓じまい


身近だった方の遺骨や祖先の遺骨が納められているお墓ですから、できるだけ放棄しないで相続して継承するに越したことはないのですが、時代の流れとともにお墓のありかたなども変わってくるのはしかたがないことです。

お墓の継承が難しくなってきたからと言って、無責任に放置せず、やむを得ないこととはいえ正しい手続きを踏んで放棄することは大切なことです。

また、今後はお墓を持つかどうかの判断も慎重にするようにしましょう。

お墓の権利放棄を検討するなら、できるだけ祖先の霊を安らかに弔う方法を考えるのが、処分することで伴う心の問題の解決にもつながると思います。

墓じまいを考えるなら

    • ・永代供養
    • ・散骨
    • ・樹木葬
    • ・納骨堂
    • ・手元供養

主に以上のような墓じまい後の改葬方法がありますが、納骨堂への安置は管理料の問題が、また手元供養は手元に遺骨が残るという問題があるので、後々に何も残らないようにしたいなら墓じまいの方法として選択されないほうが望ましいでしょう。

まとめ


今回は、お墓の正しい放棄のしかたについて詳しく紹介してきました。

ご紹介した内容は以下の通りです。

    • ・お墓は祭祀財産と呼ばれ、分割できない相続財産である
    • ・お墓は一人の祭祀継承者にのみ承継され、祭祀継承者に選ばれたものは継承放棄はできないが、処分することで権利をなくすことができる
    • ・お墓を放棄するには、処分(撤去)または改葬(移転)の方法をとる

個人の土地にあるお墓以外は、お墓は所有権ではなくあくまでも使用権です。

使わなくなる、つまりお参りすることなどが無くなるのであれば、墓石や遺骨を撤去して墓地の所有者=管理者に更地にして返す必要があります。

また、お墓も継承する方がいなければ、無縁墳墓となってしまいます。

継承者が不明になってしまったお墓が、法律にしたがって1年間の公告を行った後に無縁墳墓と判断されれば、土地はお墓は取り払われた上、墓地管理者に返されることになります。

そして、お墓の中にあった遺骨は、その墓地の無縁供養塔などの無縁墓地に合祀されることになります。

お墓は家族の象徴とも言われる大切なものです。

様々な手続きがあり、時間と費用がかかりますが、やむを得ずお墓を放棄せざるを得なくなった場合はきちんと墓じまいの手続きを行うようにしましょう。

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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)

略歴
高橋圭 (たかはし けい)
青山学院大学法学部卒業。
2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
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1977年 東京生まれ(名古屋育ち)
略歴
母の死をきっかけに葬儀業界に興味を持ち、大学卒業後、大手葬儀社へ入社、家族葬から大規模葬儀まで、幅広くお葬式を葬儀担当者(セレモニーディレクター)として活躍。その後、葬儀会館の店長、新規開拓を歴任。お客様からの「ありがとう」という言葉をいただけることを仕事のやりがいとし、これまでに10年以上、5,000件以上の葬儀現場に立ち会う。
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株式会社GSI グリーフサポート アドバンスコース修了。