土葬は禁止されているの?土葬の一般的な認識の理由を解説
日本では火葬が一般的です。日本では古い時代にみられた土葬ですが、現在は一般的に禁止と認識されています。では、なぜこのような認識が広まったのでしょう?なかなか知る機会はないですよね。今回は、土葬が禁止されているという認識の歴史や事情など詳しく解説していきます。
土葬はいつから行われていたのか
日本では土葬はいつごろから見られたのでしょうか。
時代をさかのぼりますと、大昔、それも旧石器時代から行われていました。
ただ、その頃の人々は移動生活が主であったため、集落というものはなく、あっても一時的な狩猟用のキャンプ程度のものでした。
そのため、誰かが亡くなればそのキャンプの近く、もしくは移動の途上で土を掘って埋葬したものでした。
その後、縄文時代に入り集落が形成されるようになっても、集落の住居の内部に埋葬する例や、のちの時代には集落から離れたところに集団で埋葬する例も出てきます。
時代が下るにつれて、共同体ひいては国家のリーダーだけ他の人間とは別のところに豪華な形の墓を持つようになりました。
古墳時代に見られる古墳はその最たる典型です。
また、いわゆる棺桶と呼ばれる形の棺が出てくるのは鎌倉時代より後のことです。
この時代には、樽の形をした棺が出現し、ご遺体をその中に入れたうえで土に埋めるようになりました。
ただ、土葬がこのように広く行われていた一方で、仏教の伝来とともに伝わった火葬も広く行われていました。
いわゆる荼毘に付す(死者を火葬で弔う)という言葉も昔から火葬が行われてきた中で伝えられてきたものです。
土葬は禁止されているのか
土葬は、昔から行われていたことがわかりました。。
それでは、なぜ現在日本ではこのように土葬は禁止という認識が広まっているのでしょうか。
実は日本の法律では土葬は禁止していない
多くの方が誤解をしてしまっているようなのですが、実は現在の日本の法律は土葬そのものは禁止してはいないのです。
日本の法律で土葬について触れているのは、1948年に制定された墓地、埋葬等に関する法律(墓埋法)というものです。
この法律では、土葬も火葬と同じように取り扱われています。
土葬関係で禁止していることといえば、第3条の死体を原則24時間以内に火葬及び土葬してはいけないという規定くらいです。
ただし、これは火葬についても禁止ということなので、土葬だけを差別しているわけではありません。
このため、「日本では国レベルで土葬を禁止している」という認識は誤りといえるのです。
明治政府による火葬禁止令と土葬
日本という国が生まれるはるか昔から行われていた土葬ですが、その土葬をめぐる事情は明治時代から様変わりするようになります。
それは、土葬そのものではなく火葬をめぐる議論から始まりました。
明治政府は天皇を頂点とした国家をつくるために、国家神道を採用するなど神道寄りの立場に立っていました。
その神道寄りの人々が仏教で昔から行われていた火葬に反対したことから、1873年に火葬禁止令を出しました。
仏教側からは、火葬禁止令に対する猛烈な反発が起こりました。
さらに、都市部での土葬用のスペースが足りなくなったことや、衛生面からも火葬は好ましい葬礼の方法であるという意見も出されました。
そのため、1875年にこの法律は廃止になり、火葬が再び広く行われるようになりました。
ただ、その後昭和初期までは火葬場が整備されていなかったこともあって、それまでの方法で土葬が広く行われました。
土葬は自治体の条例で禁止されている
ここまで、土葬は国の法律では禁止されているわけではないということと、火葬禁止令と土葬についてがわかりました。
それでは、「日本では土葬は禁止」という認識はどこから出てきたものなのでしょうか?
ここでまた先ほどの墓埋法が出てきます。
その第10条に墓地の経営に関する規定があるのですが、それによれば墓地の経営には都道府県知事の許可が必要とされているのです。
さらにその都道府県は墓地関係の条例を定めており、東京都や大阪府などでは土葬禁止区域を指定しているのです。
また、そのほかの地域でも地方自治体(市町村)や宗教法人などが自主的に墓地経営のルールを定めており、多くの場合土葬を受け入れない取り決めをしているのです。
このように日本国内では一般的に土葬をやりづらい環境であるため、日本では一般的に土葬を禁止しているという認識が出てくるようになったのです。
特例的に土葬にしたケース
一般的に土葬をやりにくい状況にある日本ですが、実は特例的に土葬を行ったケースがありました。
それが、2011年3月11日に発生した東日本大震災です。
地震や津波で多くの死者が発生したうえ、交通手段や燃料の問題もあったことから、火葬だけではご遺体の処理が間に合わない状況に陥りました。
そこで特例的に土葬が行われることになりましたが、現地の葬儀業者も被災したため、ご遺体の運搬は建設業者のトラックで行われ、その後陸上自衛隊の手で埋葬されました。
また、アメリカなど50%弱の割合で土葬を行う国もあります。
土葬を希望する場合
地方自治体の条例や墓地を経営する団体の自主ルールなどにより土葬をしづらいため、「土葬のできるところはないのではないか」と思ってしまいますよね。
しかし、実は土葬の方法が全くないわけではありません。
1つには、クリスチャン(キリスト教徒)やムスリム(イスラム教徒)になって、そのような団体が経営している墓地霊園を探すという方法があります。
キリスト教やイスラム教では土葬を行うことも多いため、土葬ができる場所を見つけやすくなるかもしれません。
もう1つは、上記の地方自治体の条例や墓地経営団体の自主ルールによる土葬禁止の縛りのないところで土葬してもらうというものです。
しかし数が少ないため、探すのに時間がかかってしまうかもしれないので注意が必要です。
皇室の方の土葬について
さて、一般的に禁止という認識が広がるほど行いにくい土葬ですが、伝統的に行っている人々もいます。
それが皇室の方々です。
歴代の天皇や皇后は陵(みささぎ)と呼ばれるミニ古墳のようなお墓を作り、そこに葬られます。
このときの埋葬の方法が土葬なのです。
儒教の思想では、ご遺体を傷つけてはいけないという考えがあるようで、皇室の方々の土葬をする考えかたのひとつにもなっているようです。
ただし、現在では皇族は自ら希望して、土葬ではなく火葬で葬られるという方が増えてきています。
まとめ
本記事では、土葬の禁止について以下の項目を解説してきました。
-
- ・土葬は旧石器時代から行われていたものである
- ・実際には法律で土葬が禁止されているわけではない
- ・ほとんどの自治体が土葬を禁止しているために、土葬ができない認識が広まった
- ・キリスト教やイスラム教の団体が経営する墓地であれば可能
- ・地域によっては土葬を可能とするところもあるが、数は少ないので注意が必要である
一見すると国全体で禁止しているように見えるのですが、実は地方自治体の条例や墓地を経営する団体による自主ルールなどによって、土葬を受け入れない環境が強すぎたことが原因だったようです。
火葬が一般的とされている中ですが、土葬もひとつの選択肢であることは間違いではありません。
しかし、もし国内で土葬を希望されるのであれば土葬禁止の規定のない地域での埋葬を希望するか、あるいは土葬可能な宗教の信者になるなど、かなり綿密に手を打たなければいけないといえるでしょう。
【監修】栗本喬一(くりもと きょういち)
- 略歴
- 栗本喬一(くりもと きょういち)
- 1977年生まれ
- 出生地:東京都(愛知県名古屋市育ち)
- 株式会社東京セレモニー 取締役
- ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
- 「おくりびとのお葬式」副社長として、葬儀会社の立ち上げ。「おくりびとアカデミー」葬儀専門学校 葬祭・宗教学 講師。
- 株式会社おぼうさんどっとこむ
- 常務取締役として、僧侶派遣会社を運営。
- 株式会社ティア
- 葬祭ディレクター、支配人、関東進出責任者として一部上場葬儀 社の葬儀会館出店、採用、運営を経験。
- 著書:初めての喪主マニュアル(Amazonランキング2位獲得)
プロフィール