遺言書は、自分で作成できますが、必要条件・項目や規格、書き方を満たしていないと無効になります。相続などのトラブルを避けるためにも、法的に有効な遺言書の必須事項や要件、注意点を理解することが必要です。正しい書き方でしっかり準備しましょう。
「死後に遺族が揉めないように、あらかじめ自分の意思を遺したい」
「できれば、簡単に手間なく作りたい」
「見るだけで書けるような文例もあれば助かるな」
遺言書とは、財産分与などを含め、自分の想いを伝える最期の文書です。
遺言書が法的に効力を持つためには、正しい書き方で作成することが必要不可欠であり、定められた方法やルール以外で作成した場合は無効になります。
従って、正しい書き方を知るだけでなく、財産などの情報はあらかじめ整理して把握するなどの事前準備もとても大切です。
法的に有効な遺言書には下記3種類があります。
遺言書の種類 | メリット | デメリット |
1.自筆証書遺言 | 自筆で作成でき、費用がかからない。
遺言の内容を秘密にできる。 |
・要件を満たしていないと無効になる。
・書き換え、隠蔽、紛失や、死後に相続人が見つけられないなどのリスクがある。 |
2.公正証書遺言 | 遺言書偽造、紛失のリスクがない。無効になる恐れがない。自筆でなくても良い。 | 財産額に応じて公正証書作成手数料がかかる。
手続きに時間がかかる。 証人が2人以上必要となるため、遺言の内容が知られてしまう。 |
3.秘密証書遺言 | 遺言書の内容を秘密にできる。
遺言書の存在を公証役場で証明してもらえる。 自筆でなくても良い。 |
自分で作成するため、形式的な不備に気づかず、開封時に無効となることがある。
自分で保管しなければならないので、紛失や破棄のリスクがある。 |
遺言書として記載すべき内容や、ルールに大きな違いはありませんが、作成方法や保管方法は多少の違いがあるので、どれを採用するのか判断することが大切です。
そこで本記事では、法的に有効な遺言書を作成するための準備や必須事項を始め、遺言書をスムーズに作成するためのステップや例文を交えて、どなたでも簡単に作成できるような内容となっています。
遺言書を有効にするための、正しい書き方や注意点をお読み頂き、迷いなく後悔のない遺言書作成をはじめましょう。
INDEX
誰でも簡単に作成できる!遺言書の例文7選
遺言書を書くにあたり、わかりやすくケース別の例文を用意しました。ポイントを押さえて、書くことができるでしょう。
下記に、よくあるケースの順番でご紹介致します。
1.全財産を一人に相続させる場合
2.子供がいない夫婦の遺言書
3.相続人以外に財産を渡す場合
4.特別養子に財産を渡したい場合
5.愛人の子を遺言で認知する場合
6.お世話になった第三者に財産を渡したい場合
7.虐待した相続人を排除したい場合
また、上記に共通する遺言書の作成ルールに関しては、本記事の「「法的に有効な遺言書」を書く為に知るべき2つのポイント」でご紹介していますので、合わせてご参考ください。
全財産を一人に相続させる場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、次の通り遺言する。 令和〇年〇月〇日 |
一番シンプルな形です。何を相続するのかを具体的に書きます。
子供がいない夫婦の遺言書
遺言書 遺言者 山本一郎は、次の通り遺言する。 令和〇年〇月〇日 |
書き方は、「全財産を一人に相続させる場合」と同様です。
相続人は法律により順番が決められており、子どもがいない場合の法定相続人は、配偶者と亡くなった方の兄弟姉妹になります。
つまり、遺言書がなければ亡くなった方の兄弟姉妹が相続することになります。これを回避するためには、夫婦それぞれが、遺産をお互いに相続させる旨の遺言書を作成することが必要です。
共同で遺言書を書くと無効になるため、必ずそれぞれが遺言書を準備するようにしましょう。
相続人以外に財産を渡す場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、次の通り遺言する。 第1条 遺言者は遺言者の有する財産の全部を換価し、その換価金から遺言者の一切の債務を弁済し、公租公課を支払い、かつ、遺言の執行に関する費用、葬儀・埋葬の費用を控除した残金を、下記の者に遺贈する。 ※相続人以外に財産を渡す場合は、「遺贈する」と明記します。 記 住所 神奈川県横浜市横浜3丁目2-1 令和〇年〇月〇日 |
配偶者、子どもがいない場合は、遺言書がとても重要な役割を果たします。
配偶者、子どもがおらず、両親がすでに他界している場合、兄弟姉妹、甥・姪が相続人になります。
相続人がいない場合は、遺言書で遺産相続人を決めていなければ、全て国に納められることになりますので、お一人の方は遺言書の作成をご検討ください。以下の例文を参考にして、相続人以外に財産を残すこともできます。
「遺贈」とは、法定相続人を含め、その他の人に財産を引き継ぐことを指します。
特別養子に財産を渡したい場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。 (2)建物 令和〇年〇月〇日 |
特別養子に出した子どもには相続権がありません。この場合は、「相続させる」ではなく、「遺贈する」を明記してください。
また、遺言執行者を指定しておくことで、兄弟や姉妹などの他の相続人の関与なく遺言の執行ができます。大事なことなので忘れないように注意しましょう。
愛人の子を遺言で認知する場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。 令和〇年〇月〇日 東京都世田谷区〇〇1丁目6-7 山本一郎 印 |
愛人の子どもの特定ができるように、氏名・生年月日、本籍、住所、戸籍筆頭者などを書きます。
遺言執行者を指定することで、兄弟姉妹などの他の相続人の関与なく遺言の執行ができるため、必ず指定しましょう。
お世話になった第三者に財産を渡したい場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。 (1)土地 令和〇年〇月〇日 東京都世田谷区〇〇1丁目6-7 山本一郎 印 |
相続人以外の第三者へ財産を渡したい場合は、「相続する」ではなく、「遺贈する」と書きます。
遺贈する人が特定できるよう、住所、氏名を明記します。遺言執行者を指定することで、兄弟姉妹などの他の相続人の関与なく遺言の執行ができるため、必ず指定しましょう。
虐待した相続人を排除したい場合
遺言書 遺言者 山本一郎は、本遺言書により次のとおり遺言する。 山本三郎は、ギャンブルと酒に明け暮れ、仕事を放棄する生活を送っており、金がなくなると親である遺言者のところに来ては金をせびることばかりです。お金を渡さないと暴言を吐き、暴力を振るい、家の中のものを壊すこともあった。※このように遺言者に対する虐待、重大な侮辱又は著しい非行があるといえるので、同人を廃除する。 令和〇年〇月〇日 東京都世田谷区〇〇1丁目6-7 山本一郎 印 |
排除したい法定相続人の氏名とその理由を書きます。排除のためには、遺言執行者による排除の申立が必要です。
「法的に有効な遺言書」を書く為に知るべき2つのポイント
遺言書には厳格な要件があり、それを満たしていないと無効になります。
「法的に有効な遺言書」を書く為に知るべき2つのポイントは
1.遺言書の種類を決める
2.5つの必須条件を押さえておく
法律で定められている条件を把握して、正しく書けるようにしましょう。
遺言書の種類を決める
遺言書を法的に有効にするには3種類の遺言書から選ぶことが必要です。それぞれの特徴を理解して、どの種類にするかを決めます。
【遺言書の種類と特徴】
公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | 自筆証書遺言 | 自筆証書遺言
保管制度 |
|
概要 | 公証役場で公証人と一緒に作成する遺言。保管をしてもらえる。 | 自作の遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言。 | 遺言者が自筆で作成した遺言 | 2020年より始まった「自筆証書遺言」を保管するための制度 |
書き方 | 公証人が作成 | パソコンで作成 可 ※署名は必要 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
費用 | 財産の価値に応じた手数料 | 11,000円 | 0円 | 3,900円~ |
証人 | 2人以上 | 2人以上 | 不要 | |
内容不備の 可能性 |
公証人が作成するため低い | あり | ||
紛失リスク | なし | あり | あり | なし |
秘匿性 | 公証人には内容を知られる | 内容のみ | 存在と内容 | 内容のみ |
改ざんリスク | なし | なし | あり | なし |
代筆 | 公証人 | 代筆可 | 本人のみ | |
裁判所の検認 | 不要 | 必要 | 不要 |
※各項目をクリックすると詳細記事が表示されますので、合わせてご参考ください。
自筆証書遺言
画像引用元: 遺言書の様式等についての注意事項|法務省
自筆証書遺言とは、15歳以上の意思能力のある方なら、自分で作成・書き直しが自由にできる遺言書です。
メリット | デメリット |
・自分で作成や書き直しができる
・費用がかからない ・遺言の内容を秘密にできる |
・要件を満たしていないと無効になる恐れがある
・紛失や、死後に相続人が見つけられない恐れがある ・書き換え、隠されたりするリスクがある |
作成方法は民法で定められており、次にご紹介している「5つの必須条件を押さえておく」を満たすことが重要です。
財産目録のみ、パソコンなどでの作成が認められていますが、それ以外は全て自筆でなければなりません。共同作成や、代筆も認められないので、注意しましょう。
法的に定められてはいませんが、書き換えなどのリスクを避けるためにも、作成後は封筒に封印して保存しましょう。後で見つけてもらえるように、貸金庫などの安全な場所で保管することがおすすめです。
自筆証書遺言で決められる重要事項や、間違いやすい注意点があります。作成する前に 【自筆証書遺言】有効にするための必須要件と書き方・注意点を全解説の記事をご一読ください。
公正証書遺言
公正証書遺言の作成は、遺言の内容を公証人に伝えながら、公証人が筆記する形で行われます。
メリット | デメリット |
・遺言書偽造、紛失のリスクがない。
・無効になる恐れがない。 ・自筆でなくても良い。 |
・財産額に応じて公正証書作成手数料がかかる。
・手続きに時間がかかる。 ・証人が2人以上必要となる。 ・遺言の内容が証人に知られてしまう。 |
公正証書遺言は、最終的に「公正証書」となり、原本と写しである正本、藤本の3通が作成されます。遺言者には正本と謄本が渡され、原本は公証役場に保管されるため、紛失の心配がありません。
公証人が聞き取りながら作成する書面なので、法律上のミスや内容の不備もチェックしてもらえます。遺言が無効になることがなく、偽造もできないのも安心できるポイントです。
公正証書遺言の作成は、「公証役場に直接自分が出向いて相談・委託する」ものと、「専門家(弁護士・司法書士)に相談する」という2つの方法があります。
作成には、2人以上の証人が必要となる為、親しい友人や知人、弁護士にお願いするのが一般的です。適当な人がいない場合は、事前に公証役場に証人の紹介を依頼しておけば、当日証人を派遣してくれます。(1人につき8,000円)
内容不備や記載漏れのリスクを最小限に抑えることができる公正証書遺言の作成手順やポイントについては「「公正証書遺言」は1番おすすめの遺言形式!費用・効力と書き方を解説」の記事でしっかりとご紹介しています。ぜひ合わせてお読みください。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、本人以外内容を見ることができない遺言書で、公証人と証人2人以上に「遺言書の存在の証明」をしてもらうものです。
メリット | デメリット |
・遺言書の内容を秘密にできる。
・遺言書が発見されないリスクを防げる。 ・遺言書の存在を公証役場で証明してもらえる。 ・自筆でなくても良い。 |
・形式的な不備に気づかず、開封時に無効となることがある。
・自分で保管しなければならないので、紛失や破棄のリスクがある。 ・証人2人以上に遺言書の存在が明らかになる。 |
秘密証書遺言の作成は、以下の手順で行われます。
1.遺言書を作成する。(手書きまたはパソコンなど)
2.遺言書を封筒に入れて、封をして押印する。
3.証人2人と一緒に遺言書を公証役場に持参する。
4.遺言者と証人が署名押印する。
5.手数料11,000円(一律)を納める。
ただし、以下に該当する人は証人にはなれません。
・相続人となる人
・未婚の未成年者
・受遺者およびその配偶者と直系家族
・公証役場の関係者
・秘密証書遺言の作成を担当する公証人の配偶者と4親等以内の親族
これらを考慮して、あらかじめ証人を探しておくことをおすすめします。
秘密証書遺言は、遺言者が亡くなった後すぐに中身を確認することができません。家庭裁判所の検認が必要です。検認時に内容が法律で定められた方式かどうかの確認が行われ、要件を満たしていなければ無効となるのでご注意ください。
また、検認には一定の手間と時間が必要です。検討する際は、この点も忘れないようにしましょう。
秘密証書遺言のメリットをしっかりと押さえてから検討したい方は「秘密証書遺言の特徴と費用!他遺言との違いと作成時の注意を徹底解説」の記事も合わせてお読みください。
5つの必須条件を押さえておく
遺言書の作成については民法に規定があります。正しく書かれていない場合は、全て無効、または一部無効になるため、5つの必須条件はしっかり抑えておくことが大切です。
1.全文を自筆で書く(自筆証書遺言の場合)
2.署名する
3.作成した日付を明記する
4.印鑑を押す
5.訂正のルールを守る
ルールに沿って、正しい書き方を学びましょう。
全文を自筆で書く(自筆証書遺言の場合)
自筆証書遺言の場合、全文(財産目録をのぞく)を自筆することが必須です。特に、遺言書は「撤回の自由」を保証する意味でも、単独で作成しなければなりません。
民法第96号に定められている「無効になるケース」は以下の通りです。
【無効になるケース】
・パソコンで作成
・妻と一緒に作成した
・一部を代筆してもらった
・録画や録音で遺言書を残した
自筆で書くのは少し面倒かもしれませんが、自分の意思をしっかりと残しておけるよう必ず全文を自筆しましょう。
署名する
全ての遺言書において、署名は自筆しなければなりません。パソコン入力が可である秘密証書遺言も署名は自筆が義務付けられています。
署名忘れや、署名欄に名前をパソコンで入力しているものは無効になりますので、最後にもう一度確認して、ミスを防ぎましょう。
<例外>
公正証書遺言の場合、遺言者の身体の不自由や、病気の容態により署名や押印が困難な時は、公証人が代書、押印することが行われます。
作成した日付を明記する
作成日は必ず入れなければなりません。自筆証書遺言の場合は、自筆で記入します。それ以外の遺言書はパソコン入力が可能です。
「令和◯年◯月◯日」など、年月日を特定できる書き方にします。ゴム印やスタンプは使用ができません。
抜けていないか、特定できる書き方になっているかを必ず確認してください。
NG例
・◯年◯月吉日
・◯年◯月
曖昧な表現や、日にちが抜けないように、誰がみてもわかるように書きましょう。
印鑑を押す
捺印も必須事項の一つで、押印がない遺言書は無効になります。
実印でなければならないという規定はありませんが、偽造を避けるためにも、実印の利用が望ましいです。
拇印が押された遺言書は有効となっています。平成元年2月16日の最高裁判決で、「押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の地頭に墨、朱肉などをつけて押捺することをもって足りる」とされています。
ただし、遺言書の作成者が亡くなった後は、本人のものか確認することができないため、問題になることも考えられます。こういったことからも、せっかく作成するのであれば、三文判や拇印よりも実印を使うことをおすすめします。
また、訂正箇所にも押印が必要です。次の「訂正のルールを守る」にある例文を参考にして、押し忘れがないようにチェックしましょう。
訂正のルールを守る
自筆証書遺言と秘密証書遺言は訂正・変更が可能です。ただし、民法で定められたルールがあるので、それに沿っていないと無効となります。
<訂正の仕方>
・訂正箇所に二重線を引く
・二重線の近くに押印する(文字や数字が見えるように)
・横に正しい文字や数字を追記する
・行頭や末尾の余白に追記し、「◯字削除◯字加入」「◯字加入」などと自署し、署名する
<加筆の仕方>
・挿入記号で場所を示し、追記する
・追記した内容の近くに押印する(文字や数字が見えるように)
・行頭や末尾の余白に追記し、「◯字削除◯字加入」「◯字加入」などと自署し、署名する
公正証書遺言は、遺言者自身で変更ができないため、新たに遺言書を作成する必要があります。
スムーズに遺言書を書くための6つのステップ
例文のような遺言書を書くには、事前準備や書き方について知っておくことが必要です。書き始めまでの6つのステップを参考にしながら準備を進めてみましょう。
スムーズに遺言書を書くための6つのステップ
1.財産を把握するために必要な書類を集める
2.「誰に」「何を」相続させるのかを明記する
3.書くものと書き方
4.財産目録の作成
5.遺言執行者を指定する
6.訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
特に財産に関する必要書類を集めるのに時間と労力がかかります。準備は早く始めるに越したことはありません。何が必要かを把握して早速始めてみましょう。
財産を把握するために必要な書類を集める
どんな財産があるのかをリストアップし、ある程度の評価額をあらい出します。
遺言書に記載する主な財産
プラスの財産 | マイナスの財産 |
・自宅不動産、投資用不動産
・預貯金(普通預金、定期預金) ・貴金属 ・自動車 ・株式、投資信託、有価証券 他 |
・借金
・税金 |
以下は、原則として相続財産には含まれません。
遺言書に載せる財産が把握できたら、各種書類を取得して調査します。
財産 | 資料 |
不動産 | 登記簿謄本、固定資産税納税通知書 |
預貯金 | 通帳や定期証券 |
株式 | 取引残高報告書 |
投資信託 | 残高証明書 |
遺言書には細かいルールがあるので、個人で集めるのが大変な時や、不安がある人は解決策として専門家に相談するのも一つの手段です。本記事の「遺言書の作成に困ったときの相談先3つ」も合わせてご参考ください。
誰に、何を相続させるのかを明記する
参考: 法定相続人の順位
「遺言によって財産を受け取る人」を決めていきます。自分の財産を引き継いでいく人になるため、じっくりと時間をかけましょう。
基本的には、配偶者・子・孫・親・兄弟などの法定相続人を指しますが、推定相続人以外の第三者や団体を受遺者に指名することも可能です。
また、特定の法定相続人だけに財産を多く受け継がせることもできますが、民法では、法定相続人(相続を受ける権利のある人)が定められており、相続を受ける優先順位も決まっています。
全てのケースで法定相続人になる:被相続人の配偶者
法定相続人の第1順位:被相続人の子どもや孫(直系卑属)
法定相続人の第2順位:被相続人の親や祖父母(直系卑属)
法定相続人の第3順位:被相続人の兄弟姉妹
上記順位は遺言書があっても覆すことのできない権利であるため、遺言書で財産の配分を明確に定めても法定相続人が権利を主張すれば争いに発展します。
離婚した場合などは順位が変動することも考えられるので、「 遺産相続は配偶者が最優先!順位を決める4つのポイントと割合を解説」を事前に読んで参考にしてください。
法定相続人以外を受遺者に指定する場合をはじめ特定の法定相続人に多く財産を受け継がせる場合は、専門家に相談して対応策を考えてもらいましょう。
遺産相続をしっかり行ったつもりでもトラブルは絶えません。それらの原因を知ると未然に防ぐことが可能です。「 遺産争いの原因は7つ!有効な対処法5つと未然に防ぐ方法を徹底解説」の記事を読んで、先に対策を考えてみるのも一つの方法です。
書くものと、書き方
紙とペンを用意する際、長期保管することを考えて準備することが必要です。紙はサイズの指定がありますので、以下を参考にしてください。
1.用紙
・サイズ:A4サイズ
・紙質:感熱紙やペンが滲みやすいものを使用しない。
・模様:記載した文字が読みづらくなるような模様や彩色がないもの。一般的な罫線は問題ない。
法務省のホームページでは、ダウンロードして印刷できるA4サイズの 遺言書の用紙例が掲載されていますので、参考にしてみましょう。
2.筆記具
・ボールペンや万年筆などの消えにくい筆記具を使用する。
・消えるインクは使用しないこと。
3.書き方
画像引用元: 遺言書の様式等についての注意事項|法務省
・片面のみに記載する。
・余白:最低限、上部5mm、下部10mm、左20mm、右5mmの余白を必ず確保する。
余白が確保されていない場合や、余白に1文字でも何らかの文字等がはみ出している場合は、書き直しが必要である。
・各ページにページ番号を記載する。総ページ数もわかるように記載する。
例)1/2など
ベージ番号も必ず余白内に書くこと。
・複数ページがある場合でも、ホチキス等で綴じないこと。
遺言書作成キットも、書店やAmazonで販売されています。
上記キットは、専門的な知識がなくても簡単に自筆証書遺言がつくれます。
作成は一番大変な作業ですので、準備しておくことで何度も書き直すことが減ります。先に、パソコンで下書きを作成し、それを見ながら実際に書いていくことをおすすめします。
ミスなく作成するためにも遺言書を作成する上で注意点や、ケース別の文例があるとわかりやすいですよね。「 【文例付き】相続プロが教える!有効な遺言書の書き方完全マニュアル」で紹介されていますので、ぜひ参考にしてください。
財産目録の作成
画像引用先: 財産目録記載例|裁判所
財産目録はパソコンで作成可能です。ただし、記載のあるすべてのページに署名と押印が必要となります。
財産目録は、相続を円滑かつ正確に行うためのとても大切な書類の一つで、どのような遺産があるのかを明らかにするための資産、負債の内容と合計額を示す一覧表です。
預貯金通帳の写しや不動産全部事項証明書などの資料添付でも代用できます。これらすべてのページに署名と押印が必要です。
財産目録の具体的な作成方法については、 「相続をよりスムーズに!『財産目録』の目的と知るべき3つのメリット」「『財産目録』の書き方のポイントは5つだけ!簡単な作成のコツを解説」の記事で詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをする人のことです。いつでも誰でも選任できるわけではなく、以下の3つの決まった方法で選任します。
1.遺言書で指定する。
2.第三者に遺言執行者を指定してもらうような遺言書を作成する
3.遺言者死亡後に家庭裁判所にて遺言執行者を選任してもらう。
実際には、相続財産目録の作成、各金融機関での預金解約手続き、法務局での不動産名義変更手続きなど、遺言の内容を実現するために必要な一切の行為をする権限を持ちます。
相続などに関わる煩雑で面倒なすべてを遺言執行者に任せられるので、遺言書で遺言執行者は、信頼できる相続人や弁護士などの専門家を指定しましょう。
遺言執行者に選任された場合、またその役割など知っておくことで、誰に指定するべきか具体的に考えられます。「 遺言執行者の役割と流れ!事前に知っておくべきメリット&デメリット」に知っておくべきことが網羅されていますので、事前に読んで準備しましょう。
訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
自筆証書遺言と秘密証書遺言は訂正・変更が可能です。ただし、民法で定められたルールがあるので、それに沿っていないと無効となります。
本記事の「訂正のルールを守る」を参照いただき、訂正や加筆に必要な処理をするのを忘れないようにしましょう。
遺言書の準備で抑えておきたい6つの必須事項
遺言書は法的効力をもつ大切な文書です。そのため、わずかなミスで遺言書そのものが無効になったり、相続人とのトラブルに発展することもあります。
法的に有効で、望ましい遺言書を書くためには、準備が9割大事と言っても過言ではありません。無効になることは避け、必要な要件は必ず満たすように、以下の6つの必須事項を熟知しましょう。
共同遺言は無効
遺言書は一人一人が自分の分を作成しなければなりません。夫婦が共同して、「私たち夫婦は」などとする遺言書を遺しても無効になります。
「民法975条 共同遺言の禁止」に定められている通り、共同での遺言は認められていないので注意しましょう。
ビデオレターや音声は無効
遺言書は自書・書面での作成が必須で、ビデオレターや音声の録音では遺言は無効です。
近年、動画や音声録音が一般化されたこと、映画やテレビでこのようなシーンを見たと言う理由で、映像で遺したいと考える方もいますが、残念ながら効力はありません。
どうしても映像や音声を残したいという方は、自筆証書遺言と一緒に遺すのであれば、有益な証拠となるでしょう。あくまでも補足という形になりますので、書面で遺言書を残すことは必須です。
あいまいな表現をしない
表現があいまいな場合、その解釈をめぐって相続人の間でトラブルになる恐れがあります。
財産を受け継がせたい相手には「取得させる」「相続させる」「遺贈する」などのハッキリとわかる文言を使いましょう。
「任せる」や「託す」「渡す」「譲る」などの表現は、「管理を頼みたい」と解釈される可能性もあります。
誰がみてもわかる、明確な言葉を使って書くようにしましょう。
裁判所で検認を受ける
自書証書遺言を残した場合、相続人たちは原則として家庭裁判所で「検認」が必須です。
検認とは、裁判所で遺言書の内容や状態を確認してもらう手続きを指します。検認を終えなければ遺言書によって不動産の名義の書き換えや預貯金の払い戻しなどを受けられません。
民法1004条の規定により、検認せずに遺言書を開封した場合は、5万円以下の過料が課せられます。検認前に開封したからといって、遺言書が無効になることはありませんが、規定があることを知っておきましょう。
ただし、法務局に自書証書遺言を預けた場合には検疫が不要となります。
検認で必ず押さえておくべきポイントを理解しておきたい方は「遺言書を無効にしない!検認の流れとスムーズな相続のコツを徹底解説」をお読みください。遺言書を無効にすることなく、相続をスムーズに終えることができます。
相続開始時までに財産がなくなった場合について
遺言書を作成しても、相続開始までに財産がなくなった場合、失われた財産に関する遺言が部分的に無効になり、他の部分は有効になります。
例えば、遺言に「○○銀行の預金の中からBに2千万円を相続させる」と書いてあり、銀行の預金残高に一千万円しか無かった場合は、一千万円が限度額となるのです。
通常、預金が減ったのは、遺言を書いた人が生前に引き出したからです。よって、遺言書を書いた人の生前の行動で、「遺言の一部が取り消された」ことになります。
紛失や書き換えを防ぐため「遺言書保管制度」を利用する
遺言書保管制度とは、遺言書を作成した本人が、法務局に遺言書を預けることができる制度のことで、令和2年7月から運用が開始されました。
今まで自宅に保管されることが多かった自筆証書遺言書の、紛失や隠匿を防止するために、公共機関である法務局が保管してくれます。
【遺言書保管制度を利用するメリット・デメリット】
メリット | デメリット |
・遺言書の紛失、改ざん、相続人に発見されないなどの問題が避けられる。
・相続人等は、遺言者の死亡後に、遺言書の内容の証明書の交付や遺言書の閲覧等を請求することができる。 ・本制度で保管されている遺言書は、家庭裁判所の検認が不要となる。 ・相続等の手続きの円滑化にもつながる。 |
・保管できる法務局が決まっている。
・本人が法務局に行く必要がある。 ・写真付きの本人確認証明書が必要。 ・遺言書の様式等に定めがある。 ・内容の確認はしてくれない。 ・氏名や住所などの変更届が面倒。 ・相続人などに原本は変換されない。 |
上記を踏まえて、遺言書保管制度を利用するかどうかを検討してみましょう。
法務省の自筆証書遺言保管制度について、図解付きで遺言者生前から相続開始までの流れがわかりやすく説明されていますので、参考にしてください。
遺言書の作成に困った時の相談先3選
遺言書の作成は自分の「最後のメッセージ」でもあるので、慎重に進めていきたいものですよね。無効にならないよう、間違いなく作成するための主な相談先は以下の3つです。
費用目安 | 特徴 | |
1.弁護士 |
5,000円~(30分) ※初回相談のみ無料の事務所もある |
法的に有効で、内容的に適切な遺言書をスムーズに作成することができる。 |
2.行政書士 |
0円 ※初回相談のみ |
遺言書の文案・内容についての細かいアドバイスがもらえる。作成費用は弁護士より安い。 |
3.無料相談を利用して専門家を紹介してもらう |
0円 ※初回相談のみ |
どの専門家にお願いすればいいのかなどのアドバイスがもらえる。 |
1.弁護士
2.行政書士
3.無料相談を利用して専門家を紹介してもらう
「緊急度の高い順」にご紹介しています。相談を上手に活用して、自筆証書遺言の作成を正確に進めていきましょう。
弁護士
相続の内容が複雑な場合は、弁護士の力を借りた方がスムーズに解決できるでしょう。プラスの財産もマイナスの財産も、亡くなった人の名義であれば全て相続財産となるため、遺産の種類や金額が多ければ多いほど、相続終了までの道のりは長くなります。
弁護士に相談したからといって必ず依頼しなければならないということはありません。特に相続について不安や悩みがあれば、早めに相談して適切なアドバイスをもらいましょう。
相続に強い弁護士の選び方や、選び方のポイントなどは、「 知らないと損をする!相続弁護士を選ぶ9つの要点と費用を抑える準備」に詳しく解説しています。参考にしてください。
行政書士
現在は司法書士や行政書士も積極的に遺言書作成業務を行なっています。弁護士に比べ、費用が安く、気軽に遺言書作成を行いたい方は弁護士よりも相談しやすいというメリットがあります。
国家資格者だからといって、遺言書作成の実務に精通しているとは限りません。資格より、依頼する先生の「専門性」をみるようにしましょう。
専門性を確認する方法の一つとして、その事務所のホームページをみて事前に情報収集してみてください。遺言作成業務をよく受ける事務所の場合は、遺言に関する記事や解決事例が豊富に掲載されているはずです。
直接電話で問い合わせして、確認してみるのも方法の一つです。事前に調べることはとても大切ですので、手間だと思わずに自分で確認してみましょう。
無料相談を利用して専門家を紹介してもらう
弁護士や行政書士の伝手がない人や、不安がある人は「無料相談」を利用してみるのもオススメです。
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まとめ
遺言書が法的に効力を持つためには、正しい書き方で作成することが必要不可欠であり、定められた方法やルール以外で作成した場合は無効になります。
法的に有効な遺言書には下記3種類があります。
遺言書の種類 | メリット | デメリット |
1.自筆証書遺言 | 自筆で作成でき、費用がかからない。
遺言の内容を秘密にできる。 |
・要件を満たしていないと無効になる。
・書き換え、隠蔽、紛失や、死後に相続人が見つけられないなどのリスクがある。 |
2.公正証書遺言 | 遺言書偽造、紛失のリスクがない。無効になる恐れがない。自筆でなくても良い。 | 財産額に応じて公正証書作成手数料がかかる。
手続きに時間がかかる。 証人が2人以上必要となるため、遺言の内容が知られてしまう。 |
3.秘密証書遺言 | 遺言書の内容を秘密にできる。
遺言書の存在を公証役場で証明してもらえる。 自筆でなくても良い。 |
自分で作成するため、形式的な不備に気づかず、開封時に無効となることがある。
自分で保管しなければならないので、紛失や破棄のリスクがある。 |
遺言書として記載すべき内容や、ルールに大きな違いはありませんが、作成方法や保管方法は多少の違いがあるので、どれを採用するのか判断することが大切です。
「法的に有効な遺言書」を書く為に知るべき2つのポイント
1.遺言書の種類を決める
2.5つの必須条件を押さえておく
【遺言書の種類と特徴】
公正証書遺言 | 秘密証書遺言 | 自筆証書遺言 | 自筆証書遺言
保管制度 |
|
概要 | 公証役場で公証人と一緒に作成する遺言。保管をしてもらえる。 | 自作の遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言。 | 遺言者が自筆で作成した遺言 | 2020年より始まった「自筆証書遺言」を保管するための制度 |
書き方 | 公証人が作成 | パソコンで作成 可 ※署名は必要 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
費用 | 財産の価値に応じた手数料 | 11,000円 | 0円 | 3,900円~ |
証人 | 2人以上 | 2人以上 | 不要 | |
内容不備の 可能性 |
公証人が作成するため低い | あり | ||
紛失リスク | なし | あり | あり | なし |
秘匿性 | 公証人には内容を知られる | 内容のみ | 存在と内容 | 内容のみ |
改ざんリスク | なし | なし | あり | なし |
代筆 | 公証人 | 代筆可 | 本人のみ | |
裁判所の検認 | 不要 | 必要 | 不要 |
※各項目をクリックすると詳細記事が表示されますので、合わせてご参考ください。
遺言書の作成は民法で定められており、正しく書かれていない場合は無効になります。これに必要な5つの必須条件は以下の通りです。
1.全文を自筆で書く(自筆証書遺言の場合)
2.署名する
3.作成した日付を明記する
4.印鑑を押す
5.訂正のルールを守る
遺言書をスムーズに書くための6つのステップ
1.財産を把握するために必要な書類を集める
2.「誰に」「何を」相続させるのかを明記する
3.書くものと書き方
4.財産目録の作成
5.遺言執行者を指定する
6.訂正部分は二重線で消し、印鑑を押す
また、遺言書の作成は準備段階で9割決まると言っても過言ではありません。6つの必須事項を押さえて、しっかり準備しましょう。
1.共同遺言は無効
2.ビデオレターや音声は無効
3あいまいな表現はしない
4.裁判所で検認を受ける
5.相続開始前に財産がなくなった場合について
6.紛失や書き換えを防ぐため「遺言書保管制度」を利用する
弁護士や行政書士の伝手がない人や、不安がある人は「無料相談」を利用してみるのもオススメです。
どの専門家にお願いすればいいのかなどの疑問も『 やさしい相続』の24時間365日無料相談で承っていますので、ぜひご活用ください。
大切なことだからこそ、丁寧に・確実に進めていきましょう。本記事が遺言書を作成するためのお役に立つことを願っています。
【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール