秘密証書遺言とは現在国内で認められている遺言形式の1つです。最大の特徴は、内容を秘密にしつつ家族に遺言の存在を伝えておける点で、偽造などのリスクもありません。秘密証書遺言の書き方や作成の流れなど、知っておきたい情報を分かりやすく解説します。
「秘密証書遺言ってあまり聞き馴染みがないけど、どんなもの?」
「家族や親戚に内容を知られずに、確実に遺言を残す方法はあるの?」
秘密証書遺言とは、自作の遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言の形式です。他の遺言形式と比べて利用者数があまり多くなく、弁護士など有識者には「公正証書遺言」や「自筆証書遺言」を勧められることが多いでしょう。
理由は、完全に自力で仕上げなければならないため、少々ハードルが高いことに加えて法的に不備が残るリスクがあるからです。一方で、内容を秘密にしたまま証人を立てて遺言書を保管できるメリットがあります。
そのため、「事前に内容を知られて、揉め事を起こしたくない・・・」「内容は知られたくないが、遺言書があるということは知らせておきたい」という方にピッタリの遺言形式です。
残された家族に対して遺言を残す際に考えるべきポイントはいくつかあり、「確実性」「秘匿性」「家族の意思」など、何を重要だと考えるかによって最適の遺言の形式というのは変わってきます。
例えば、下記表にあるように「秘匿性」を優先するのであれば、「自筆証書遺言」も対象になりますし、「改ざんリスクをゼロにしたい」のであれば、公正役場に保管される「公正証書遺言」も選択肢に入ってきます。
【遺言書の種類と特徴】
秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 自筆証書遺言
保管制度 |
|
概要 | 自作の遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言。 | 公証役場で公証人と一緒に作成する遺言。保管をしてもらえる。 | 遺言者が自筆で作成した遺言 | 2020年より始まった「自筆証書遺言」を保管するための制度 |
書き方 | パソコンで作成 可 ※署名は必要 |
公証人が作成 | 全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
費用 | 11,000円 | 財産の価値に応じた手数料 | 0円 | 3,900円~ |
証人 | 2人以上 | 2人以上 | 不要 | |
内容不備の 可能性 |
あり | 公証人が作成するため低い | あり | あり |
紛失リスク | あり | なし | あり | なし |
秘匿性 | 内容のみ | 公証人には内容を知られる | 存在と内容 | 内容のみ |
改ざんリスク | なし | なし | あり | なし |
代筆 | 代筆可 | 本人のみ | ||
裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 必要 | 不要 |
※各項目をクリックすると詳細記事が表示されますので、合わせてご参考ください。
まずはそれぞれの遺言書の形式の基本や特徴を知り、その上で自分や家族にあった形式で遺言を残すことが最良です。
当記事では、「秘密証書遺言」の基本的な内容から、他の遺言形式との違い・作成の流れや注意点などを分かりやすく解説しています。
・これから遺言を残すにあたって、秘密証書遺言について知っておきたい方
・秘密証書遺言の基本を知った上で、自分にあった遺言形式を検討したい方
・秘匿性の高い遺言の残し方を知りたい方
このような方の希望に沿える情報をまとめた記事となっていますので、是非最後までお読みいただき遺言書作りの参考にしてください。
INDEX
秘密証書遺言とは「本人以外内容を見れない」遺言書の形式
秘密証書遺言(ひみつしょうしょゆいごん)とは、遺言書の「存在の証明」をしてもらいながらも、本人以外内容を見ることができない「秘匿性」の高い遺言書の形式です。
遺言書の「存在」を、身内の証人2人と公証人に認めてもらう形式のため、遺言者の死後、遺言書が発見されないケースを防ぐことができます。加えて、遺言の作成は個人で行うことができるため、内容が周りに知られるリスクもありません。
その一方で、遺言書自体は自己管理する必要がある・内容を検収してくれる人がいないため不備のリスクが高まるなどのデメリットもあります。
まずは、秘密証書遺言の特徴を「メリット・デメリット」という形で知った上で、どのような方に向いている遺言形式であるのかを考えていきましょう。
メリット
秘密証書遺言には、4つのメリットがあります。
メリット | 概要 |
内容を秘密にできる | 遺言の内容確認は行われない為、誰にも知られない |
偽造や変造のリスクがない | 遺言者の封止めと公証人による封紙への署名があるため、偽造や変造されない |
遺言書の「存在」を周知できる | 証人2名以上と公証人と共に手続きする |
PC作成や代筆も認められている | 全文自筆する必要はなく任意での代筆もOK |
それぞれの内容について、重要度の高い順に詳しく確認しましょう。
内容を秘密にできる
秘密証書遺言は、証人や国の定めた公証人が立ち合いのもと「本人が書いた物」であることの認定が行われますが、その際に遺言書の開封は必要ありません。遺言書の内容や様式の確認はしないので、作成者が他言しない限り内容が外部に漏れる心配はないでしょう。
遺言内容を誰にも知られたくないと強く希望する方にとっては、大きなメリットです。
偽造や変造のリスクがない
秘密証書遺言は、作成後「公証役場」に持ちこんで公証人と証人立ち合いのもとでの封止を行う必要があります。これにより、以下の2点の証明が成されたものとみなされます。
・遺言者本人が作成した本物の遺言書であること
・(封止が開けられていなければ)未開封であること
遺言書の内容が勝手に書き換えられる・遺言書そのものがねつ造されるといったリスクが抑えられ、遺言者の意思をそのままの形で残すことが可能です。
遺言書の「存在」を周知できる
せっかく時間をかけて遺言書を作成しても、「遺言書があることを家族が知らない(気づかない)」ままでは意味がありません。
秘密証書遺言は、公証役場に持ち込む際「2人以上の証人」が必要です。自分が遺言書を残していることを知ってくれる人がいる以上、遺言書の存在が明らかにならないまま相続手続きが進んでいく可能性は低くなるでしょう。
「保管は自分で行う必要がある」でも解説しますが、保管は遺言者自身で行う必要があるため、管理には注意を払いましょう。
PC作成や代筆も認められている
一般的に遺言書とは「遺言書」と「財産目録」の2点で構成されます。秘密証書遺言では、いずれの書類もパソコンソフトによる作成や家族や知人による代筆が認められています。
通常「遺言書」は、遺言者もしくは国の定めた公証人による手書き作成が必要です。「財産目録」については手書きである必要はありませんが、公証人以外の代理作成は認められていません。
自筆で遺言書を作成するのが困難な方や信頼できる身内に代筆を頼みたい方は、秘密証書遺言がおすすめです。
デメリット
秘密証書遺言には、4つのデメリットがあります。
デメリット | 概要 |
内容不備のリスクが伴う | 公証人による内容の確認はないため法的効力については自己責任が伴う |
保管は自分で行う必要がある | 公証役場等での保管は対象外 |
費用がかかる | 一律で11,000円の手数料が必要 |
開封には裁判所の検認が必要 | 家庭裁判所の検認が必要で、勝手に開封してはいけない。 |
それぞれの内容について、重要度の高い順に詳しく確認しましょう。
内容不備のリスクが伴う
秘密証書遺言は、法律のプロによる内容のチェックがありません。秘匿性が高い反面、内容については自己責任となるため、内容不備のリスクが伴います。
遺言書には、民法で定められた書き方の決まりがあります。この様式に沿った書き方でないと、法律上有効な遺言書として認められません。
また、言い回しや用語の使い方にも決まりがあるため、頑張って作った遺言書でも内容不備で無効となることは少なくありません。
【内容不備の具体例】
・必要な場所に印鑑が押されていない
・「令和〇年〇月吉日」のように具体的な作成日が記載されていない
・「家」「畑」等、不動産情報が明確に記載されていない
・「託します」と書くと、相続登記は使えないため別途遺産分割協議が必要となる
公証役場では「遺言者本人による遺言書であること」を認めてくれるものの、内容の法的効力を担保するものではないため、慎重な作成が求められます。
不備のない遺言書を作成するための注意点は「秘密証書遺言を書く際のポイント3つ」で紹介していますので、参考にしてください。
保管は自分で行う必要がある
完成した秘密証書遺言は、自己責任の元、自力で保管する必要があります。公正役場では、秘密証書遺言の預かりなどは受け付けていません。
紛失してしまった場合にも、再発行などの保証制度はありません。作成にかかった時間や労力・費用を無駄にしないためにも、管理には気を付けましょう。
秘密証書遺言の適切な保管場所についての詳細は、「どのように保管するのが一般的?」で解説しています。
費用がかかる
秘密証書遺言は、公証役場での認証を受ける際に「一律で11,000円」の費用がかかります。
財産額に応じた費用が必要となる「公正証書遺言」と比べると安価ではありますが、保管をしてもらえる訳ではないのにこの手数料は高いと感じる方も多いようです。
開封には裁判所の検認が必要
秘密証書遺言は、見つけた人がすぐに開封できるものではありません。家庭裁判所に申請を行い、検認を経て開封という手順を踏む必要があります。
簡単には開封されないという点を「メリット」と感じる方もいれば、手間と時間がかかることを「デメリット」と感じる方もいるでしょう。
向いている人
ここまでの特徴を踏まえ、秘密証書遺言はどのような方に向いた遺言形式であるかを箇条書きにしてみました。
・遺言内容を周りに知らせたくない方
・発見されないリスクを回避するため、遺言書の存在を身内に知らせておきたい方
・遺言書を自分で作り、保管したい方
・全文を自筆するのが困難で、PCや代筆を依頼したい方
秘密証書遺言は「内容の秘匿性」と「遺言書の存在の周知」この2つを兼ね備えているという点が大きな特徴です。遺言内容を秘密にしておきながらも、「遺言書を作った」という事実を証人である身内2名と共有しておくことができます。
また、「自筆は難しいがPC作成ならできそう。」と感じる方や「信頼できる身内の誰かに手伝ってもらって遺言書を作りたい」という方にとってもメリットの大きい遺言形式です。
これらの点に魅力を感じる方は、秘密証書遺言の作成を前向きに検討してみましょう。
他の遺言書形式との違いを知ろう
現在、日本国内で法的に認められている遺言書の形式は3つあります。加えて、国の管理する遺言書保管制度が1つあるため、実質的に4つの形式があると考えるのが一般的です。
「秘密証書遺言」:当記事のテーマ
「公正証書遺言」:私権に関する公正証書作成の権限をもつ公証人と共に作成をする
「自筆証書遺言」:自作した遺言書を自分で保管する
「自筆証書遺言保管制度」:国の制度で、自筆証書遺言の保管を依頼できる
形式には、それぞれ異なる特徴があります。遺言を残す際 重要視したい項目によって、どの遺言形式が最も適しているかが異なりますので、それぞれのメリット・デメリットを把握しながら慎重に検討してください。
【遺言書の種類と特徴】
秘密証書遺言 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 自筆証書遺言
保管制度 |
|
書き方 | パソコンで作成 可 ※署名は必要 |
公証人が作成 | 全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
全文を自筆
※財産目録はパソコン可 |
費用 | 11,000円 | 財産の価値に応じた手数料 | 0円 | 3,900円~ |
証人 | 2人以上 | 2人以上 | 不要 | |
内容不備の 可能性 |
あり | 公証人が作成するため低い | あり | あり |
紛失リスク | あり | なし | あり | なし |
秘匿性 | 〇 | × | ◎ | 〇 |
改ざんリスク | なし | なし | あり | なし |
代筆 | 代筆可 | 本人のみ | ||
裁判所の検認 | 必要 | 不要 | 必要 | 不要 |
※各項目をクリックすると詳細記事が表示されますので、合わせてご参考ください。
それぞれの特徴を表にすると、比較するべき項目が多岐に渡ることが分かります。他遺言形式との違いを知ることで、秘密証書遺言についての知識を深めながら「自分が遺言書作成にあたって重要視したいポイント」について今一度考えを巡らせてみましょう。
公正証書遺言との違い
「秘密証書遺言」と「公正証書遺言」違いのポイントは、秘匿性と内容の正確性です。
秘密証書遺言は、最後まで自分一人で書きあげるため他人に内容を知られることなく作成できます。一方、公正証書遺言は国の認めた公証人と一緒に作成するため、書式・法的効力・書き漏れといった遺言書のルールに沿った精度の高い遺言書の作成が可能です。
【ポイント】
秘密証書遺言・・・秘匿性は高いが内容不備や紛失リスクがある
公正証書遺言・・・内容不備や紛失のリスクはないが、秘匿性に欠ける
・証人が必要である点や改ざんリスクがない点は共通
違いのある項目 | 秘密証書遺言 | 公正証書遺言 |
遺言書の作成者 | 本人 | 公証人 |
費用 | 11,000円 | 財産価値に応じて変動 |
遺言内容を秘密にしておきたいという気持ちが強い方や、法的に有効な書き方のルールに沿った作成に自信があるという方は、秘密証書遺言が良いでしょう。反対に、秘匿性よりも内容の正確度を重視したいという方は、公正証書遺言がおすすめです。
公正証書遺言については「 専門知識不要!自分で作れる公正証書遺言作成の流れと費用・必要書類」で詳しく解説しています。メリット・デメリットの他、依頼先別の費用目安などを分かりやすく解説しています。
自筆証書遺言との違い
「秘密証書遺言」と「自筆証書遺言」違いのポイントは、手軽さと安全性です。
秘密証書遺言は、証人と公証人立ち合いの元で封止や署名をするため、改ざんや未発見等のリスクがありません。一方、自筆証書遺言は証人や費用等の手間がかからず手軽に作れる反面、「本物の遺言書である」という立証がなされない等のリスクがあります
【ポイント】
秘密証書遺言・・・遺言の存在を周知しつつ、改ざんや偽造等の心配がない
自筆証書遺言・・・気軽に作れるが、見つけてもらえない・改ざん・偽装のリスクあり
・内容の不備や紛失のリスクがある点は共通
違いのある項目 | 秘密証書遺言 | 自筆証書遺言 |
証人 | 必要 | 不要 |
費用 | 11,000円 | 不要 |
自分の遺言書をねつ造・改ざんから守りたい方や、手間はかかっても遺言書の信憑性や認知を希望する方は、秘密証書遺言が良いでしょう。反対に、手軽に自分の意思を残しておきたい・堅苦しい手続きは苦手だという方は、自筆証書遺言がおすすめです。
自筆証書遺言の保管制度
「自筆証書遺言保管制度」作成した自筆証書遺言を法務局の遺言保管所に預ける制度で、2020年7月に始まりました。公正証書遺言と秘密証書遺言の良いとこどりをしたような内容で、利用者は年々増加傾向にあります。
「秘密証書遺言」と「自筆証書遺言保管制度」違いのポイントは、執筆方法と保管場所です。
【ポイント】
秘密証書遺言・・・代筆やPC作成などメリットはあるが、安全性・手軽さに欠ける
自筆証書遺言保管制度・・・手軽さを残しつつ保管をお任せできる新しい形
・内容不備のリスクは共通
・どちらも、存在のみ証明し内容は秘密にできる
違いのある項目 | 秘密証書遺言 | 自筆証書遺言保管制度 |
保管方法 | 本人 | 公証所 |
費用 | 11,000円 | 3,900円 |
証人 | 必要 | 不要 |
裁判所の検認 | 必要 | 不要 |
費用や手間がかかっても、近しい人に遺言書の存在を認知させておきたいと考える方や代筆やPC作成を希望する方は、秘密証書遺言が向いています。反対に、保管をお任せしたい・証人や検認等が面倒だと感じる方は、公正証書遺言がおすすめです。
秘密証書遺言を書く際のポイント3つ
秘密証書遺言は、法律や遺言書の形式に詳しいプロの検認を受けることなく作成が可能です。秘匿性が担保される一方で、内容の法的効力については「自己責任」が問われます。
そこで、自作でも「内容不備」にならないための書き方のポイントを3つ紹介します。
ポイント | 概要 |
様式を守って作成する | 民法の規定に沿った様式・用語を用いること |
財産の内容を正確に記載する | 書き漏れのないよう、分かりやすくまとめる |
遺言執行者について記載する | 相続トラブルのリスクを抑え、手続きがスムーズになる |
重要度の高い順に、内容を詳しく確認しましょう。
様式を守って作成する
秘密証書遺言とは、「自力で作成した遺言書」を証人と公証人に存在を認めてもらう遺言形式です。「秘密証書遺言」独自の様式や書き方のルール等はありませんので、作成自体は一般的な遺言書の様式に従って行ってください。
遺言書の作成については民法に規定があり、正しく書かない場合は、全て無効、または一部無効になるリスクがあります。残された家族のために準備したものが、家族同士で争うきっかけになることもあるでしょう。
画像引用元: 遺言書の様式等についての注意事項|法務省
上記のような様式はもちろんですが、「渡す・譲る」ではなく「相続させる」等、適切な用語等を正しく用いて作成を進める必要があります。
遺言書の作成キットは、書店やAmazon等で購入することができます。
このようなキットや書籍を参考にすることで、専門的な知識がなくても法的に効力のある正しい遺言を作成することができるでしょう。
財産の内容を正確に記載する
個人で遺言書を作成した際に、書き漏れが多いのが「財産の内容」です。「貯金は妻の○○に相続させる」とだけ書いてあると、どこの銀行に預金があるのか・いくつの銀行口座を持っているのか等、不明瞭な点が多くトラブルの元となります。
単に「車」と書くのではなく車種や車体番号も記載する・有価証券は株数までしっかりと残すなど、「全ての財産の内容を正確に記載する」ことがポイントです。
まずは、自分が遺言書に記載するべき主な財産にはどのようなものがあるかを確認します。その上で、各種書類を用いて書き残す内容をまとめていきましょう。
【記載するべき財産】
プラスの財産 | マイナスの財産 |
・自宅不動産、投資用不動産
・預貯金(普通預金、定期預金) ・貴金属 ・自動車 ・株式、投資信託、有価証券 他 |
・借金
・税金 |
【財産別、記載内容の調べ方】
財産 | 資料 |
不動産 | 登記簿謄本、固定資産税納税通知書 |
預貯金 | 通帳や定期証券 |
株式 | 取引残高報告書 |
投資信託 | 残高証明書 |
車 | 車検証 |
遺言書には細かいルールがあります。個人での対応に不安が残る場合には、財産目録だけでも専門家に相談するのも一つの手段です。
財産目録とはどういったものなのか、基本のおさらいは「 相続をよりスムーズに!「財産目録」の目的と知るべき3つのメリット」を参考にしてください。裁判所が公開している財産目録記載例を元に、分かりやすく解説しています。
遺言執行者について記載する
「遺言執行者」とは、故人が遺言を残した場合に、遺言の内容を実行する人のことです。
遺言執行者には、遺産の管理などの遺言を実現するために必要な一切の行為をする権利と義務があります。つまり、相続などに関わる煩雑で面倒なすべてを遺言執行者に任せられるということです。
【書き方例】
1.遺言者である〇〇 〇〇は、遺言執行者として下記の者を指定する。
住所
東京都~~~
職業
遺言執行者
△△ △△
2. 遺言執行者である△△ △△は、預金債権の払出しや名義変更及び解約手続き、不動産の移転登記手続き、その他遺言執行に必要なすべての行為について相続人の同意を必要とせず、単独で行う権限を有するものとする。
このように遺言書で遺言執行者を指定しておくと、遺言内容をスムーズに実現できます。信頼できる相続人や弁護士などの専門家を指定しましょう。
遺言執行者に選任された場合、またその役割など知っておくことで、誰に指定するべきか具体的に考えられます。「 遺言執行者の役割と流れ!事前に知っておくべきメリット&デメリット」に知っておくべきことが網羅されていますので、事前に読んで準備しましょう。
秘密証書遺言の作成の流れ
秘密証書遺言を作成する際は、以下の6つの手順を踏んで進めましょう。
1.手書きやパソコンで遺言書を書く
2.封筒に入れて押印する
3.証人を2人決める
4.遺言書を提出する日程を決める
5.公証役場に遺言書を提出する
6.遺言書は自分で保管する
作成の順番に沿って確認していきましょう。
手書きやパソコンで遺言書を書く
まずは、自分の好きな方法で「遺言書」と「財産目録」を作成します。「様式を守って作成する」でもふれたように、遺言書には法律で決められた様式がありますので作成は慎重に行いましょう。
用紙の色や種類(和紙・コピー用紙・ノート)について定められてはいませんが、長期間保管することを考慮して検討しましょう。
尚、PC作成時でも遺言者の署名のみは自筆で行う必要があるので注意してください。
封筒に入れて押印する
完成した「遺言書」と「財産目録」を封筒に入れて封をします。この際、紙は折りたたんでしまっても有効性に影響はありません。
封入したあとは、遺言書に押したものと同一の印鑑を使って確実に封がされていることを示すための割印を押します。この印が書面のものと異なっていると、遺言書が無効となるので注意しましょう。
証人を2人決める
秘密証書遺言を提出する際には、2人以上の証人が必要です。証人になれる人は、以下の条件に該当しない人のみとなりますので、親しい知人などにお願いしましょう。
・遺言者の推定相続人と受遺者(遺言によって財産を取得する人)
・未婚の未成年者
・公証人の配偶者や4親等内の親族
・公証役場の関係者
証人が用意できない場合、事前に公証役場に相談することで有料ではありますが証人を手配してもらうことが可能な場合があります。最寄りの公証役場に相談してみましょう。
遺言書を提出する日程を決める
遺言書が完成し証人を依頼する人が決定したら、公証役場に連絡をして遺言書を提出する日取りを決めます。
公証役場は全国全ての都道府県に存在します。「 全国公証人連合会」のホームページで場所や電話番号を調べて、アポイントをとりましょう。
公証役場に遺言書を提出する
公証役場に行く当日、足りないものがあると手続きができませんので持ち物をよく確認しましょう。
【持ち物】
遺言者 | 証人 |
・遺言書本体
・遺言書に押印した印鑑 ・身分証 ・現金11,000円 |
・認印
・身分証 |
公証人からの説明を受けた後、役場が用意した「公証役場で存在の確認を行なったことを証明する書類」に署名・押印をします。その後、持参した遺言書の封筒の上に、書類を貼り付けて完成です。
遺言書は自分で保管する
完成した秘密証書遺言は、遺言者が責任を持って自己管理する必要があります。
「どのように保管するのが一般的?」を参考に、大切にしまっておける場所で、かつ自身の死後見つけてもらいやすい所に保管しておきましょう。
秘密証書遺言に関するよくある質問
秘密証書遺言についての知識を深めるために、4つのよくある質問をQ&A方式で紹介します。
質問 | 答え |
どのように保管するのが一般的? | 自宅での保管が一般的。銀行の貸金庫はおすすめできない。 |
代筆やPCでの作成で安全性は大丈夫? | 秘匿性を考慮するならデータはPC内に残さないように。 |
秘密証書遺言を使っている人の割合は? | 全体の1?2%程度と非常に少ない。 |
裁判所での検認とはどのようなもの? | 遺言書に偽造や変造などがないことを確認し、相続手続きを開始できるようにするもの。 |
それぞれの内容について詳しく確認しましょう。
どのように保管するのが一般的?
自分の書斎の引き出しや通帳など貴重品をまとめている収納ケースなどに保管するのが一般的です。
銀行の貸金庫はセキュリティこそ万全ですが、相続開始後に貸金庫を開けるためには、相続人全員の実印を押した書類と印鑑証明書を金融機関に提出するなどかなりの労力を要します。
スムーズな遺言書の発見と円滑な相続手続きのためにも、身の周りに保管しておくことが望ましいでしょう。
代筆やPCでの作成がOKで安全性は大丈夫?
秘密証書遺言は、全文をPCで作成することができます。情報の流出等が心配な場合は、以下の注意点に配慮して作成をしてください。
・データをPCの中に残さない(すぐに削除&ゴミ箱からも削除)
・漫画喫茶等の不特定多数が使うPCは避ける
・作成途中のデータをクラウドに保存しない
・印刷時、USBなどに入れて持ち出す際には紛失に注意する
代筆を依頼する際には、信頼できる相手にお願いしましょう。依頼料はかかりますが、弁護士や行政書士に依頼をすることも可能です。守秘義務があるため遺言内容が他言される心配はありません。
秘密証書遺言を使っている人の割合は?
日本財団の行った調査によると、秘密証書遺言の利用者は全体の1.5%程度となっており他の遺言書形式と比べて多くはありません。
ひと昔前までは、「内容を秘密にでき、改ざんや偽造の心配もない」と一定の需要がありました。しかし2020年に自筆証書遺言保管制度が施行されると、保管も頼めて手軽にできると多くの人が新制度を利用し始め、相対的に秘密証書遺言の利用者は激減しました。
新しい制度が始まったことで独自のメリットこそ減りましたが、「PC作成可」や「代筆可」など秘密証書遺言でなければ得られない利点は残っています。遺言形式を選ぶ際は慎重に検討を進めましょう。
裁判所での検認とはどのようなもの?
検認とは、裁判所で遺言書の内容や状態を確認してもらう手続きを指します。検認を終えなければ遺言書によって不動産の名義の書き換えや預貯金の払い戻しなどを受けられません。
秘密証書遺言の検認を受けるには、遺言書に加えて以下の必要書類を用意して家庭裁判所に検認の申し立てをする必要があります。
検認の申立から手続きが完了し開封の許可が出るまでは、通常1ヶ月~2ヶ月程かかります。相続放棄の申述期限(3か月)や相続税の申告期限(10か月)等がありますので、検認手続きはすみやかに行うことが求められます。
検認前に開封したからといって、遺言書が無効になることはありません。しかし、民法1004条の規定により「検認せずに遺言書を開封した場合は、5万円以下の過料」が課せられるので注意しましょう。
遺言書の作成については民法に規定があり、正しく書かない場合は、全て無効、または一部無効になるリスクがあります。無効にしたくない場合は「遺言書の効力と4つの無効なケースを解説!納得いかない場合の相談先」の記事も合わせてお読みください。
遺言書について困った時の相談先
当記事では「秘密証書遺言」について解説してきましたが、「どの形式の遺言書を残すか」といったお悩みも含めた遺言書全般についての相談先を3つご紹介します。
1.弁護士(費用相場:5,000円~/30分 ※初回相談のみ無料の事務所もある)
2.行政書士(費用相場:5,000円~/60分 ※初回相談のみ無料の事務所もある)
3.無料相談を利用して専門家を紹介してもらう
いずれも遺産や相続といった法律関係のプロですので、個々の状況に合わせた適切な遺書形式の選び方や遺書の書き方についてのアドバイスを受けられます。
「緊急度の高い順」にご紹介しています。相談を上手に活用して、遺言書作成を正確に進めていきましょう。
弁護士(費用相場:5,000円~/30分)
相続の内容が複雑な場合は、弁護士の力を借りるのがおすすめです。プラスの財産もマイナスの財産も、亡くなった人の名義であれば全て相続財産となるため、遺産の種類や金額が多ければ多いほど、相続終了までの道のりは長くなります。
弁護士に相談したからといって必ず依頼しなければならないということはありません。特に相続について不安や悩みがあれば、早めに相談して適切なアドバイスをもらいましょう。
アドバイスを踏まえた「法的に有効な遺言書」を残すことで、残された家族の間で相続トラブルが起こるリスクを大きく軽減させることができます。
相続に強い弁護士の選び方や、選び方のポイントなどは、「 知らないと損をする!相続弁護士を選ぶ9つの要点と費用を抑える準備」に詳しく解説しています。参考にしてください。
行政書士(費用相場:5,000円~/60分)
現在は司法書士や行政書士も積極的に遺言書作成業務を行なっています。弁護士に比べ、費用が安く、気軽に遺言書作成を行いたい方は弁護士よりも相談しやすいというメリットがあります。
国家資格者だからといって、すべての行政書士が遺言書作成の実務に精通しているとは限りません。依頼を検討する場合には、「専門性」を確認し、相続や遺言に詳しい先生を選ぶことが大切です。
専門性を確認するためには、事務所のホームページのチェックが有効です。遺言作成業務をよく受ける事務所の場合は、遺言に関する記事や解決事例が豊富に掲載されています。また、直接電話で問い合わせして確認してみるのもよいでしょう。
無料相談を利用して専門家を紹介してもらう
弁護士や行政書士の伝手がない人や、不安がある人は「無料相談」を利用してみるのもオススメです。
どの専門家にお願いすればいいのかなどの疑問も『 やさしい相続』の24時間365日無料相談で承っています。電話でもメールでも行えますのでお気軽にご連絡下さい。しつこい勧誘等も行いません。
大切なことだからこそ、丁寧に・確実に進めていきましょう。
まとめ
当記事では、「秘密証書遺言」について詳しく解説しました。
「秘密証書遺言」とは、自作の遺言書の存在だけを公証役場で証明してもらう遺言の形式です。
メリット | デメリット | |
・偽造や変造のリスクがない
・遺言書の内容を秘密にできる ・パソコンで作成できる ・代筆でもOK(署名は必要) |
・内容不備のリスクが伴う
・保管は自分で行う必要がある ・費用がかかる ・裁判所の検認がないと開封できない |
|
どんな人におすすめ? | ・遺言書は自分で保管したいという方
・遺言内容は絶対に秘密にしておきたい方 ・全文を自筆で作成するのが困難な方 ・法的に効力のある様式や用語などに自信がある方 |
|
書き方のポイント | 1.様式を守って作成する
2.財産の内容を正確に記載する 3.遺言執行者について記載する |
秘密証書遺言には、「代筆ができる」「パソコンで作成できる」といった他の遺言形式にはないメリットがあります。
一方で、メリットに対してデメリットが多い点や、自筆証書遺言の保管制度が始まったことなども踏まえると「あえて秘密証書遺言を選ぶメリットはほとんどない」という意見もあります。
シチュエーションや考え方によって、どの遺言形式が最適かというのは変わってきます。それぞれの特徴を知り、自分が大切にしたい部分が叶えられる形式を選びましょう。
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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール