遺言作成者の兄弟姉妹には遺留分請求といった絶対的な権利はありません。しかし、法定相続人であり、遺産がもらえないとなっても代襲相続や寄与分の請求が可能です。本記事では、兄弟間の相続についてだけではなく、遺産をもらうための対策法も紹介します。
「兄弟は遺留分がないって本当?」
「遺留分がないなら、遺産ってちゃんと貰えるの?」
遺言書作成者の兄弟姉妹(以下、兄弟と記載)には、遺留分侵害額請求権はありません。しかし、法定相続人として代襲相続や寄与分の請求が可能です。
【兄弟が遺産を受け取れる2つのケース】
1.代襲相続(だいしゅうそうぞく) | 配偶者や子どもなどの相続人がいない場合、直系卑属である兄弟や姪・甥が相続人に繰り上がる制度 |
2.寄与分(きよぶん)の請求 | 遺言作成者の財産の維持や増加に貢献した人が、予定している相続分以上の財産を請求できること |
そもそも遺留分とは、正しくは遺留分侵害額請求(旧:遺留分減殺請求)といい、法定相続人が最低限の遺産を取得できる権利のことです。
遺留分の詳しい割合や取り戻しなどの手順、実際のトラブル内容は、「 プロ監修|相続で損をしない!遺留分の割合~取り戻し方までを全解説」に掲載しているので、必ずチェックしておきましょう。
兄弟も法定相続人で遺産をもらう権利はあるものの、以下4つの理由から遺留分は認められないのです。
【兄弟で遺留分が認められない4つの理由】
1.遺言作成者との関係が遠いから
2.遺産がなくても生活が困らないから
3.代襲相続があるから
4.寄与分の請求ができるから
そこで本記事では、上記の理由4つを詳しく紹介しながら、『兄弟で遺産を受け取るために行える3つの行動』についても解説します。
兄弟は、配偶者や子どもといった財産分与より分かりづらく、予定の遺産を貰えず、泣き寝入りするケースもあります。本記事を読むことで万が一のときに損をせず落ち着いて対処できるようになりますので、ぜひ読了ください。
INDEX
兄弟での遺留分請求は「認められていない」
遺言作成者の兄弟は遺留分を侵害する内容の遺言書があると、いくら「不公平だ」と主張したとしても遺留分は認められず、遺産をもらうことはできません。
【遺留分請求が可能な相続人と割合表】
相続人例 | 相続財産に対する遺留分の割合 | 各相続人に対する割当 | |
配偶者 | その他の相続人 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | |
配偶者・子ども | 1/2 | 1/4 | 子ども:1/4 |
配偶者・故人の父母 | 1/2 | 1/3 | 父母:1/6 |
配偶者・故人の兄弟姉妹 | 1/2 | 1/2 | 兄弟姉妹:なし |
子どものみ | 1/2 | 子ども:1/2 | |
父母のみ | 1/3 | 父母:1/3 | |
兄弟姉妹のみ | なし | 兄弟姉妹:なし |
たとえば、老人ホームに遺産全額寄付するという遺言書があった場合、亡くなった人の配偶者は遺留分を請求できますが、兄弟には遺留分がないため遺産はもらえません。
しかし、兄弟は法定相続人に該当するため、遺産の一部はもらえる可能性があります。以下の見出しで兄弟が法定相続人になった場合のもらえる割合を解説します。
兄弟が相続人になる場合の遺産分配例
兄弟が法定相続人になれる場合は、原則以下の相続順位が高い該当する人物がいないときのみです。
【法定相続人】
1.遺言作成者の子どもや孫などの直系卑属
2.親や祖父母などの直系尊属
民法で定められている条文は以下の通りで、ケース別に計算方式と一緒に紹介しますので、合わせて参考にしてくださいね。
(法定相続分)
第九百条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
三 配偶者及び兄弟が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟の相続分は、四分の一とする。
四 子、直系尊属又は兄弟が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟の相続分の二分の一とする。
引用元: 民法|電子政府の窓口
【ケース1 遺言作成者の配偶者がいない】
相続人 | 法定で定められる相続分 |
兄弟 | 計算式:総額遺産÷兄弟の人数
例:1000万円(総額遺産)÷2人(兄弟の人数)=500万円/1人あたり ※兄弟が1人しかいない場合は、総額1000万円全額をもらえる |
【ケース2 遺言作成者に配偶者がいる】
相続人 | 法定で定められる相続分 |
配偶者 | 遺産に対する割合:3/4
例:1000万円×3/4(割合)=750万円 |
兄弟 | 計算式:1/4÷兄弟の人数
例:1000万円×1/4÷2(兄弟の人数)=125万円 1000万円×1/4÷1(兄弟の人数)=250万円 |
兄弟間で遺留分が認められていない4つの理由
兄弟に遺留分が認められていない理由は以下4つあり、大きな要因となったものから順に紹介します。
【兄弟で遺留分が認められない4つの理由】
1.遺言作成者との関係が遠いから
2.遺産がなくても生活が困らないから
3.代襲相続があるから
4.寄与分(きよぶん)の請求ができるから
そもそも、兄弟の相続は過去に、縁もないような遠縁の親族が遺産を手に入れてしまうという困ったことが多発し、「笑う相続人」と呼ばれていました。
昭和55年の民法改正で、兄弟の代襲相続に制限がかけられ、遺言書の内容や近親者の生活保障が尊重されるようになり、兄弟の相続に対する位置付けが低くなったのです。
「なぜ?」とモヤモヤしてしまうなら、下記の認められない理由を把握してスッキリしてしまいましょう。
1.遺言作成者との関係が遠いから
遺言書作成者の兄弟は近しい関係だと思われがちですが、法定相続人の中でもっとも相続順位が低い位置づけをしています。法律上で定められている順位は以下のとおりです。
【相続人の順位】
必ず相続人 | 配偶者 |
第1順位 | 直系卑属(子ども/孫) |
第2順位 | 直系尊属(父母/祖父母) |
第3順位 | 兄弟 |
相続順位は次世代への遺産承継が一般的で、原則『子ども→孫→ひ孫』という順番になります。さらに、直系卑属がいない場合には、父母や祖父母が相続人になります。
法定上では直系血族による相続を当たり前としており、優先度の低い兄弟は遺留分も認められないのです。
遺産相続で順位と割合がどう決まるのか、遺言書の関係性といった詳しい話は、「 遺産相続は配偶者が最優先!順位を決める4つのポイントと割合を解説」で解説しています。
誰もが気になる自分がいくらもらえるのかといったことも分かりますので、合わせて参考にしてくださいね。
2.遺産がなくても生活が困らないから
特殊な事情がない限り、遺言作成者と兄弟は別々の生計を立てているため、兄弟の収入を当てにしている方はごく稀で、遺言作成者が亡くなったとしても困る可能性は低いからです。
配偶者や子ども、親は遺言作成者と一緒に生活しているケースがあるため、亡くなってしまうと経済的に困る可能性があります。
そのため、兄弟には『財産を相続できなくても生活に支障がない=遺留分も必要ない』という考えから、遺留分は認められません。
3.代襲相続があるから
兄弟には代襲相続(だいしゅうそうぞく)という、上位に位置する相続人がいない場合、代わりに直系卑属が相続人になる制度が適用されます。
たとえば、遺言作成者より先に配偶者やその子どもなどが亡くなっている場合、傍系血族である横つながりの血族が繰り上がり、本来の相続人に代わって姪や甥も相続できます。
代襲相続に加えて遺留分も認められると、関係のない姪や甥が遺留分請求をすれば、遺産を渡したかった相手に渡らない可能性も起こります。
遺言書の効力が一部否定され、尊重されなくなってしまうため、兄弟には遺留分は認められないのです。
「 代襲相続を完全解説!範囲・割合・相続放棄のルールを紹介!」では、代襲相続が発生する実際のケースやなれる要件を紹介していますので、合わせて読めばより正確に理解できますよ。
4.寄与分(きよぶん)の請求ができるから
兄弟には寄与分という財産の維持や増加に貢献した相続人や親族が、予定している相続分以上の財産を請求できる権利を持っています。
この制度は、貢献した分の相続分をしっかりと与えるためにできた制度で、たとえば、遺言作成者の事業を手伝っていたり、介護や看病をしていたりする場合に該当します。
【寄与分が認められる4つの要素】
1.対価を受け取っていない
2.1年以上の長期間にわたって従事した
3.片手間ではなく、メインで行っていた
4.遺言作成者の財産維持や増加に関係した事実
仮に兄弟が相続人になる場合は、上記の条件を満たしていれば、寄与分を主張することができるため、遺留分は認められないのです。
たとえば、報酬を貰わずに献身的に介護をしていたり、仕事を辞めてメインで遺言作成者の事業を手伝っていたりする場合が該当します。
具体的にどのように請求するかは、「寄与分の請求を行う」で詳しく紹介していますのでご参照ください。
兄弟で遺産を受け取るために行える3つの行動
兄弟であってもある程度遺産をもらえる可能性はありますが、遺言書の内容によっては泣き寝入りするしかないと考えてしまう方も多いです。
しかし、遺言作成者への貢献度によって、遺産の取り分を主張できます。主に考えられる方法は以下3つあり、行うべき順番に紹介しますので、しっかりと把握しておきましょう。
【兄弟で遺産をもらうために行える3つの行動】
1.遺留分対策をした遺言書を生前に作成してもらう
2.遺言書の無効を主張する
3.寄与分の請求を行う
1.遺留分対策をした遺言書を生前に作成してもらう
まず、第一に行ってほしいことは、遺留分対策をした遺言書を生前に作成してもらいましょう。
多くのケースが遺留分を知らずに、偏った遺産配分をしている方が少なくありません。相続や分配方法、遺留分について兄弟で話し合っておくと、よりスムーズです。
生前にしか行なえませんが、後々トラブルにならず、関係悪化や不平不満にもつながりにくくなりますよ。
ただし、無理矢理書かせるのは無効になる可能性がありますが、緊急時や事故などで隔離されている状態で書いた遺言書は認められるケースもあります。
「遺言書の効力と4つの無効なケースを解説!納得いかない場合の相談先」で遺言書の効力とリスクについて詳しく紹介していますので、参考にしてくださいね。
2.遺言書の無効を主張する
遺言書に自分が相続できないような内容が記載されている場合、遺言書の無効を主張できないかを考えます。無効できるポイントは以下の3つです。
【遺言書の無効が考えられるポイント】
1.遺言の形式が守れていない
2.認知症等で遺言能力に問題があった
3.遺言書が偽造、変造されている
相続人など財産をもらう人の全員が同意すれば、遺言書が無効となり、遺産分割協議に移行できます。
親族関係だけではなく、第三者が関係していると難しいですが、誰が見ても不公平な内容であれば、関係者の理解を得られる可能性もあるでしょう。
また、遺言書が無効となった場合、法律で定められている法定相続分(参照:兄弟が相続人になる場合の遺産分配例)をもらえるようになります。
認知症の症状と遺言書との関係や作成手順、疑問は「認知症でも遺言への意思があれば遺言書が作れる!作成〜手続きの流れ」の記事で詳しくご紹介していますのでぜひ、合わせてお読みください。
3.寄与分の請求を行う
1年以上無償で事業を手伝っていたり、介護などの手助けをメインで行っていたりする場合、他の相続人に対し寄与分の請求ができます。
寄与分についてや認められる要素については、上記の見出し「寄与分の請求ができるから」で紹介していますので、参考にしてくださいね。
ただし、認められる要素に該当していれば、原則寄与分の主張ができますが、遺言書の内容と寄与分が衝突する場合は、遺言書が優先され主張が無効となります。
相続人同士の協議では埒が明かない場合、直接家庭裁判所に調停を申し立てることもできますが、寄与分の請求を行う際は専門家を交えるとよりスムーズです。
相談先については、下記をご確認下さい。
遺産問題で困ったときの相談先3選
遺産問題で困ったときには以下の相談先があります。初回の相談は無料で対応してくれるところがほとんどなので、今自分が何に困っているのかを考えて選択しましょう。
3つの相談先 | 費用目安 | 特徴 |
1.弁護士 |
5,000円~(30分) ※初回相談のみ無料の事務所もある |
法的に有効で、内容的に適切な遺言書をスムーズに作成することができる。 |
2.行政書士 |
0円 ※初回相談のみ |
遺言書の文案・内容についての細かいアドバイスがもらえる。作成費用は弁護士より安い。 |
3.無料相談を利用して専門家を紹介してもらう |
0円 ※初回相談のみ |
どの専門家にお願いすればいいのかなどのアドバイスがもらえる。 |
遺産の相続問題は法律が関与していて、ちょっと知っている方がいるとつい丸め込まれてしまう方も多いです。
納得がいかない場合には、まずは専門家に相談することでスムーズに話が進むようになります。以下、効力がある順番に紹介しますので、参考にしてくださいね。
1.弁護士に相談する【費用:無料または5,000円~】
遺言作成者が遺言書を作成する段階であるなら、まずは弁護士に相談しましょう。ま兄弟の遺産分配や相続トラブルでも大きな力となってくれるはずです。
弁護士への相談は、初回こそ無料で行ってくれる場合もありますが、費用がかなりかかると思っておきましょう。
財産を多少なりとももらえるならいいですが、時にはマイナスな財産もあり、金額や種類によっては、相続がなかなか完了しない場合もあります。
1人で抱えてしまうと、相続が終わった後に相続税や遺留分でのトラブルが起こる可能性があるため、まずは相談だけでもしておくと安心です。
しかし、弁護士であれば誰でもいいというわけではなく、相続に強い弁護士を選びましょう。
「 知らないと損をする!相続弁護士を選ぶ9つの要点と費用を抑える準備」では、相続に強い弁護士の選び方やポイントなどを詳しく紹介していますので、参考にしてくださいね。
2.行政書士に相談する【費用:0円~】
「弁護士」と聞くとお硬いイメージで依頼しにくいと感じている場合、行政書士に相談するのがオススメです。
行政書士は、各省庁や市区町村の役所、警察署などに提出する書類の作成や同内容の相談、手続きなどを代理で行っており、遺言書作成業務も扱っている場合があります。
弁護士よりも安く済ませられますが、遺言書の作成を扱っている事務所でなければいけません。
近くの司法書士事務所に電話やメールで問い合わせたり、事務所のホームページで遺言書作成業務を扱っているかを確認してみましょう。
3.無料相談で適切な専門家に相談する【費用:0円~】
身近に弁護士や司法書士がいなかったり、直接相談することに抵抗があったりする場合、『 やさしい相続』の無料相談を受けてみるといいでしょう。
この相談では、相続人調査や相続放棄などさまざまな内容から、今自分が何に悩んで、どんなことを行えばいいかを24時間365日相談を承っています。
電話でもメールでも行えますのでお気軽にご連絡下さい。しつこい勧誘等も行いません。大切なことだからこそ、丁寧に・確実に進めていきましょう。
まとめ【兄弟は遺留分請求権利はないが、相続人に該当する】
遺言作成者の兄弟は、どれだけ遺産に対して貢献したとしても、遺言書によっては遺留分請求が認められず、遺産をもらうことはできません。
【遺留分請求が可能な相続人と割合表】
相続人例 | 相続財産に対する遺留分の割合 | 各相続人に対する割当 | |
配偶者 | その他の相続人 | ||
配偶者のみ | 1/2 | 1/2 | |
配偶者・子ども | 1/2 | 1/4 | 子ども:1/4 |
配偶者・故人の父母 | 1/2 | 1/3 | 父母:1/6 |
配偶者・故人の兄弟姉妹 | 1/2 | 1/2 | 兄弟姉妹:なし |
子どものみ | 1/2 | 子ども:1/2 | |
父母のみ | 1/3 | 父母:1/3 | |
兄弟姉妹のみ | なし | 兄弟姉妹:なし |
とはいえ、遺言作成者の子どもや孫などの直系卑属や親や祖父母などの直系尊属がいない場合は、兄弟も法定相続人となります。
詳しい割合については、見出しの「兄弟が相続人になる場合の遺産分割例」で紹介していますので、参考にしてください。
なぜ、兄弟に遺留分が認められていないのかというと、以下4つの理由があるからなので、合わせて確認しておくといいでしょう。
1.遺言作成者との関係が遠いから
2.遺産がなくても生活が困らないから
3.代襲相続があるから
4.寄与分の請求ができるから
しかし、遺言作成者の生前に、さまざまな貢献をしたのに、何ももらえないというのは不満に繋がり、相続トラブルに発展しまう可能性もあります。
以下3つの行動を行うことで、兄弟であっても遺産をもらえる可能性がありますので、覚えておきましょう。
1.遺留分対策をした遺言書を生前に作成してもらう
2.遺言書の無効を主張する
3.寄与分の請求を行う
ただし、上記3つの行動には遺言書の内容が関係したり、相続人が全く取り合ってくれなかったりする可能性もあります。
遺産相続は民法が関わり、自力で調べても不安が解消されない場合もありますので、ぜひ上手に専門家を使いながら、後悔のない相続を行ってくださいね。
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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール