遺産争いは、大小関わらずすべての家庭で発生する可能性があります。遺言書の有無や財産分与など、さまざまな原因があります。親族間だけでは解決できない場合も多いため、弁護士に相談して解決しましょう。遺産争いを未然に防ぐ方法を知ることも大切です。
「遺産争いをなんとか終わらせたい」
「親族の遺産争いに巻き込まれてウンザリ…」
「今後、親の財産を巡って絶対に兄弟で揉めそう…」
現在遺産争いに巻き込まれている、もしくは今後、発生する可能性があるのでは?と懸念している方もいるのではないでしょうか。
大小に関わらず、遺産争いはすべての家庭で発生する可能性がある問題です。
遺産争いのよくある原因として、
・親の介護を誰がしたかで揉める
・一部の兄弟のみ生前贈与を受けていた
・家や土地など分割しにくい財産が残された
などがあります。
遺産を巡っての争いは、親族とのトラブルや関係悪化も懸念されるため、できれば避けたいと考える方が大半です。
遺産争いに関する原因を知ることが、遺産争いの防止につながるといえるでしょう。
そこで今回は、「そもそも遺産争いがなぜ発生するのか?」その原因や解決法と、遺産争いを発生させないために事前に実施しておくべきことも解説致します。
正しい知識や対処法を知ることで、遺産争いに関する悩みや不安を解消できるでしょう。
遺産争いの専門家である弁護士への相談方法や費用についても解説しています。ぜひ、最後までお読みください。
この記事でわかること
遺産争いが起こる7つの原因
遺産争いは主に7つの原因で起こり、特に以下の順番で発生しやすい傾向があります。
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- 1.遺言書が用意されていない
- 2.遺言書の内容に偏りがある
- 3.親を介護していたことによる差別
- 4.生前贈与があった
- 5.分割しづらい財産が残っている
- 6.相続人の家族が参入してくる
- 7.故人の財産を管理している人がいた
1.遺言書が用意されていない
亡くなった方が遺言書を用意していない場合、遺産争いが発生しやすいといわれています。
家族同士は仲がいいから、遺産争いなど起こらないだろうと考えてあえて残さないことが原因です。
しかし遺言書がない状態で遺産相続の話が進むと、誰が何割相続するのか?という疑問から大きな揉め事に発展することがあります。
遺言書があれば内容に合わせて相続が進むので、家族間の争いを事前に回避できるでしょう。
遺言書の作成はデリケートな問題なので、親に促しづらいと考える方も多いかもしれませんが、遺産争いを避けるために必要なものなので、できるだけ用意することを薦めましょう。
2.遺言書の内容に偏りがある
仮に遺言書が残っていても、それがあまりにも偏った内容だった場合、遺産争いが発生しやすくなります。
たとえば「財産のすべてを長女に渡す」と書かれていたら、長女以外の相続人は納得しません。
相続人には「遺留分」という、最低限の相続を受けられる権利があります。
遺留分に配慮されていない遺言書だった場合は、遺留分の権利が優先されることを覚えておきましょう。
例えば上記の「長女にのみ相続」となった場合でも、ほかの親族が遺留分を受け取れます。
遺留分は、父母・祖父母・曽祖父母の直系尊属と、子供や孫などの直系卑属が受け取り可能で、割合は、相続人が直系尊属のみの場合で総額の3分の1、それ以外は半分となります。
遺留分についての詳細は「遺留分を完全解説!関係別の割合・金額例・取り戻し方を紹介!」の記事でもご紹介しています。
3.親を介護していたことによる差別
兄弟のうち誰かが親の介護をしていた場合、ほかの相続人よりも多く遺産が分配される可能性があります。
被相続人が介護のお礼に、多めに分配しようと考えることが多いためです。
しかしこの場合、介護をしていなかった家族から不満の声が挙がり、遺産争いに発展するかもしれません。
介護を理由に遺産が多く分配されるとしても、やはり遺言書がないと遺産争いに発展しやすいでしょう。
介護の有無については、相続人全員が納得できるよう事前に話し合いを薦めておくことを推奨します。
4.生前贈与があった
一部の相続人に生前贈与があった場合、財産が与えられなかった相続人が不平等に感じやすくなります。
例えば、
・兄弟の特定の子供や孫にのみ教育資金を援助した
・借金の肩代わりをした
などがあった場合は、生前贈与を加味し平等になるよう遺産を分配してほしいという意見が出やすいでしょう。
対して生前贈与を受けている相続人からすると、遺産相続とは別物と考える方がほとんどです。
生前贈与を受けた相続人がいるかどうかで、遺産争いに発展する可能性もあると考えておきましょう。
5.分割しづらい財産が残っている
不動産や有価証券といった、分割しづらい財産が残っている場合もあるでしょう。
特に不動産の場合、相続人同士で均等に分割することは非常に困難です。
被相続人と同居していたり、対象の不動産に思い入れがあったりと、さまざまな理由で揉め事が発生します。
不動産を分ける場合は、ひとりの相続人が単独で相続するか、売却したお金を分割する方法を選択することが可能です。
対象の不動産を共同名義で相続する場合もあるでしょう。
また、相続人ひとりが不動産を引き継いだ場合、ほかの相続人に不平等がないように対価分を支払うこともあります。
6.相続人の家族が参入してくる
仮に相続人同士が円満に遺産分配を進めていても、それぞれの配偶者が参入してくる場合があります。
「うちは子どもが多いから、ほかよりも多くもらうべきだ!」
「マイホームを購入したから、少しでも遺産を多く分配してほしい!」
このような理由で相続人の家族が意見を出してきたことで、遺産争いに発展することも考えられるでしょう。
そもそも相続人は亡くなった人の親族であり、相続人の妻などは相続人に該当しません。
そのため、正確には遺産相続に直接口を出せる立場でないことを覚えておきましょう。
法定相続人のルールや範囲については下記記事もご参考ください。
・遺産相続は配偶者が最優先!順位を決める4つのポイントと割合を解説
・法定相続を完全解説!範囲・割合を紹介!
6.故人の財産を管理している人がいた
被相続人の口座などを、生前に管理している人がいた場合にも、遺産争いにつながる可能性があります。
「生前この人が勝手に財産を使っていたのではないか?」
このような疑念が生まれるためです。
相続人以外の人が同居、もしくは介護をしていた場合などは、財産管理に関する揉め事が発生しやすいでしょう。
仮に親族以外の人間が財産を管理している場合は、相続人が積極的にコンタクトを取る必要があります。
亡くなる前から被相続人・相続人・財産管理している方とで話し合いの場を設けるのがおすすめです。
遺産争いが発生した場合の5つの対処法
ここでは、遺産争いの主な対処法として挙げられる5つについて、実施しやすい順番で解説します。
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- 1.生命保険への加入
- 2.生前贈与
- 3.遺留分の放棄
- 4.相続譲渡
- 5.代償分割
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1.生命保険への加入
生命保険への加入は、財産分配の自由度を広げたい方におすすめの手法です。
また、特定の相続人に遺産が多めに分配される場合は、「遺留分侵害額請求」に備えておく必要もあります。
遺留分侵害額請求とは、遺留分を受け取れなかった場合に、遺留分相当の金額を侵害額として請求できる権利のことです。
仮に遺留分侵害額を請求された場合、保険金の中から遺留分を支払うこともできます。
遺留分侵害額請求については、「遺留分侵害額(減殺)請求を成功させる全情報!手続き~割合・注意」でも詳しく解説しています。
2.生前贈与
生前贈与を『正しく』実施することは、節税効果があるだけでなく遺産争いを回避することにも繋がり、早めに財産を相続したい人にメリットの多い方法です。
ただし、生前贈与分も含め、遺産分配が平等になっていないと、かえって遺産争いが発生・深刻化することもあるので慎重におこないましょう。
不平等を感じる親族がいないよう、生前贈与の有無を含めた話し合いを事前に進めておきましょう。
3.遺留分の放棄
遺留分を事前に放棄しておくことが、遺産争いの対処法になることがあり、放棄することで相続を円滑に進められるケールもあります。
生前でも本人が家庭裁判所で手続きをすることで、遺留分の放棄が可能ですが、遺留分を放棄するに値する事情がないと放棄はできません。
たとえば、遺留分の金額に相当する生前贈与を受けていた場合や、そもそも遺産が少ない、相続争いを避けたいと判断した場合、放棄されるケースがあります。
また遺留分の放棄には、放棄者に対する遺留分相当の保障など、放棄後の処理といった配慮も必要になるでしょう。
4.相続譲渡
相続人同士の争いに関与したくない方は相続譲渡を検討してみましょう。
相続割合のうちの法定相続分に該当する割合を、ほかの相続人に譲ることを相続譲渡といいます。
相続譲渡には、譲渡する対価に値する金銭を支払う「有償譲渡」と、無償で財産を贈与する「無償譲渡」があります。
遺産相続に関する折り合いつかず、遺産争いが長期化した場合などに実施されるのが特徴です。
相続譲渡することで、遺産争いに巻き込まれる心配がなくなるだけでなく、遺産分割協議にも参加する必要はありません。
5.代償分割
ひとりの相続人が財産を一括で相続し、ほかの相続人に分割して支払うことを代償分割といいます。
不動産などの財産をスムーズに相続することが可能です。
特に不動産など、分割しづらい財産が残っている場合におすすめの方法です。
相続人同士で事前に話し合いを進め、不平等が発生しないように配慮しましょう。
ただし代償分割には、代償資金や贈与税、所得税など、別途費用が発生する場合もあるので注意が必要です。
遺産争いを防ぐためのコツ
ここでは、遺産争いを発生させないために実施しておくべきことについて解説します。
親族間で積極的にコミュニケーションを取る
遺産争いが発生しないよう、親族間で密にコミュニケーションを取っておきましょう。
被相続人が健在のうちに親族間で集まる機会を設けて、相続に関する話し合いを進めておくのがおすすめです。
とはいえ、亡くなる前提の話は本人の前ではしづらいものです。
いつその時が来てもいいように、さまざまなパターンを想定した話し合いを親族間だけで進めておく方が良いかもしれません。
財産を現金化する
不動産など、分割しづらい財産が残っている場合は、事前に現金化を促しておきましょう。
被相続人が遺産や財産に関する話を持ち出してきた場合は、財産の現金化を相続人から提案する配慮が必要ですが、仮に現金化できない場合は、
代償分割も想定しておくとよいですね。
相続税の評価額を低くしておく
不動産などの財産を受け継ぐ場合は、相続税がかかることも想定しておかなければなりません。
あらかじめ相続税の評価額を低く設定しておくことで、負担を軽減できます。
相続税の評価額は、不動産のある市町村の市区役所で申請します。
ただし、現金の場合は評価額が問題にならないので、覚えておきましょう。
遺言書や財産目録を用意しておく
遺産分割は一般的に、遺言書の内容が優先されます。
遺留分に配慮しつつ、遺産争いを避けるための遺言書をあらかじめ準備してもらう必要があるでしょう。
また、相続内容がはっきりわかるよう、財産目録を用意しておくことも有効な方法です。財産目録には、正と負の財産にまつわる項目を書きます。
正の財産 | 負の財産 |
●不動産 |
●住宅ローン |
リストにすることで、財産に関する手続きも明確化されるため、相続もスムーズに進むでしょう。
遺産争いを終わらせるには『弁護士』への相談がおすすめ
遺産争いが発生した場合、相続人同士だけでは解決するのは困難です。
その場合は、専門家である弁護士に相談しましょう。
ここでは、遺産争いを弁護士に相談する場合に押さえておきたいポイントについて解説します。
依頼方法と費用
弁護士へ遺産争いに関する相談をする場合は、以下の手順で依頼しましょう。
-
- 1.法律相談事務所へ遺産争いの内容を相談する
- 2.費用について弁護士から説明を受ける
- 3.着手金の支払い後、弁護活動を開始してもらう
必要に応じて、弁護士と都度打ち合わせが入る場合もあります。
また、弁護士へ遺産争いに関する相談をする場合は、以下の費用がかかることを覚えておきましょう。
費用の種類 | 概要 | 費用相場 |
相談料 | 遺産争いの相談にかかる費用 | 無料、もしくは約5,000円〜(30分) |
着手金 | 弁護士が遺産分割や調停に着手した場合の費用 | 20〜30万円 |
報酬金 | 遺産争いが解決した場合に発生する費用 | 経済的利益や着手金相場によって変動 |
実費 | 印紙代や切手代、交通費など | 1〜10万円 |
日当 | 出張費用 | 約5万円 |
参考:「相続会議」朝日新聞社
上手な選び方
遺産争いをスムーズに解決できる弁護士を選ぶ際は、以下のポイントを押さえておく必要があります。
基準としての優先順位でまとめてあるので、ぜひ参考にしてください。
-
- 1.経験年数が豊富か
- 2.遺産争いの実績があるか
- 3.レスポンスが早いか
- 4.費用についての説明が事前にあるか
- 5.相続税に配慮してくれるか
- 6.契約書が作成されるか
- 7.不利な情報も隠さず教えてくれるか
- 8.遺産争いに関する著作があるか
ここで紹介したポイントを把握したうえで、信頼できる弁護士を上手に選びましょう。
まとめ
今回は、遺産争いが発生する原因や対処法、未然に防ぐためのポイントについて解説しました。
【遺産争いが発生する原因】
1.遺言書が用意されていない
2.遺言書の内容に偏りがある
3.親を介護していたことによる差別
4.生前贈与があった
5.故人の財産を管理している人がいた
6.相続人の家族が参入してくる
【遺産争いが発生した場合の対処法】
1.遺留分の放棄
2.相続譲渡
3.代償分割
4.生前贈与
5.生命保険への加入
【遺産争いを未然に防ぐためのポイント】
1.親族間で積極的にコミュニケーションを取る
2.財産を現金化する
3.相続税の評価額を低くしておく
4.遺言書や財産目録を用意しておく
上記について把握していても、遺産争いを回避できなかった場合は、弁護士へ依頼・相談をしましょう。
今回ご紹介した記事が、遺産争いのトラブル解決・回避に役立てて頂ければ幸いです。
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【監修】高橋圭(司法書士・宅地建物取引士)
- 略歴
- 高橋圭 (たかはし けい)
- 青山学院大学法学部卒業。
- 2007年司法書士試験に合格後、都内司法書士法人にてパートナー司法書士としての勤務を経て2016年ライズアクロス司法書士事務所を創業。
- 司法書士法人中央ライズアクロスグループCEO代表社員
プロフィール