もしも配偶者が亡くなったら、経済的な不安がよぎりますが、残された家族の生活を支える「遺族厚生年金」については意外と知られていません。そこで遺族厚生年金の受給条件や申請手続きについて簡潔に解説し、次の生活設計に役立てていただきたいと思います。
「遺族厚生年金はどうすればもらえる?」
もしも亡くなった配偶者が会社勤めで厚生年金保険に加入していた場合、『遺族厚生年金』が支給されるかもしれません。
しかし「いくらを、どのくらいの期間、受け取れるのか…」
など、遺族厚生年金の概要について、意外と知られていないものです。
そこで今回は、遺族厚生年金に関して、受給条件や手続きに関してできるだけわかりやすく解説していきます。
この記事が、万一のことがあった場合に、残された家族の生活の支えになる一つとして、遺族厚生年金を活用するきっかけになれば幸いです。
INDEX
「遺族厚生年金」は公的年金制度の一つ
「遺族厚生年金」は公的年金制度の一つです。公的年金制度としての遺族年金には、以下の2つがあります。
遺族基礎年金 | 国民年金に加入していた人が亡くなった時に支給される遺族年金 |
遺族厚生年金 | 厚生年金に加入していた人が亡くなった時に支給される遺族年金 |
「遺族基礎年金」は「国民年金」の給付
遺族基礎年金は、国民年金の被保険者あるいは老齢基礎年金の受給資格期間が25年以上ある人が亡くなった場合に、その遺族に支給される年金です。
受給者は子がいる配偶者(妻)、もしくは子になります。
※子の受給は、18歳になった年度の3月31日まで(障害等級1級・2級であれば20歳未満)で、婚姻していないことが必要です。
「遺族厚生年金」は「厚生年金」の給付
遺族厚生年金は、会社員と公務員などが加入する厚生年金の一部です。
亡くなった人が条件を満たしていれば、その人によって生計をともにしていた遺族に対して支給されます。
遺族厚生年金を受給できる条件
遺族厚生年金を受給するには、亡くなった人とその遺族に、それぞれ条件があります。
被保険者(亡くなった人)の条件
次のいずれかの要件を満たしている人が亡くなった場合に、遺族は遺族厚生年金を受給できます。
1.厚生年金保険の被保険者である間に死亡の場合 |
2.厚生年金の被保険者期間に被った病気やけがが原因で、医者の初診日から5年以内に死亡の場合 |
3.1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡の場合 |
4.老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡の場合 |
5.老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡の場合 |
※1および2の要件については、死亡日の前日の時点で、保険料納付済期間(保険料免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上であることが必要になります。
受給対象者の条件
亡くなった人によって生計をともにしていた遺族のうち、最も優先順位の高い方が受け取ることができます。なお遺族基礎年金を受給できる遺族はあわせて受給が可能です。
受給者 | 詳細および注意点 |
1.妻 | 子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給可能。 |
2.子 | 18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人。 |
3.夫 | 死亡当時に55歳以上である人に限定。
受給開始は60歳から。 ただし遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金の受給が可能。 |
4.父母 | 死亡当時に55歳以上である人に限定。
受給開始は60歳から。 |
5.孫 | 18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人。 |
6.祖父母 | 死亡当時に55歳以上である方に限定。
受給開始は60歳から。 |
<優先順>
引用元:日本年金機構
受給金額
遺族厚生年金の受給金額は遺族基礎年金と異なり、亡くなった人の厚生年金の加入実績に基づいて算出されるため、個人によって違ってきます。
厚生年金の加入実績とは、厚生年金への加入期間や保険料の納付額、給与や賞与等です。
簡単にまとめると、受取金額は、老齢厚生年金の4分の3です。次の計算式で算出されます。
7.125/1,000
×
2003年3月までの保険に加入している期間(何ヶ月か)
+
平均標準報酬額
×
5.481/1,000
×
2003年4月以後の加入している期間(何ヶ月か)
※上記の計算式で算出された数字に、4分の3をかけると遺族厚生年金の受取金額がわかります。
※平均標準報酬月額は、2003年3月までの加入している期間の標準報酬月額を平均したものです。
※平均標準報酬額は、2003年4月以降の加入している期間の標準報酬月額に標準賞与額を足して計算した平均額になります。
受給金額を決定する計算式はかなり複雑ですので、正確に確認したい方は、年金事務所に問い合わせてみてください。
受給期間
受給者別に受給できる期間をまとめると、以下のようになります。それぞれ、子どもがいる場合といない場合、また配偶者が亡くなったときの妻や夫の年齢により異なります。
■受給者が妻の場合
<子供なし>
夫が亡くなったときの年齢 | 支給期間 |
30歳未満 | 5年間 |
30歳以上 | 一生涯(中高齢寡婦加算も受給可能) |
<子供あり>
夫が亡くなったときの年齢 | 支給期間 |
全年齢 | 一生涯(中高齢寡婦加算も受給可能) |
■受給者が夫の場合
<子供なし>
妻が亡くなったときの年齢 | 支給期間 |
55歳未満 | 5年間 |
55歳以上 | 一生涯(支給は60歳から) |
<子供あり>
妻が亡くなったときの年齢 | 支給期間 |
55歳未満 | 需給なし |
55歳以上 | 一生涯 |
■受給者が子・孫の場合
受給できる期間は、18歳になって迎える年度の3月31日(障害等級1級・2級の障害の状態にある場合は20歳未満まで)を経過するまでです。
受給期間中であっても、子や孫が結婚した場合や養子縁組をした場合は、支給は終わります。
■受給者が父母・祖父母の場合
被保険者が、死亡当時に55歳以上である方に限ります。受給開始は60歳から一生涯です。
申請手続き
遺族厚生年金は、申請をしないと受給できません。手続きは、年金事務所または年金相談センターの窓口で行ないます。
<必要書類>
年金請求書 | 年金事務所、年金相談センターの窓口で入手可能。日本年金機構のサイトからもダウンロード可能です。 |
その他書類等 | 年金手帳
戸籍謄本や住民票の写し 死亡者の住民票の除票 請求者の収入が確認できる書類 市区町村長に提出した死亡診断書(死体検案書等)のコピー 受取先金融機関の通帳等(本人名義) 印鑑 など |
※個別の必要書類は、日本年金機構のサイトで確認可能。
受給金額が加算される制度
遺族厚生年金には、夫と死別した妻(寡婦)の遺族厚生年金に加算される寡婦加算制度が設けられています。「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」の2つです。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算は、夫が亡くなった際に40歳以上65歳未満の妻の遺族厚生年金に加算される制度です。子供がいない場合が条件ですが、子供がいる場合も、子供が18歳になった年度の3月31日まで、または障害年金の障害等級1級、2級で20歳未満までは加算されます。
加算額の目安は、老齢基礎年金の約4分3です。
また、妻が65歳になると老齢基礎年金が受給できるので、中高齢寡婦加算はなくなります。
経過的寡婦加算
妻が65歳になり老齢基礎年金を受けるようになると、65歳までの中高齢寡婦加算に代わり「経過的寡婦加算」が加算されます。
この制度は、老齢基礎年金の額が生年月日によって老齢基礎年金の額が少なくなってしまう場合に、65歳以降の年金受給額が低下するのを防ぐことが目的です。
まとめ
亡くなった人が会社員などで、厚生年金に加入していた場合に、被保険者の遺族に支給される「遺族厚生年金」があることをおわかりいただけたでしょうか。
遺族厚生年金の支給額は、亡くなった人の厚生年金保険への加入期間やその期間の報酬額によって異なります。
また、遺族が遺族厚生年金を受給できる期間についても、被保険者が亡くなったときの年齢や子どもの有無によって異なるため、一律ではありません。
その他、遺族厚生年金には複雑な規定があり、受給額の計算もむずかしいので、受給額や受給期間について確認したい場合は、年金事務所や社労士などの専門家に問い合わせることが賢明でしょう。
生計を支えてくれた大切な家族に万一のことがあった場合、経済的なダメージも大きいものです。そんな時に、この記事を参考に、遺族厚生年金の制度を活用していただき、新しい生活の礎になればと思います。
【監修】栗本喬一(くりもと きょういち)
- 略歴
- 栗本喬一(くりもと きょういち)
- 1977年生まれ
- 出生地:東京都(愛知県名古屋市育ち)
- 株式会社東京セレモニー 取締役
- ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
- 「おくりびとのお葬式」副社長として、葬儀会社の立ち上げ。「おくりびとアカデミー」葬儀専門学校 葬祭・宗教学 講師。
- 株式会社おぼうさんどっとこむ
- 常務取締役として、僧侶派遣会社を運営。
- 株式会社ティア
- 葬祭ディレクター、支配人、関東進出責任者として一部上場葬儀 社の葬儀会館出店、採用、運営を経験。
- 著書:初めての喪主マニュアル(Amazonランキング2位獲得)
プロフィール