親や子など血縁が濃い場合でも遺体の引き取りは拒否できます。また遺体の引き取りと相続の有無は別問題です。しかし相続は葬儀や埋葬などの費用負担について大きくかかわります。この記事では遺体の引き取り拒否をする場合の問題点について詳しく説明します。
「顔も見たくない親族の遺体も、自分が引き取らないといけないの……?」
ご家庭のさまざまな事情から疎遠になっている親族の遺体でも、自分以外に親族がいなければ引き取って面倒を見なければいけないのでしょうか。
結論を言えば、近い血縁の親族であっても遺体の引き取り拒否はできます。
とはいえ、
「もし警察から連絡があった場合は引き取りを断れないのでは?」
「引き取らなかったら遺体はどうなるの?」
「火葬などの費用は誰が支払うのか?」
など不安に感じられる部分も多いと思われますし、いったい誰に聞けばよいか迷ってしまうのではないでしょうか。
この記事では、遺体の引き取り拒否をした場合の処理、遺産相続との関係、費用負担について詳しく解説します。
法律的な観点のほか心情面や金銭面についてのアドバイスも含まれているため、遺族としてどうするのがベストな方法かがわかります。
「遺体の引き取りはイヤだけど、本当に断っても問題がないのか?」と不安に思われている方は、この記事で解説されている内容を読めば解決しますので、ぜひ最後までお読みください。
INDEX
遺体の引き取りに法的義務はない
家族や親族だからといって、必ず遺体を引き取らなければならない義務はありません。法律でも定められておらず、遺体引き取りの可否については遺族の判断に委ねられています。
ただ、近親者であれば引き取った方が無難であることが多いのも事実です。
なぜなら、遺体の引き取りをしないことで、近隣から好奇の目で見られたり、心無い発言を受けたりするかもしれないからです。
また遺族自体も道義的な部分で悩まされたり、良心がとがめたりすることも十分考えられます。
遺体の引き取りについては、故人との関係性と照らし合わせて遺族間でよく話し合い、冷静な判断が必要となるでしょう。
故人から引き取りの指名をされているケースがある
故人の遺書や生前の発言で、遺体の引き取り先として指名されている場合があります。
引き取り指名については故人の発言だとはっきりわかっていれば、書面で残されていなくても故人の遺志として尊重されます。
このケースでも遺体の引き取り拒否は可能ですが、感情に任せた早急な判断は避け、遺族や有識者と相談して決めるとよいでしょう。
遺体発見から葬儀までの流れ
遺体発見から葬儀までの流れは、連絡元の違いと遺体引き取りの有無によって異なります。
遺体発見の連絡
遺体が発見されてからの連絡は、主に次の3か所からとなります。
・自治体から
・火葬場から
いずれも遺体の引き取り拒否は可能ですが、状況によっては断りにくいケースがあります。
どのような時でもあわてず、冷静な対応を心掛けるようにしましょう。
警察から
事故や事件、孤独死で身元が判明したなどの場合、警察から連絡があります。
どれだけ疎遠にしている親族でも、身元が判明した場合には必ず連絡が来ます。
疎遠にしているとはいえあくまで身内という扱いですので、遺体引き取りの可否にかかわらず警察へ出向いての手続きは必須です。
遺体の引き取りについては基本的に遺族側の意思が尊重され、引き取りを強要されることはほとんどありません。
自治体から
遺体が警察から故人の亡くなった自治体に引き渡されたあと、自治体から連絡のある場合があります。
病院で亡くなった場合でも遺体が自治体で管理されている場合は、自治体からの連絡となります。
このケースでも基本的に引き取り拒否は可能ですが、自治体によって手続き等の扱いが異なる可能性があるため、一度調べてから再度連絡するとよいでしょう。
火葬場から
遺体の状況によっては、すでに火葬まで済ませた状態で火葬場から連絡が来ることがあります。この場合も地域や火葬場によって、扱いがかなり異なります。
関西ではおもに部分収骨(遺骨の一部だけを収骨)となるので、比較的引き取り拒否に応じてもらいやすいです。
一方関東では全収骨(すべての遺骨を収骨)が原則となるため、「供養する場所がない」などの理由で引き取り拒否を断られる可能性があります。
いずれの場合でも引き取り拒否の権利は基本的に遺族にありますので、どう対応するか周囲に相談して決めるなど、冷静な対処が必要となります。
葬儀の取り扱い
遺体引き取りの可否によって、その後の葬儀の取り扱いが異なります。
遺体を引き取る場合
遺体を引き取る場合は、葬儀と墓地の手配は引き取った遺族がすべてを手配する必要があります。すでに荼毘に付されていても同様で、遺骨を引き取った遺族によって埋葬などが必要です。
他に遺族がいる場合は、どのような形で葬儀や墓地の手配を実施するかすり合わせしておくと、事前にトラブルを回避できます。
遺体の引き取りをする場合は、警察より「死体検案書」を発行してもらいます。死体検案書を受け取ったのちに役所にて「死亡届」の手続きをし、葬儀の手続きをしましょう。
葬儀を執り行う場合は葬儀社に連絡を取り、どのような形にするか相談して進めるとスムーズです。
火葬のみをおこなう「直葬」であれば、費用を大きく抑えることが可能です。
直葬の流れや費用については下記記事もご確認ください。
・直葬の費用相場は20万円!安く抑える為の7つのポイントと注意点
・葬式をしないことは可能なのか?儀式を行わない直葬という選択肢を完全解説!
遺体の引き取りを拒否した場合
遺体の引き取りがなされなかった場合は、「行旅死亡人(こうりょしぼうにん、身元が判明せず引き取り手のない死者のこと)」として扱われます。
行旅死亡人は発見された地域の火葬場で火葬され、無縁仏として自治体にて埋葬されるのが基本です。
遺体の引き取り拒否と遺産相続の関係
遺体の引き取りと遺産相続は別の問題なのですが、並行して進める必要があります。
遺体引き取りは遺産相続と別問題
遺体の引き取りと遺産相続には関連性がなく、法的な手続きが必須となります。
仮に、遺体を引き取った場合、遺産相続の有無に関係なく火葬・埋葬をする必要があり、逆に、遺体の引き取りを拒否しても遺産相続の権利は放棄されません。
葬儀の費用負担は遺産相続と大いに関係がある
遺体の引き取りを拒否してもしなくても、遺産相続の有無によって葬儀の費用負担が変わります。
遺体引き取りを拒否した際の費用は、火葬を実施した自治体がいったん立て替え、故人の遺産から支払い、不足が出れば遺体の引き取り有無とは関係なく遺産相続人の負担となるのです。
遺産の相続放棄や遺産相続人が金銭的に苦しく支払いできない場合、故人の扶養義務者(直系血族および兄弟姉妹)に支払いの負担が生じ、それでも費用の支払いが難しい場合、最終的に自治体が負担します。
公的な補助金の使えるケースはありますが、状況によりケースバイケースとなるので役所の窓口や専門家に確認してみるとよいでしょう。
孤独死などで別途遺品整理や特殊清掃が必要な場合、費用負担の判断が難しいので専門家に相談するのがベストの方法だといえます。
遺体の引き取り拒否を決める前の注意点
遺体の引き取りは非常にデリケートな問題ですので、一時の感情に振り回されず落ち着いた判断が求められます。
・引き取り拒否に関係なく相続手続きは早めに行う
これらに注意して進めることで、遺体引き取りに関して考えられるトラブルを回避できます。
冷静になって遺族や周囲の人に相談してみる
生前の故人との関係性を考えた際、いくら近親者とはいえどうしても遺体の引き取りを拒否したくなるケースがあるかもしれません。
そこで感情的にならず、いったん落ち着いて自分自身を客観的に見てみるのが大切です。
周囲の目や良心の呵責など、ゆくゆく心配事の出る可能性が大いに考えられるため、他の遺族や信用できる周囲の方に相談してみるのも一つの方法です。
話を聞いてもらうだけでもある程度冷静さを取り戻せるため、自分だけで決めずに話し合いの場を持つとよいでしょう。
引き取り拒否に関係なく相続手続きは早めに行う
遺体の引き取り拒否とは別に、並行して遺産相続の手続きを進めておくのが大切です。
葬儀の費用負担の問題があるため、遺産相続については相続の有無にかかわらず、周囲と相談してできるだけ速やかに手続きを進めましょう。
また遺産相続と遺体引き取りのどちらも拒否する場合、3か月以内に故人の居住地の家庭裁判所で手続きが必要となります。
心情としてはなかなか複雑でしょうが、後々のトラブルを未然に防ぐためにできるだけ早めに対処しておくのがよい方法です。
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まとめ
遺体の引き取り拒否は遺族の権利として認められており、法的にも問題はありません。
しかしながら遺産を相続するのであれば、遺体の引き取りを拒否しても葬儀の費用負担は免れません。
遺体の引き取りは非常にデリケートな問題であり、冷静な判断が必要です。
心情的な部分や周囲の目など気になる部分が多ければ、近親者であれば遺体を引き取るのが無難であるのは間違いありません。
一時的な感情に振り回されることなく、他の遺族や周囲の人に相談して決めるのが賢明だといえるでしょう。
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【監修】栗本喬一(くりもと きょういち)
- 略歴
- 栗本喬一(くりもと きょういち)
- 1977年生まれ
- 出生地:東京都(愛知県名古屋市育ち)
- 株式会社東京セレモニー 取締役
- ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
- 「おくりびとのお葬式」副社長として、葬儀会社の立ち上げ。「おくりびとアカデミー」葬儀専門学校 葬祭・宗教学 講師。
- 株式会社おぼうさんどっとこむ
- 常務取締役として、僧侶派遣会社を運営。
- 株式会社ティア
- 葬祭ディレクター、支配人、関東進出責任者として一部上場葬儀 社の葬儀会館出店、採用、運営を経験。
- 著書:初めての喪主マニュアル(Amazonランキング2位獲得)
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