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樒とは?榊との違いは?仏事に必須の樒を解説!

Feb 11 2021

葬儀だけでなく法事や仏壇へのお供えとして使われる 樒(しきみ)。榊との違いや葬儀でなぜ使われるようになったかご存知の方は少ないのではないでしょうか?本記事では、樒を供える意味や育て方、毒性についての注意点もあわせて詳しくご紹介致します。

樒(しきみ)とは葬儀や法事、仏壇などのお供えなど、仏事に欠かせないとされる植物です。

仏教であれば宗派を問いません。日常的に目にすることが少ないため、神事に使われる榊と混同している人も多いようです。しかし、もともとはお供えとしてだけでなく、葬儀においてさまざまな用途がありました。

今回はその歴史もあわせて、樒という植物の基礎知識や、仏事においてどのような用途があるのかなどを詳しく解説致します。

樒(しきみ)とは?

樒という植物を「知らなかった」「名前は聞いたことがあるがよく知らない」という人も少なくないでしょう。ここではまず、樒の特徴や名前の由来など、基本的な情報をお伝えします。

樒(しきみ)について

樒(しきみ)はマツブサ科シキミ属に分類される常緑樹で、「櫁」「梻」と表記したり、地方によっては「シキビ」と言うこともあります。葉や枝が独特の芳香を放つので、「ハナノキ」「コウノハナ」「コウノキ」などの別名でも呼ばれ、葉や樹皮は乾燥させて、焼香の際に使う抹香や線香の材料としても使われています。これは白檀や香木など、お香の香りのもととなる樹木が日本で育ちにくかったためです。

樒の香りは故人を邪気や獣から守るとされたばかりでなく、冷蔵技術のなかった時代には遺体の腐敗臭をカバーする目的でも重用されました。そうした心配のなくなった現代でも、樒を使う風習は残っており、葬儀などの仏事やお供えには欠かせない植物の一つです。

樒(しきみ)の名前の由来

樒の名は、古くは万葉集や山家集、源氏物語や枕草子にも見られます。

その香りや可憐な白い花は和歌にも詠まれ、人々に愛されてきました。しかし、実は樒には葉や花、茎、根などすべてに毒があります。特にシイに似た実には特に毒性の高いアニサチンが多く含まれており、食べると嘔吐や腹痛、意識障害などの中毒症状や、最悪の場合には死に至ることから、「悪しき実」と呼ばれていました。

「しきみ」の名は「あしきみ」から「あ」が落ちたものと言われています。また、独特の香りがあることから「臭き実」から転じた、実が平たく敷物のようであったため「敷き実」と呼ばれるようになったなど、さまざまな説があります。

榊(さかき)との違い

同じ常緑樹のためか、樒は神道の玉串奉典(仏教の焼香にあたる)に使われたり、神棚にお供えしたりする榊(さかき)と混同されることが多いようです。しかし、双方を比較してみると、葉の形状がまったく異なることがわかるでしょう。樒と榊の両方を売っているスーパーや生花店もあるので、機会があったら見比べてみてください。

【樒と榊の違い】
●樒の葉は肉厚でやわらかく、波打っているが、榊は硬くて平べったい
●樒の葉は向きが不揃いだが、榊は揃っている
●樒の一枝には葉が5枚ついているが、榊の葉は左右対称に並んでいる
●樒の葉には香りがあるが、榊にはほとんどない
●榊の方が葉の緑色が濃い

樒は「梻」とも書くため、「主に仏教で使われる樒には木へんに佛(仏の旧字)があり、神事に使う榊には木へんに神がある」との言い伝えもあります。しかし、実際には神事にも樒を使うことがあったようです。現代でも京都の愛宕神社など、樒を神木として神事を行っているところが残っています。

樒(しきみ)と仏教の関係と特徴

樒はなぜ、仏事に使われるようになったのでしょうか?それは、樒と仏教には深い関わりがあると考えられてきたからです。

仏様のいる世界の「青蓮華」と似ている

仏教の経典にはしばしば青蓮華(しょうれんげ)という花が登場します。青蓮華は仏様の世界に咲くと言われており、天竺(インド)でもやはり仏事には欠かせないとされています。青みがかった白い花と細長い葉が特徴で、仏教では最上の花と位置づけられ、青い目をしていたというブッダになぞらえて「仏様の目」という異名でも呼ばれています。

しかし、日本では青蓮華が手に入りにくかったため、代わりとして樒が使われるようになりました。葉の形が青蓮華に似ていたためと言われています。また、鑑真和上が唐から樒を持ち帰って青蓮華の代用とした、空海が使い始めたなど、さまざまな説がありますが、万葉集や山家集などの和歌集、源氏物語、枕草子などにも樒の名が見られるように、古くから存在していたことは間違いないでしょう。

また、仏教では香りは大切なものとされています。仏壇に炊きたてのご飯やその年初めての果物などをお供えするのは、亡くなった人にとってその香気がごちそうだからです。そして、線香や抹香などを焚くのは、邪気や悪霊を祓うためです。樒が仏教で重視されるのも、特有の強い香りが故人や先祖の霊魂を慰め、清浄さを保つと考えられたからでしょう。

土葬の際、獣よけとなる

現代ではほぼ100%が火葬ですが、古来日本では埋葬方法といえば土葬が一般的でした。

しかし、遺体が土中で腐敗すると強い臭いがするため、深く埋めても野犬などの獣に荒らされたり、虫がわいたりするという問題があります。そこで、強い香りや毒性、防虫・殺菌作用のある樒が用いられるようになったのです。葉を遺体の上に敷き詰めたり、埋葬場所の周囲に樒の木を植えたりしたのも、獣や虫を遠ざけ、故人が安らかに眠れるようにという遺族の心の表れなのです。

一年中きれいな緑色を保ち長持ちする

樒は一年に3回も芽が出る常緑樹なので、冬でも葉が枯れて落ちるようなことがありません。花がない季節や、花が手に入らないときでも、仏様や故人にお供えをしたいという気持ちに、一年中生き生きとした緑色の葉をつけている樒はぴったりだったのでしょう。

現代でも、仏壇のお供えは樒だけで生花を使わない宗派もあります。代表的なのが日蓮正宗や創価学会です。また、浄土真宗では水もお供えしません。華瓶(けびょう)に樒だけをさしてお供えすることでその場が清浄になり、浄土真宗で極楽にあるとされている八功徳水(はっくどくすい)という清らかな水を表すと考えられているからです。

そして樒は花よりもはるかに長持ちします。水を毎日取り替えれば、数週間持つこともあるほどです。こうした生命力の強さも、生の象徴として仏教の世界でも尊ばれたのかもしれません。

水が腐りにくくなる

仏花としてスーパーや生花店などで売られている花束には、必ずと言っていいほど樒が入っています。これは樒がお供えとされているからだけでなく、花瓶の水が腐りにくくなる作用があるからです。よく花瓶の水がヌルヌルにならないように、水に10円玉やごく少量の食器用洗剤を入れるとよいと言われますが、樒を入れれば必要ないでしょう。故人の好きだった花や、花束を解してお供えする場合にも、樒を加えると花の持ちがよくなります。

ただし、まったく腐らないというわけではないので、水は定期的に取り替えることをおすすめします。また、水を消毒する働きもありません。食器をつけたり、うがいなどに使ったりすることは絶対にしないでください。

樒(しきみ)を用いる場面

続いては、実際に仏事で樒がどのように用いられているのかを見ていきましょう。

会場入り口に飾られる

主に関西地方に見られる風習として、葬儀会場の入り口付近に花輪や供花の代わりに飾る門樒があります。大樒・樒塔とも呼ばれ、邪気を払うとされているだけでなく、供花よりも格が高いとして、花を飾らず門樒だけを立てることもあります。余談ですが、寺院によってはお正月に門松の代わりにするところもあるそうです。

しかし、近年では小規模な葬儀会場で行うことが増えているので、ある程度の置き場所を必要とする門樒は減少傾向にあります。葬儀に贈る場合は、必ず葬儀会場に受け付けているかどうか確認するようにしましょう。

祭壇に飾られる

祭壇の両側後方にも、二点樒と呼ばれる一対の樒を飾ることがあります。門樒と合わせて、四方を樒で囲むことで葬儀会場に結界を張り、遺体や参列者を邪気や悪霊から守るという考えに基づいています。

また、祭壇そのものを飾るのにも樒は使われます。白木の祭壇に菊の花と一緒に飾ったり、祭壇全体を生花で覆う「花祭壇」で緑を添えたりと、さまざまな用途があります。

宗派によっては生花を使わず、樒だけで祭壇を飾ります。例えば、日蓮正宗の経典「法華経」の中には、樒について説いた「木樒」があります。常に緑色の葉をつけ、色を変えることのない樒を日蓮上人の永遠の命を意味する「常在不変」になぞらえています。そのため、日蓮宗の葬儀では故人にも永遠の命を得られるよう、祈りを込めて祭壇を樒だけで飾るのです。

祭壇についてさらに詳しく知りたい方は、「葬儀の祭壇はどう選ぶ⁉︎葬儀に使用する祭壇の種類について」をご覧ください。

納棺の際に使われる

昔は遺体を数日は家や寺院に安置するのが普通でしたが、現代のような冷蔵技術はありませんでした。そのため腐敗しやすく、夏などは短時間で悪臭を放つようになることもめずらしくなかったのです。

樒の強い香りは、そうした遺体の臭いを紛らわすために使われていました。樒を納棺の際に遺体の下に敷き詰めるのも、先に紹介した獣よけとしてだけでなく、臭い消しの意味もあったのです。現代ではドライアイスの使用やエアコンの普及で遺体が傷むようなことはないので樒を敷く風習はなくなりつつありますが、地方によってはまだ残っているところもあります。

また、亡くなると主に家族が、水を含ませた脱脂綿などで故人の唇を湿らせます。仏教では本来亡くなる直前に与えるもので、「末期の水」「死に水」と呼ばれます。もともとは仏事の一つとして、樒を使って行われていました。仏教と縁が深い植物のためでしょう。小さい器に樒の葉を一枚浮かべて清めた水を、脱脂綿や新しい筆先にとって使いますが、現代でもまだ、樒の葉で湿らすことがあります。

納棺についてさらに詳しく知りたい方は、「納棺とは?意味・流れ・入れるもの・マナーを完全解説!」をご覧ください。

一本花として飾られる

一本花とは、枕飾りを作る時に飾る花のことです。枕飾りは故人の遺体を納棺するまで、安置された場所の枕元にしつらえる小さな祭壇で、香炉や燭台、お供え物とともに花瓶が置かれます。花は一本だけさすのが習わしですが、これは釈迦の弟子が花を一本だけ持って歩いている時に釈迦の入滅(亡くなること)を知らされたことに由来すると言われています。

樒は菊の花と並んで、一本花によく使われてきました。遺体の発する腐敗臭をわかりにくくする、虫よけとするといった実用的な理由だけでなく、樒の強い香りや毒性が獣や邪気を遠ざけ、場を清めて故人を守るという考えが受け継がれてきたのでしょう。

葬儀のみならず、お墓に供えることもある

樒が使われるのは葬儀の時だけではありません。お墓に供える花にも添えられます。お墓はほとんどの場合屋外にあるので、特に夏場などはお供え物に寄ってくる虫や動物に荒らされる心配があります。そこで、お墓をきれいに保つために強い香りを持つ樒を供えて虫や動物たちを遠ざけるのです。

樒の香りのもとである成分の一つのサフロールには、虫よけの効果があります。ノミやダニ用の殺虫剤などに使われていることからも、有効性が期待できます。

また、花と一緒に入れておくと水が腐りにくくなるので、長持ちするという効果もあります。樒の強い香りは、お墓から邪気を祓い、清浄な場とする線香やお香のかわりにもなるとして、仏花として売られている花束にはたいてい入っています。地方や宗派によっては生花を入れず、樒だけをお供えすることもあります。

樒(しきみ)の代わりとなる「板樒」や「紙樒」

住宅事情や家族構成などの変化により、小さな会場での葬儀が増加傾向にあります。かつてのように会場の入り口に飾る大きな門樒や花輪も少なくなりました。その代わりに、板樒や紙樒という形で、故人への弔意を表すようになってきています。

板樒

板樒とは、葬儀会場の入り口に並べる、名前と所属を書いた板のことです。門樒の代わりとなるもので、場所をとらないというメリットがあります。主に故人の地元の自治会が中心となって行うとされており、関西(東大阪市)で始まった風習と言われています。小規模な葬儀会場の場合、門樒や花輪を建物の外に飾ることを禁止されていたり、大きすぎるとして断られたりすることがありますが、板樒ならそのような心配はありません。

また、その場でお金を添えて申し込めばすぐに対応してもらえるので、生花や門樒のような事前の予約や配送の手配も不要です。

紙樒

紙樒は板樒と同じように、紙に名前や所属を書いて貼り出してもらうものです。遺族が置き場所や後始末に困らないようにという自治会の気配りから始まったと言われており、やはり関西から広まった風習です。また、板樒も紙樒も、お返しのいらない香典ととらえられています。

こちらも事前の申し込みは必要ありません。受付に紙樒の受付所が設けられていれば、お金と一緒に手続きができ、その場で書いて掲示してもらえます。ただし、板樒も紙樒も、生花や門樒同様、一対(2つ)が基本となります。

樒(しきみ)を扱う際の注意点

業者に葬儀の準備や進行を任せる場合はまず問題ありませんが、法事の時などにスーパーや生花店にて自分で樒を用意する時は、榊と間違えないようにしましょう。強い香りがあり、葉が波打っているのが樒です。それでも見分けがつかない、自信がないという場合は、必ず店員に聞いてから購入してください。また、地方によっては樒が手に入りにくいことがあります。使う予定がある時は、事前に生花店などに取り扱いがあるか確認しておくとよいでしょう。

樒は長持ちする植物です。店で売られている樒は水切りがされているので、買ってきたらそのまま花瓶に入れることができます。より長く持たせるなら、毎日水を取り替え、数日に一回は改めて水切りをするようにしましょう。

さらに、すでに述べたように、樒は葉や花、実、茎や根など全体にアニサチンをはじめとする毒性の強い成分を持っています。根のついた状態で売られていることもあるので、取り扱いには注意が必要です。

アニサチンは特に実に多く含まれており、樒の実は「毒物及び劇物取締法」によって植物で唯一、劇物に指定されています。実際に、中華料理の材料として珍重される八角(スターアニス)に似ているため、誤食して中毒症状を起こしたという事件も報告されています。

樒は常緑樹のため、民家の垣根にもよく見られます。また、丈夫で比較的育てやすいので、お供え用にと自宅で栽培している人もいます。意外に身近な植物なのです。香りや葉の形などで見分け方を知っておき、子供やペットが誤って実や葉を口にするようなことがないよう気をつけてください。

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樒(しきみ)についてのまとめ

樒は仏事に欠かせないものとして、長く人々のそばにある植物です。

樒が故人を獣や邪気から遠ざけ、場を清浄に保つと信じる人の心は宗派を問わず、時代を超えて受け継がれてきました。現代ではさまざまな形式の葬儀が行われるようになってきていますが、故人を悼んで樒を飾ったり供えたりする気持ちは変わることはないでしょう。葬儀やお墓のお供えなどで見かけたら、ぜひ樒に込められた思いや意味を感じてください。

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【監修】栗本喬一(くりもと きょういち)

略歴
栗本喬一(くりもと きょういち)
1977年生まれ
出生地:東京都(愛知県名古屋市育ち)

株式会社東京セレモニー 取締役

ディパーチャーズ・ジャパン株式会社
「おくりびとのお葬式」副社長として、葬儀会社の立ち上げ。「おくりびとアカデミー」葬儀専門学校 葬祭・宗教学 講師。
株式会社おぼうさんどっとこむ 
常務取締役として、僧侶派遣会社を運営。
株式会社ティア 
葬祭ディレクター、支配人、関東進出責任者として一部上場葬儀 社の葬儀会館出店、採用、運営を経験。

著書:初めての喪主マニュアル(Amazonランキング2位獲得)

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